(1)課題番号:0208

 

(2)実施機関名:京都大学防災研究所

 

(3)建議の項目:III.1.(2)準備過程における地殻活動

 

(4) 課題名: 南海トラフ沿いの巨大地震の予知

 

(5)関連する建議の他の項目:1.(1)ア、イ(2)ア、イ、ウ 2.(1)ア、イ  3.(2)イ

 

(6) 平成11年度の成果の概要

 前年度までに南海トラフ周辺における海底地震計による自然地震観測を数回おこなってきた。平成11年度は南海トラフ域との比較の意味で日向灘海域で観測を行った。日向灘域は南海トラフとひと続きのプレートが沈みこむ場所であるにもかかわらず、その地震活動の様相は大きく異なっている。南海トラフ域では約100年の間隔でM8の巨大地震が繰り返し起きているが、その間M6-7級の地震はほとんど起きない、また現在の微小地震活動も不活発である。対して日向灘周辺ではM6-7級の地震が頻繁に発生する一方、M8級の巨大地震が起きたことはない。また、1996年の2回のM6クラスの日向灘地震ではGPS等により顕著な余効変動が観測されている。

 1999年1月24日種子島東方海域でM6.2(気象庁による)の地震が発生した。これとほとんど同じ場所で1996年10月18日にM6.2の地震が起きている。1996年の地震はプレート間の地震であると考えられているが、1999年の地震が同一のすべり面が再び動いたものか、周囲のプレート内で起きたものかを調べることは、同地域の地震サイクルやプレート間カップリングを考える上で重要である。しかし、離島地域であるため近接した常設観測点がほとんどなく、破壊面の推定で決め手となる余震分布を精密に求めることは困難である。

 京都大学防災研究所は気象庁と合同で、海底地震計を用い上記1999年種子島東方沖地震の余震観測を行った。長崎海洋気象台の長風丸により設置は1999年4月24日、回収は同7月17日におこなた。京大の自己浮上式海底地震計4台と気象庁の海底地震計2台を震央のやや東寄りに設置した(西寄りは水深が浅いため設置せず)。合わせて気象庁の種子島観測点の連続記録も利用することとした。データは現在解析中である。

 地殻変動観測は、巨大地震の発生過程など地殻活動を研究する上で最も重要な情報をもたらすと期待される。しかし、海域における地殻変動については、観測手法すら確立しておらず全く未知といえる。そこで、海底地殻変動観測の、機器開発および基礎実験を早急に行い、観測手法を確立する必要がある。本研究では、GPSによる海上精密測位と海中における音響精密測距をリンクさせ、現在陸上のGPS観測網等で得られている変位ベクトルデータを自然延長した形で、海溝陸側斜面や海溝周辺等の海域の海底の変位データを得ることを目指している。

 これまでに我々が開発を行なったシステムは、平成10年度に相模湾の水深1500mの海域にて、GPSおよび海中音響測距を合わせた総合的な精度約10cmで海底基準点の測位を行なうことに成功している。

 従来、音響測距用の信号としてM系列と呼ばれる疑似雑音信号を用いていたが、多様な方法を試し比較するため、今年度は新たにチャープ波を用いたシステムを開発し、大阪湾内、串本沖、相模湾等で測距試験を繰り返し行った。今後、実用化のための実証段階として、半年〜1年以上のやや長期にわたる海底変位の実測を行ない、システムとしての問題点の洗いだし、さらなる改良を行なっていく予定である。

 

(7)平成11年度に公表された成果

片尾 浩・中村 衛・永井直子、南部沖縄トラフ・与那国海底地溝付近における海底地震観測、1999年地球惑星科学関連学会合同大会、Sm-020、1999.

Motoyama, I. M. Nakamura, H. Katao, Y. Takaki, H. Nishida, T. Kuno, Y. Morii, T. Higa, N. Nagai, N. Takei and H. Tanaka, Report on RN98 cruise by T/S Nagasaki Maru in the area around the southern Ryukyu Islands, Bull. Fac. Sci. Univ. Ryukyus, 67,43-51, 1999.

尾鼻浩一郎・片尾 浩・安藤雅孝、GPS-音響結合による海底測位システムの開発、1999年地球惑星科学関連学会合同大会、Sa-P003、1999.

Obana, K., H. Katao and M. Ando, Sea Floor Positioning by GPS-Acoustic Link System, The Island Arc, 8, 245-258, 1999.

Obana, K., H. Katao and M. Ando, Seafloor Positioning System with GPS-Acoustic Link for Crustal Dynamic Observation, EPS, 1999, in press.

松尾成光・平野憲雄・片尾 浩・安藤雅孝、超音波を利用した精密音響測距装置の開発、東京大学地震研究所技術報告、印刷中.

安藤雅孝・西村 宗、南海トラフと日向灘での地震の起り方の違い、1999年地球惑星科学関連学会合同大会、Si-P020、1999.

塩原 肇・望月将志・金沢敏彦・尾鼻浩一郎・片尾 浩・柿下 毅・斉藤 進、1998年5月4日石垣島南方沖地震のOBS余震観測、1999年地球惑星科学関連学会合同大会、Sm-P014、1999.

 

(8) 平成11年度に達成された成果の、全体計画の中での位置づけ

 海底地震計による自然地震観測は、陸上から精密に捉えることの困難な沖合いの地震活動を把握することを目標とする。平成11年度も継続して南海トラフに隣接する海域において観測を実施した。

 海底地殻変動観測は陸上の地殻変動観測網の延長という形で、海域における変動の様子を把握することを目標としている。平成11年度は前年度までに開発を行なった海底地殻変動観測システムを実用化するため、システムに改良を加え試験観測を行った。

 

(9) この課題の実施担当連絡者

 氏名:片尾 浩

 電話:0774-38-4237

 FAX:0774-38-4239

 E-mail:katao@rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp