(1) 課題番号：　０２０８

(1) 課題番号：　0208

(2) 実施機関名：　京都大学防災研究所地震予知研究センター

(3) 実施課題名：　南海トラフ沿いの巨大地震の予知

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要

( 4-1 ) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」（以下，建議）の項目：

　III．１．（２）準備過程における地殻活動

(4-2) 関連する「建議」の項目 (建議のカタカナの項目まで，複数可)：

　１．（２）ア，１．（２）イ，１．（１）イ，１．（１）ウ，１．(３)ア，１．

（３）イ，３．（１）ア

(4-3) 5ヵ年計画全体としてのこの研究課題の概要と到達目標：

南海トラフにおいては前回の活動以来50年を経過し，次の活動へ向けてひずみエネルギー蓄積がすでに始まっているとされ，この地域の巨大地震の発生予測は西日本の地震研究者の総力を上げて取り組むべき課題であると考える．　京都大学防災研究所地震予知研究センターでは，これまで南海地域の地震活動やGPS観測などを行ってきた．平成11年度より始まった本計画に基づいて海底諸観測に重点をおいて研究を開始した．平成11年度は，

(a)沈み込み帯の定常活動活発域における海底地震観測

として，種子島周辺での海底地震観測を実施した．しかしながら，南海トラフの地震予知の重要性に鑑みて，海底のみならず陸上も含めた総合的な研究を推進する必要があるとの認識に立ち，平成12年度より以下の研究を追加し，多項目の観測研究を実施することとした．

(b) ヒンジライン付近のGPSトラバース観測と地殻変動の数値モデル化

(d) 地震データに基づくフィリピン海プレートの形状，特に四国以北の推定．

これらの課題の概要と期待される成果は下記のとおりである．

(a)沈み込み帯の定常活動活発域における海底地震観測

　南海トラフ海域ではM8級巨大地震の余震活動以外の通常の微小地震活動は極めて低調であり，陸上から離れた海域でもあることもあって精密な地震活動を知ることは困難である．一方，同じフィリピン海プレートの沈みこむ日向灘・琉球海溝域では微小地震活動が活発であり，M6-7級の地震も頻繁に発生している．この活動様式の相違は両地域でのプレート間カップリングの性質の違いが表われているものと考えられる．

　中長期の観測を継続し南海トラフ巨大地震震源域における地震活動データを蓄積することが重要であることは議論を待たないが，比較対象として日向灘・琉球海溝域の活動様式を正確に把握することも南海トラフにおける研究に重要な意味をもつ．

　日向灘・琉球海溝域においても沖合の地震活動を陸上観測網により精密に把握することは困難で，精密な震源分布を求めるには，当該海域に海底地震計を設置して観測することが不可欠である．

　地震活動の正確な発生様式を押さえることは，沈み込み帯の応力状態やテクトニクスを考える上で重要である．通常の活動の中にも巨大地震の発生様式に深く関連した現象が見つかる可能性が高い．

（ｂ）ヒンジライン付近のGPSトラバース観測と地殻変動の数値モデル化

紀伊半島の昭和の東南海・南海地震による隆起・沈降の変換帯を横断し，プレート相対運動に平行なGPSトラバース観測網（GEONET観測局3点分，全長約40km内に6〜7ヶ所）を設け，これを年１回程度の頻度で繰り返し観測し，詳細な変位・歪場の空間的変化を捉えようとするものである．さらに，（ｄ）の課題から得られる地殻及び上部マントル構造を取り込んだ数値モデルを利用して，現在の固着域の下限を推定することを試みる．

この観測を平成15年度まで実施することにより，３年間の変動を得ることができる．

この地域の変動の大きさに鑑みると，この間に数ｃｍの変位が期待でき，現在の固着域を精度よく推定することができ，次期の南海地震の大きさを絞り込むことが可能となる．さらに，観測を継続し固着領域の広がりの変化を追うことにより，本震発生までの切迫性の評価も可能となるであろう．また，数値モデルの導入により，想定断層面上の応力分布等に基づく定量的な地震発生の予測を試みることも期待される．

（ｃ）南海地震予知に向けた地下水観測

昭和の南海地震に際して，紀伊半島や四国の太平洋側の井戸や温泉で，地震発生前に水位や湧湯量が変化したことが報告されているため，次の南海地震の予知に向けてこれらの井戸や温泉を中心に紀伊半島や四国において地下水の観測を行う．地殻変動や地震活動との観測と連動させることにより，直前の変化を捉え，確度の高い時間予測への寄与が可能となると考えられる．Ｍ８クラスの南海地震を想定しているが，それ以外の地震の前にも水位の低下や温度の変化がありうるので，そのような地震の準備過程あるいは直前過程についての情報も得られる．

(d) 地震データに基づくフィリピン海プレートの形状，特に四国以北の推定

京都大学防災研究所を中心に蓄積された地震データ，さらには平成11年度実施及び平成13年度予定の人工地震探査結果やレシーバー関数などを用いて，地震波速度構造，沈み込むフィリピン海スラブの形状などを推定する．特に，地震性のスラブが確認されていない四国以北に重点を置いた研究を行う．

この課題により，四国以北への延長も含め，沈み込んだフィリピン海スラブの三次元形状が明らかになる．この成果は，各種の数値シミュレーションの構造モデルを作成するための基礎資料となる．

(5)　平成12年度実施計画の概要

(5-1) 「平成12年度全体計画骨子の補足説明　３．具体的な課題提案の背景」のどの項目を実施するのか：

（２）−２−２

(5-2) 平成12年度項目別実施計画のどの項目を実施するのか：

主たる項目　２．（１）

関連した項目　１．（２），２．（２），６．（５）

(5-3) 平成12年度実施計画の概要：

(a)沈み込み帯の定常活動活発域における海底地震観測

平成12年度は昨年に引き続き，気象庁と合同で琉球海溝域で海底地震観測を行う．

自己浮上式海底地震計の観測可能期間は最長２ヶ月程度なので，特に地震活動の活発な海域をターゲットとするほうが多くの地震を記録でき効率がよい．中之島東方海域の海溝陸側斜面には微小地震活動が定常的に活発な場所がある．陸上観測網データによるこの地域の検知能力はM2.5が下限と考えられる．海底地震計でM1.5まで検知できるとすると1.5ヶ月の観測期間としても1000個前後の地震が観測できる計算になる．

(b) ヒンジライン付近のGPSトラバース観測と地殻変動の数値モデル化

平成12年度は，紀伊半島内にGPS観測点を５〜６ヶ所設置し，第１回の観測を実施する．

また，数値モデルのプロトタイプ作成に着手する．

　平成12年度はまず，昭和の地震前に変化のあった井戸で，現在も測定可能かどうかの調査を行う．また同時に新たな観測井も探す．

(d) フィリピン海プレートの形状，特に四国以北の推定

　平成12年度は，震源データ及び人工地震探査記録の整理，及びこれらの解析．

(5-4)　5カ年計画のうちの平成12年度の計画の位置づけと平成12年度の到達目標：

(a) 沈み込み帯の定常活動活発域における海底地震観測

　５ヵ年計画で，南海トラフ周辺の海域の微小地震活動を観測し，地域ごとの違いを明らかにすることとしており，平成12年度は，中之島東方海域の微小地震活動を捉えることを目標とする．

(b) ヒンジライン付近のGPSトラバース観測と地殻変動の数値モデル化

　今年度は観測点の設置と，第１回の観測により各観測点の精密な座標を決定することを目標とする．数値モデルは，既存の地球内部構造に関する資料に基づくモデルの作成を試みる．

　今年度は観測点の調査・設置と，観測開始を目標とする．

(d) フィリピン海プレートの形状，特に四国以北の推定

　平成12年度は，次年度以降に実施される予定の人工地震探査をにらみつつ，既存データの整理・解析を行う．

(5-5) 共同研究の有無：

(a)沈み込み帯の定常活動活発域における海底地震観測，において気象庁と共同観測を実施する．両機関あわせて8台の海底地震計を用いた観測を，本年7月から10月にかけて長崎海洋気象台の長風丸により行う予定である．地震計の設置は，７月２９日那覇出港，８月８日長崎港着，同じく回収は，１０月２４日鹿児島出港，１１月１日長崎港着の予定．

(6) この課題の実施担当連絡者（氏名，電話，FAX, e-mail）

実施担当連絡者：橋本　学，

Tel：0774-38-4191，Fax：0774-38-4190，

Email：hasimoto@rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp