1.「定常的な広域地殻活動」研究計画(補足説明) 

 

「定常的な広域地殻活動」計画推進部会

0.      策定の方針

 

地震発生の全過程を理解するには,地震発生の場の性質を解明し,地殻内への応力の蓄積・再配分過程を明らかにしなければならない.このような認識に立ち,建議は,地震発生に至る地殻活動の解明のための観測研究の推進の主要な項目の一つとして定常的な広域地殻活動を掲げた.この項目の中では,地震発生場における様々なスケールの不均質構造の解明とともに,地質学的時間スケールでみた,地震の繰り返し発生の規則性及び複雑性の解明が求められている.大学は,上記項目に関連した多くの実績及び基礎的研究成果を上げてきた.定常的な広域地殻活動に関して実施計画案を作成するに当たり,より具体的な研究テーマに細分化する必要がある.我々は建議の分類に準ずることとして,地震発生場の不均質構造の解明については,プレート境界地震及びプレート内(内陸)地震の発生場に大別して研究を進めるのが妥当と考えた.何故ならば,これら2つのタイプの地震は,その再来時間や地震のサイズに大きな差があり,また観測形態も異なる場合が多いからである.また,1999年には,海外において大地震が多発した.これらの地域において,当該国研究者と共同で観測研究を進めることは,本地震予知研究計画の推進にとっても重要であろう.ここでは,以下の4つの主要課題を掲げ,各課題毎にその実施計画を提案することとする.

(1) プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究

(2) プレート内部の地殻活動及び構造不均質に関する研究

(3) 地震発生の繰り返しの規則性と複雑性の解明

(4) 海外における観測・研究の推進

定常的な広域地殻活動モとして各大学から提案されている計画は,全国の大学が共同して行う大規模研究(地震研究所が提出している計画)及び個々の大学,或いは地理的に近い複数の大学が行うモregionalモな研究の2つに大別される.我々は,平成11年度の計画案策定と同じ基準で,各計画の策定及び順位付けを行った. 尚,個別に提案された計画であっても,他機関の計画と共通の方向性を持っている場合は,それらを一つのグループとしてまとめて,共通の課題名を設定した.この場合は,その実施・データ解析及び結果の解釈にあたり,大学・機関の密接な連携・協力が不可欠であろう. 地殻及び上部マントルには,様々なスケールの構造不均質性があり,この階層的な不均質性が地殻内への応力蓄積過程や地殻活動を支配する重要な要因と考えられる.従って,定常的な広域地殻活動で実施すべき構造不均質の研究は,建議の準備過程における地殻活動で実施される地殻内のより小さなスケールの構造不均質と密接な連携をとる必要がある.さらに,構造や地殻活動観測には,高額の費用が必要であることを考慮しなければならない.ここで提案する上記(1)(2)の研究課題においては,研究内容をより充実させ,また効率的な実施を図るため,地震準備における地殻活動で行われる研究の一部を取り込んである. また,大学以外の研究機関の関連プロジェクトとは,十分な調整を行い,密接な連携のもとで実施することが重要と考える.

 

1.      プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究 

プレート境界面でのすべりは時間的にも空間的にもゆらいでいる.それはまた,陸域の地震を引き起こす応力場のゆらぎの要因にもなっている.日本列島に沿ったプレートの沈みこみは,関東・東北・北海道地域の太平洋プレートと関東以西のフィリピン海プレートの沈み込みに代表される.日本海溝沿いの平均的なseismic coupling30%程度であり,ほぼ100%couplingをしている西南日本と著しい対照をなしている.従って,両地域におけるプレート境界面でのすべりの時間的・空間的ゆらぎの実態を把握し,それをもたらす原因を解明することは,地震予知研究を推進するうえで最も基本的で,かつ重要な課題である. 

この項目で実施すべき課題の概略を,優先順位に従って述べる.

 

(1)    太平洋プレート境界の構造及びプレート間カップリングに関する観測研究

この研究課題の最重要項目として,東北沖の太平洋プレートの沈み込みに関連する一連の研究を取り上げることとする.東北沖のプレート沈み込み過程を理解することは,プレート境界地震の発生予測にはもちろんのこと,陸域の地震の発生予測の研究もにおおいに貢献するものである.今年度は,自然地震を精力的に実施し,三陸沖のカップリングの空間的均質性を,微小地震の発生様式の面から解明することを目指す.具体的な計画案では,東京大学地震研究所及び東北大学から出されている海域観測及び東北大学・弘前大学を中心とした陸域諸観測を核とし,これら一連の研究が密接な連携のもとに実施されるべきと考える.海域における研究計画は,関係の研究者の議論を土台に立案されたものであり,また,共同研究として一般研究者にも参加の道を開いていることも大きな特徴として評価されよう.提案大学 東京大学地震研究所・0101,弘前大学・0401,東北大学・0501

 

(2)    フィリピン海プレートの沈み込み形態に関する観測研究 

フィリピン海プレートの沈み込み形態については,これまでの大規模な構造探査等によりその解明が進展しつつある.地震予知計画の枠外ではあるが,今後さらに,四国沖での3次元構造探査等の大規模な調査が実施される.これらの研究計画と連携しつつ,フィリピン海プレートの沈み込み過程の理解を深めることが重要である.西南日本の陸域下に沈み込んでいるプレートの深さは30-70kmであり,海域での観測が不可欠であるのは当然であるが,陸域からの実験観測でもプレートの形状等の研究が可能である.名古屋大学・高知大学・東京大学地震研究所で計画している陸域での諸観測は,京都大学・東京大学地震研究所が計画している海域での観測と合わせ,日本列島の主要な沈み込み帯である西南日本の大規模構造及び地殻活動の解明の緒を開くものと考える.提案大学 名古屋大学・0901,高知大学・1302,東京大学地震研究所・0119(準備過程),京都大学・0208(準備過程).

 

(3) 九州・琉球域の地殻構造及び地殻活動に関する観測研究 九州,琉球列島,台湾におけるプレートの沈み込みの形態,島弧及び背弧海盆の構造及び地殻活動については,多くの不明な点が残されている.この領域におけるフィリピン海プレートの沈み込み・衝突の様子は,中部・近畿・四国の場合と大きく異なる.九州大学,鹿児島大学,東京大学地震研究所などが計画している構造探査,自然地震観測やGPS観測は,フィリピン海プレートの沈み込み過程の地域性やそれに強く支配されている島弧・背弧側の地殻活動の特性を把握する上で重要である.提案大学 九州大学・11011102,鹿児島大学・12011203.

 

(4) 北海道北部地域におけるプレート境界に関する観測研究 北海道大学は,北海道北部のプレート境界の解明にむけての観測研究を継続して行う.この研究は,日本列島のプレート境界を確定するとともに,主要課題2の項目の日高を中心とする北海道の変形過程の研究とも密接な関わりを持つものである.提案大学 北海道大学・0302. 

 

2. プレート内部の地殻活動・構造不均質に関する研究

プレート内(島弧内)の地震発生過程を明らかにするためには,その構造的不均質を解明し,地震活動・地殻変動等の地殻活動との関連性を明らかにする必要がある.そのためには,単独の観測・実験手法では限界があり,幾つかの手法を有機的に組み合わせた総合的な研究が必要である.具体的には,地震学的手法や電磁気学的手法に基づく観測・研究を密接な連携のもとで実施することが重要と考える.ここで取り上げる課題として,地震発生の場を理解する上で不可欠な様々なスケールの構造不均質性と,その中での地殻活動を明らかにる研究を,重点的に取り上げることとした.これらの観測・研究は,地震発生準備過程の研究課題と密接な関わりを持っており,その実施に当たっては,十分な調整と連携が必要である.前年度は,大規模屈折法探査により,数10kmのスケールの構造の変化が明らかになりつつある.今年度は,より小さなスケール(数百mから数km)の構造不均質性を,反射法地震探査を中心とする観測によって解明する.今年度の探査領域は,日高衝突帯前縁部とし,そこでの地殻短縮の主要因と考えられている深部断層系,デタッチメント構造のマッピングを目指す.昨年の結果と総合し,十勝平野から日高山脈をへて石狩低地帯にいたる地殻衝突構造が明らかになると期待される.また,自然地震観測は,今年度も継続するものとし,日高山脈から陸側斜面(1982年の浦河沖地震震源域を含む)までの地震活動の様式(震源分布やメカニズム等)を明らかにして,同地域の応力場についての知見を得ることを目指す.特に衝突による地殻変形と,現在の地殻の動的特性の現れである地震活動や地震メカニズムから推定される応力場との関連性等の解明を目指す.また,トモグラフィ等により,制御震源探査のみでは不十分である,地殻の3次元的構造とその空間変化を解明する.このような研究の一部(例えば自然地震活動やGPS)は,ある程度の継続性を持って観測する必要があろう.従って,合同観測等によって重点的観測が行われた地域においても,規模を縮小などして観測・研究を継続させることも重要と考える. 更に,他省庁及び関連機関が実施している地殻構造や地殻活動に関するプロジェクトとも可能な限り連携を図り,成果を上げることが重要である.

 

(1)    北海道日高衝突帯を中心とする島弧地殻変形過程に関する観測研究

平成11年度からの2ヶ年計画として提案されている日高衝突帯を中心とする北海道地域の観測・実験は,制御震源探査と自然地震観測を密接な連携のもとに実施し,島弧ム島弧衝突帯の構造不均質を解明するとともに,そこでの地震活動,応力状態を把握しようとするものである.この観測・実験は,地震研究所の共同研究として一般研究者に参加の道を開いている.さらに各大学も予算を計上し,大学間の協力体制が確立されている.また,準備過程における地震活動における実施計画とも密接に結びついていることも大きな特徴で,この研究課題の最重要項目とする.しかしながら,これらの研究のそれぞれが,広域応力場の解明にむけてどのように実施され,どのような貢献ができるのか,必ずしも明確ではない.各大学からの提案の再調整等が必要である.提案大学 東京大学地震研究所・0105,北海道大学・0301, 0305,弘前大学・0402(準備過程),東北大学・0502(準備過程),京都大学防災研究所・0202,鳥取大学・1007,九州大学・1103

 

(2)    島弧下における電磁気学的構造不均質に関する観測研究 

地殻活動シュミレーションモデルに組み込むための物質や場の条件(温度や,水・メルトの含有量,ぬれ角の分布)に制約を与えることを目標とする.このために,島弧マントルスケールの大局的電気伝導度構造決定(ネットワークMT観測)と特定の地殻活動地域スケールの電気伝導度精密構造決定(広帯域MT観測)を目指した全国大学・国立研究所共同観測研究を実施する.平成12年度においては,まずネットワークMT観測について,光ファイバーのメタル芯線や自作電極とNTT交換所エリア内のメタル線を用いた観測を行うことで,北海道西北部や四国中国西部の未観測エリアをうめる.一方,昨年度地震波速度グループの合同観測が行われた日高衝突帯で広帯域MT観測を行い,地震波より得られる構造との対比を図る.

「準備過程」の項目においても,主要な地震断層・活断層周辺部の詳細な比抵抗構造を調査し,環境の異なる断層での結果を対比させ,断層下部や地殻下部の比抵抗構造,断層および周辺部での地下水流動などの特徴を把握することを目的として,各大学から各断層近傍での様々な電磁気的観測計画が出されている.これらの計画も,本研究項目と密接な連携を保ちつつ実施される予定である.提案大学 東京大学地震研究所・0114,京都大学・0202,北海道大学・0301,鳥取大学・10041006,京都大学・0204(準備過程)),東北大学・0502(準備過程),秋田大学・0601(準備過程),東京工業大学・0801(準備過程)),鳥取大学・1005(準備過程) 

 

(3) 東北日本地域における地殻不均質構造に関する観測研究 平成9-10年度に東北地域において.大規模な構造探査及び稠密自然地震観測か行われた.平成12年度も,島弧の不均質構造や地殻活動・地殻変形の詳細を把握する目的で,観測を継続する.提案大学 弘前大学・0402(準備過程),東北大学・0502(準備過程).

 

(4) 各地域の長期的・広域的地殻活動に関する観測研究上記2件のような大規模プロジェクト的な研究の形をとらない,各大学の地域性に根ざした研究も幾つか出されている.これらの研究計画は,各大学の維持している微小地震観測網・地殻変動・GPS観測網と連携しながら実施されるものであり,regionalな地殻活動を明らかにする意味で重要である.提案大学 北海道大学・0303,京都大学・02020204 (準備過程))鳥取大学・1003),九州大学・1104(準備過程),鹿児島大学・1202(準備過程).

 

(5) 日本列島全体にわたる広域的・長期的地殻活動に関する観測研究提案大学 京都大学・0202

 

3. 地震発生の繰り返しの規則性と複雑性の解明

建議では,定常的な広域地殻活動の項目の中で推進すべき課題として,地震サイクルの理論的背景となる地震発生の繰り返しの実態の解明が挙げられている.これは,地震発生の場における定常的運動及びその揺らぎを明らかにする意味でも,また地震の発生時期の長期的予測を行うための基本となるという意味でも重要である.特に,地震発生の繰り返しの間隔は数百年から数千年に及ぶ場合が多く,この目的を達成するには,地形・地質学的手法をとりいれた活断層調査及び津波痕跡調査或いは史料地震学調査に負うところが大きい.このような研究は,対象とした地震断層の物理的性質(震源の静的・動的パラメータ,破壊伝播様式,破壊強度分布等)の解明に貢献するものと考え,以下の3項目の課題を提案する.

 

(1) 活断層の地形・地質・地球物理学的調査 活断層調査関しては,地質調査所や自治体によって多数の調査が行われているが,これらは特に,活動間隔や最終活動時期を推定して今後の長期予測に役立てようとするものある.大学では,単に時間ではなく,地震時のずれの量やその空間分布等を推定して,地震発生の繰り返しモデルの検討や,強震動予測に役立つ震源モデルの推定手法の開発等を行う.特に,別府湾,四国南部,及び松本付近で地形判読,音波探査,地層抜き取り,トレンチ調査を行い,断層のずれの量を測定し,その空間分布を解明する.これらの研究によって地震発生時期の予測精度を高め,アスペリティの位置や破壊伝播方向などの予測を試みる.提案大学 東京大学地震研究所・0116

 

(2) 地質学的手法による古津波調査 津波痕跡調査により,歴史時代,先史時代の東海地震,南海地震と釧路沖地震など,海溝型地震の発生履歴についての検証を行う.提案大学 東京大学地震研究所・0102

 

(3) 史料地震学調査による断層モデルの推定 1854年安政伊賀上野自身,1847年善光寺地震など,中央構造線沿いの内陸部で発生した歴史地震につき,地震による発生事象一件ごとの詳細位置確定,データベース化を推進し,地質・地盤情報との相互検証を行い,それらの地震の発生機構の解明を行う.提案大学 東京大学地震研究所・0117

 

4.海外における観測研究の推進

1999年には,トルコ・台湾等で大地震が多発した.これらの地震の断層帯近傍の不均質構造や余震活動を把握することは,本地震予知研究計画の遂行にとっても重要である.実際,これらの地域における観測計画が幾つかの大学から提案されている.本地震予知計画の予算内でこれらの観測計画を完全に支援は困難であるが,科学研究費など別途予算を確保することによって遂行することを勧める.

 

(1)台湾における観測研究提案大学 東京大学地震研究所・01150118(準備過程).

(2)トルコにおける観測研究提案大学 東北大学・05020502.2(準備過程),東京工業大学・0802(準備過程).

 

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