2.「準備過程における地殻活動」研究計画

 

「準備過程における地殻活動」計画推進部会

 

大地震に至る準備過程の解明のためには,プレート間相互作用によって供給された 応力がどのように断層に伝えられて地震を発生させるのか,そのプロセスを詳細に明 らかにする必要がある.

 

(1)    プレート間カップリングの時間変化の解明

 

プレート境界における余効すべりや準静的すべりを定量的に把握することは,海域 の地震のみならず,内陸地震の長期予測においても非常に重要である.また,カップ リングの時空間変化と摩擦パラメータを関連づけることも重要である. そのため12年度においては,三陸沖周辺等の時空間変化が大きいと期待される地域 で,GPS・地殻変動観測,微小地震観測,構造探査の情報をもとに,プレート間カッ プリングの時空間変化が何に規定されているかを解明するための観測・研究を引き続き推進する.特に三陸沖においては固有地震的な活動をするクラスターが発見され, 次の「固有地震」は2000年中に発生する可能性が高いとされるので,それに備えた観 測を実施して,このクラスターの活動をさらに解析する.また,同様のクラスターが 他にも存在しているのかどうかの広域的な調査も必要である.一方,東海地域では,昨年来,地震活動に顕著な変化が現れており,カップリングが従来とは異なるステージに入った可能性が指摘されている.現在の状況がまさしく大破壊への準備過程を示している可能性もあることに留意しつつ,12年度においては,変化のパターンのより詳細な分析と現象の解釈を行なう.

 

(2)    地震多発域へのローディング機構の解明 

 

プレート間相互作用を起源とする応力が,内陸やプレート境界の特定の領域に集中 して地震を発生させる機構(ローディング機構)の解明が必要である.この機構には マクロな不均質性,特に非弾性的性質の不均質性が重要な役割を果たしていると考え られる. 12年度においても,中部山岳地帯周辺や活断層周辺等の,微小地震活動が活発で歪 速度も大きい地域で観測研究を行ない,GPS等によって推定された歪速度,地殻応力 や微小地震による応力方向の分布,微小地震の活動度等を比較し,変形集中域の特徴 を抽出する.11年度の成果として,プレート境界からのローディング様式が東日本と西日本でかなり異なることを示唆する結果が,活断層周辺の微小地震活動の解析から得られている.12年度においては,さらに各種データの比較検討を行なうことにより,変形集中域の共通的特徴と地域性を明確にすることを目標とする.

 

(3)    断層周辺の微細構造と地殻流体の挙動の解明 

 

ローディング機構の理解に基づき,大地震に至る過程を解明するためには,断層お よびその周辺の微細構造,歪や応力の集中過程を調べることが必要である.また地震 のトリガや群発地震の発生に寄与すると考えられる地殻流体の分布と挙動を調べることも重要である.11年度までの成果として,地震観測からは内陸地殻内の顕著な地震波反射面が多くの地域で見いだされ,電磁気探査からは微小地震発生域が高比抵抗域と対応する可能性が出てきた.そこで12年度には種々の計器による稠密観測からVp/Vs・減衰・異方性構造,散乱体等の分布を精度良く調べ,反射面の位置や比抵抗構造と比較 することにより,地殻内流体が地震発生に及ぼす影響を具体的に明らかにする必要が ある.また,これらの構造の時間変化を追うための稠密連続観測も実施する.一方,地震サイクルの様々な時点にある複数の断層を調べ,地球物理学的に断層比較研究を行うことも推進する.

 

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