3.「直前過程における地殻活動」研究計画

「直前過程における地殻活動」計画推進部会

 

「直前過程における地殻活動」計画推進部会の目的は、「地震発生準備の最終段階において活性化すると考えられる物理・化学過程の解明」である。

特に,

(I)           地震発生直前過程における地殻内流体が果たす役割と,

(II)        破壊核成長の過程

を物理学と化学の二つの観点から解明することを目指す.

 

目的達成には,次の三つのアプローチによって挙げられる成果を,有機的に結びつけることが不可欠である.

(a)    室内実験

(b)    テストフィールドでの野外観測

 (b-1)構造決定

 (b-2)地震発生直前ないし直後の物理量・化学量の実測データの収集

(c)数値モデリング

個々の研究者には,(a)(b)(c)いずれかに集中して研究を進めるのにとどまらず,常に他の手法によって得られた成果をとりこむことを求める.同時に,自分のメインフィールドの研究を進展させるために必要な要求を,他の研究チームに発信することを求める.

以下では課題I, IIのそれぞれについて,(a)(b)(c)の各アプローチ毎の研究計画を設定する.

 

[I]地殻流体の関与する過程の解明

(Ia) 室内実験 

現実の地球で想定される範囲内の環境条件を与えたときに,流動特性をあらわす定数(透水率,空隙率)および流動電磁気定数を決定するに足る実験式を提出する. この実験式は(Ic)での数値モデリングの入力として耐えるものでなくてはならない。

(Ib) テストフィールドでの野外観測

(比抵抗構造ならびに流動特性構造の決定) 

群発地震がおこりやすいテストフィールド伊豆半島での,流動特性構造および電磁気構造決定.群発地震域の広がりを目安とするならば,空間スケールとしては,深さ方向に15km,水平方向に30km程度を想定する.電磁気的雑音のきわめて高い地域特性を考慮した新手法を開発し,比抵抗構造探査をおこなう.非地震時の地下水位の変動など陸水学的な手法により,空隙率・浸透係数などの流動特性定数を推定.これらの構造定数は(Ic)での数値モデリングに用いられる.

(群発地震にともなう観測) 

群発地震の準備段階から終息までの全過程をとらえるべく,物理観測として3成分地磁気観測,全磁力連続観測,長基線自然電位連続観測,地殻変動連続観測,GPS連続観測,重力連続観測を実施する.物理観測に偏重することなく,ラドン・水素・ヘリウムなどの気体および塩素イオンなど地球化学的観測もおこなう.総合化の果実を得るために,これらの観測は同一テストフィールドで継続する.データは可能な限りテレメタリングし,群発地震発生にともなう変動をリアルタイムでとらえる. 得られたデータは(Ic)の数値モデリングの検証に用いられる.

(Ic) 数値モデリング

 (Ia),(Ib)で得られる物理定数をもとに,伊豆半島の電磁気・地殻変動についての統一的な数値モデルを構築する.モデルの評価には,(Ib)で観測される物理データが再現されるかという観点とともに,地球化学データと整合するか否かという視点も外してはならない.特に近年話題となっている電磁気学的な地震先行現象を説明する多くの理論が,マイクロフラクチャー仮説に立脚しており,力学的地震像(あるいは破壊核形成)と電磁気学的先行現象との融合のためにも統一的なモデルが必要である.

 

[II]破壊核成長の過程の解明

(IIa)室内実験 

高圧高温岩石破壊装置によるこれまでの研究で得られている構成法則に基づき、現実の地殻内での破壊現象に適用するために必要な,スケーリング則を確立する. 大型試料のすべり実験による巨視的すべりに至る過程における微視的接触状態の変化の検出手法開発と,安定すべりから不安定すべりに遷移する非可逆過程検出手法の開発を目指す

(IIb)野外実験 

南アフリカ金鉱山における半制御実験の継続.至近距離でマグニチュード・スケールの巾が大きい(ー2<M<5)多数の地震を観測できる利点を生かし,地震の準備過程,震源核形成過程とその規模依存性を明らかにし, (IIa)のスケーリング則を検証する.横坑およびボアホールでの歪み計センサーの高感度化をはかり,地震前・不安定滑りの開始をとらえる.「ACROSS」研究との連携も切に望まれる.

(IIc) 数値モデリング

クラックの相互作用などの数値シミュレーションの結果と,室内・野外実験との相互交流をはかる.

 

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