(1) 課題番号：0210

 

(2) 実施機関名：京都大学 防災研究所

 

(3) 課題名：直下型地震の地震環境評価

 

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその中での平成12年度までの成果

（以下の4-1、4-2、4-3について答える）

(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」（以下、建議）の項目（数字の項目まで、最も関連の深い項目を記入する）：

　　　１．地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進

　　　（４）地震時および地震直後の震源過程と強振動

 

(4-2) 関連する「建議」の項目 (建議のカタカナの項目まで、複数可)：

    （２）イ・エ、（４）ア・イ

 

(4-3) 「5ヵ年計画全体としてのこの研究課題の概要と到達目標」に対する到達した成果：（「12年度計画で述べた「期待される成果と地震発生予測におけるその意味」に対する成果を明示する」

　内陸の大地震の発生環境場を解明するのが５カ年全体の課題である。この目的達成のため平成12年度は主として同年10月に発生した鳥取県西部地震(M7.3)の発生域において、10年余り続いた前駆的群発地震、および低周波地震発生域、低比抵抗域と本震の破壊分布との位置関係を調べることによって本震発生前の環境調査を行った。この地震には約３秒間の初期破壊があり、その位置と上記の諸環境場との位置関係を調べている。５カ年の到達目標として、大地震発生前の諸現象と本震の破壊過程との因果関係に関する研究成果をあげたい。

　ある特定の活断層の現在の活動度と広域応力場との関係を調べるため、ＧＰＳによる稠密観測を実施しているが、観測開始からの年が短く、断層の測地学的な活動は検出していない。一方、地震学的な手法による断層の末端部における広域応力場の乱れの検出には成功した。微小地震活動の活動度は周辺の地震活動や広域応力場の影響を受け変化するものと考えられ、大中の地震前に地震活動の低下が見られる例も多い。これらの地震活動変化の事例を収集し、定量的評価手法を開発する。このように内陸大地震発生場としての活断層の定量的評価は目的達成に向かっている。

　地震発生の環境場には地下深部の流動体が関与していると考えられる。流動体の検出等は別途の計画で実施されているが、この研究課題では、すでに実績のある地殻変動連続観測がどのように地下水、特に間隙水圧の変化を捉えるかの研究も平成１２年度から開始した。地震発生環境場の研究の一端を担うものと期待している。

   特定の断層で大地震が発生した場合を想定し，シナリオ地震に基づく実地震記録を用いた強震動予測を行う方法の開発と評価を行う到達目標に対して，今年度は，全国展開されている強震データベースを中心として，中規模地震記録のデータ収集と実記録を用いた強震動予測手法を実際の地震シナリオをたてて具体的に行い，手法の妥当性や予測波形の特徴と震源パラメータの関係の分析を開始した．

 

(5)　平成12年度成果の概要（以下の質問に答える）

(5-1) 「平成12年度全体計画骨子の補足説明　３．具体的な課題提案の背景」のどの項目を実施するのか（複数の項目に関係している場合は、主たる項目と、関連した項目に分けて記入する）：

　　（３）内陸活断層周辺における不均質な応力・歪場の成因

　　　（３）−２．内陸の歪集中帯の変形様式

　　（５）断層面上の強度と応力の時空間分布

　　　（５）−２．不均一な強度場での破壊核成長過程

　　　（５）−３．滑り分布の再現性の検証

 

(5-2) 平成12年度項目別実施計画のどの項目を実施するのか（複数の項目に関係して

いる場合は、主たる項目と、関連した項目に分けて記入する）：

（６）関連する建議の項目

（２）イ・エ、（４）ア・イ

 

(5-3) 平成12年度に実施された研究の概要：

  ア）2000年鳥取県西部地震の震源域における本震発生前の環境調査。前駆的な群発地震活動、低周波地震、低比抵抗領域、初期破壊と本震破壊との関係に関する研究。

イ）花折断層南部の１７地点で稠密ＧＰＳ観測を行った。特に「新潟ー神戸」の歪速度変動との関係を研究。

ウ）山崎断層に関する地震学的な活動度の評価及び断層末端部における応力場の回転。

エ）歪と地下水との関係。地殻変動観測点の横坑内に40mボーリングを行い、平成１２年度は地下水位と歪の関係を、次年度から間隙水圧との関係を調査。

オ）琵琶湖西岸断層系に起きた中規模地震記録を収集し，経験的グリーン関数法によって花折，饗場野断層の活動を想定したシナリオ地震をたて，強震動予測を行った．得られた結果は既往の経験的方法との比較を行い，評価の妥当性を検討した．

カ）丹波山地におけるいくつか中規模地震の前に顕著な地震活動の静穏化が起きていたことを明らかにし、その定量的評価の可能性を吟味した。

 

(5-4) 「平成12年度の到達目標」に対する成果の概要：

   ア）2000年鳥取県西部地震の震源域では1989年以降、M5クラスの地震が５回発生していたが、今回の本震の破壊はこの先行する活動域を完全に包囲するように進展したことが明らかになった。なお、破壊開始は先行した活動域のの中から、あるいはやや下から始まっており、小さな初期破壊が約３秒間継続した。大破壊はそれより南東のやや深いところから改めて開始し、大きな変位は浅いところで生じた。

　破壊開始点のほぼ直下30km付近に発生していた低周波地震もいくつか検出された。

余震の下限がおよそ20kmであるから、低周波地震発生域と地震発生層との間には約10kmのギャップがある。また本震破壊域の直下は低比抵抗域であることが別途の研究課題で明らかにされており、この地震の発生環境場が少しずつ明らかにされている。

　　イ）国土地理院によって「新潟ー神戸」に水平変動の収束帯があることが指摘されている。この中には花折断層だ含まれており、広域変動場と断層固有の変動を調べるために、ＧＰＳによる稠密観測を実施しているが、観測開始以来の観測期間が短いため花折断層固有の変動は検出していない。

　ウ）メカニズム解の求めにくい小地震について、Ｐ波の押し引きに広帯域地震波形を用いたモーメントテンソル解を加えた、ハイブリッド法によるメカニズム解を山崎断層に沿った小地震について求めた結果、断層の中央部に比べ断層が枝分かれしている末端部では断層の走行に沿って主応力軸が回転してゆくことがわかった。破壊の拡大し始める点という意味での断層末端部における応力場を部分的ではあるが解明できた。

　エ）淡路ー六甲断層系，花折断層，琵琶湖西岸断層系などの内陸地震と東南海・南海地震などのプレート境界大地震を想定し，適切な地震記録が存在するものから解析を行う．得られた強震動分布は既往地震被害データや歴史地震資料と比較してシナリオ地震の妥当性を検討する平成１２年度の目標に対して，琵琶湖西岸断層系に起きた中規模地震の特徴及び花折，饗場野断層の活動を想定したシナリオ地震をたて，既往の経験的手法との比較を行った．

　オ）丹波山地におけるいくつか中規模地震の前に地震活動の静穏化が起きてる。その変化は顕著なもので、事前発生予測に使えるかその定量的評価の可能性を評価した。今後他のあまり顕著でない事例についても定量的検出手法の開発をめざす。また、比較的広域の地震活動の中期的な変化についても解析を進める。

 

(5-5) 共同研究の有無（機関・グループとの共同研究の場合は、その旨明記し、さらに観測の場合には、実施予定時期と場所、参加人数概数も明記する）：

共同研究有。参加人員：２０名

 

(5-6) 平成１２年度の成果に関連の深いもので、平成１２年度に公表された成果（出版された論文、学会大会等での発表、会議報告等を科研費の申請書に倣って書く「著者名、論文名、学協会誌名、巻(号)、最初と最後のページ、発表年(西暦)、著者名が多数にわたる場合は、主な著者を数名記入し以下を省略」）

 

梅田康弘・松村一男・澁谷拓郎・大見士朗・片尾 浩、2000年鳥取県西部地震ー前駆的群発地震・本震・余震ー、自然災害科学、印刷中

 

澁谷拓郎・中尾節郎・西田良平・竹内文朗・渡辺邦彦・梅田康弘、鳥取県西部地震（2000年10月6日、M7.3）に先行して発生した1989年、1990年及び1997年の群発的地震活動。地震予知連絡会報、第65巻、576-578、2001

 

片尾　浩, 中規模地震に先行する微小地震活動の静穏化について, 京都大学防災研究所年報, 43, B-1, 95-102, 2000.

 

高橋繁義、山崎断層の微細構造と応力分布について、京都大学大学院平成12年度修士論文。

 

岩田知孝・三宅弘恵・入倉孝次郎，レシピに基づく強震動シミュレーション（２），日本地震学会講演予稿集２０００年秋季大会，P-123，2000.

 

岩田知孝・三宅弘恵・入倉孝次郎，強震記録を用いたシナリオ地震に基づく強震動予測に関する研究，防災研究所研究集会「地震発生に至る地殻活動解明に関するシンポジウム」報告書，5pp, 印刷中．

 

(6) この課題の実施担当連絡者

   氏名：梅田康弘

   電話：0774-38-4226

   FAX ：0774-38-4226

   e-mail:  umeda@rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp