第3章 「準備過程における地殻活動」研究計画

 

 

はじめに

 

 大地震に至る準備過程の解明のためには,プレート間相互作用によって供給された応力が断層に伝えられて地震を発生させるまでのプロセスを,詳細に明らかにする必要がある.平成12年度においても前年度に引き続き,建議に示されている4項目のうちの断層近傍に関連する2項目を1つにまとめ,下記の3項目の計画を推進した.

 

(1) プレート間カップリングの時間変化の解明

(2) 地震多発域へのローディング機構の解明

(3) 断層周辺の微細構造と地殻流体の挙動の解明

 

 平成12年度も,上記の3項目に基づき各機関で独自に,あるいは,共同して,種々の「準備過程の解明」に関わる観測・研究が行われた.また,平成12年度には「準備過程」計画推進部会が,京都大学防災研究所における研究集会「地震発生に至る地殻活動解明に関するシンポジウム」,および日本地震学会秋季大会における特別セッション「地震発生準備過程」を共催し,このテーマに関する研究成果の公表と議論を行った.

平成12年度内に実施された観測・研究のなかには,今後の解析や観測データの蓄積を待たなければならないものもあるが,以下では平成12年度内にまとめられた主たる成果について報告する.なお,「準備過程」にとって重要な成果が得られた研究については,「定常・広域活動」や「直前過程」等の解明が主目的であっても,ここでも報告することにする.また,大学以外の研究機関の成果についても,重要なものについては簡単に紹介する.

 

2.成 果

 

2.1 プレート間カップリングの時間変化の解明

 

(1) プレート境界の構造と地震活動

 

 三陸はるか沖地震の震源域を含む海底での構造探査の結果,震源域周辺の北緯40度付近を境にして,北側の深さ815km付近が顕著な低速度領域となっていることが判明した(東京大学地震研究所[課題番号:0101];早川・他, 2000Hayakawa et al., 2000).この解釈として,三陸はるか沖地震によって,この付近に水が移動してきたという仮説が考えられる.一方,三陸沖海溝付近の詳細な震源分布と地殻構造を見ると,多くの小地震は沈みこんだ海洋性地殻のLayer2内で,かつ,プレートからの地震波反射強度があまり強くないところで発生していることが明らかになった.このことを説明する仮説としては,Layer2内における空隙の分布が不均質となっていることが考えられる(東北大学[課題番号:0501.1];日野・他, 2000).すなわち,空隙が多いところではVsが低下して強い反射波が生じるが,剪断応力を蓄積しにくいために地震が発生しにくくなるというものである.上記二つの仮説の検証のためには,今後,海底におけるVp/Vs構造の推定が極めて重要となる.

 さらに,東京大学地震研究所[課題番号:0111]は,1994年三陸はるか沖地震のアスペリティが1968年十勝沖地震ですべったアスペリティの一つであったことを明らかにした.こういったアスペリティは,東北地方では離散的に分布しその場所はあらかじめ決まっていること,また,一つひとつのサイズはM7クラスの地震を引き起こす程度の広がりを持っていて,隣り合うアスペリティが連動してすべるとM8クラスの地震規模になることが明らかになった(山中・菊池, 2001).1994年に連動しなかった三陸はるか沖地震のアスペリティに隣接する部分は「準備過程における地殻活動」に関する研究にとって注目すべき重要な地域であると考えられる.

 中国・四国西端部から九州にかけての深発地震面の形状や発震機構の詳細が明らかになってきた(九州大学[課題番号:1102]).発震機構については,日向灘では正断層型が30%以上も存在していること,深発地震についても単純なdown-dip extensionではなく,地域・深さによる変化があることなどが明らかになりつつある.

 JAMSTECでは,南海道地震の震源域を横切る測線において,マルチチャンネル探査および海底地震観測による構造探査を実施した.四国海岸部から中央構造線付近に沈み込んだ海洋性地殻上面からは,異常に大振幅の反射波が確認された(小平・他, 2000).この反射波の生成原因としては,最上部マントルの脱水作用による水が,プレート境界付近にトラップされているという仮説が考えられる.

東京大学地震研究所[課題番号:0118]は,台湾地震の余震観測観測データの解析から,図1に示すように,余震は東に約30度で傾く面上に分布し,深さ約15kmでは水平に広がり,更に,本震直下約30km付近にも分布している事を明らかにした(Hirata et al., 2000; Nakao et al., 2000).これらの震源分布は,台湾地震がユーラシアプレートの付加体下部で発生したことを示している.また,GPS観測から,地表断層をはさんで下盤(西側)での変位は観測されなかったが上盤(東側)では一月平均で1-1.5cm西へ移動していることが明らかになったが,震央付近ではこれらの4-6倍の変位が得られており,余効変動が空間的に均一ではないことがわかった.数万年間の平均的な地殻変動を明らかにするために,震源域周辺の変動地形調査をおこなった.車籠埔断層は彰化断層とともに東傾斜の衝上断層系をなしており,過去10万年間の累積した変形では,地震断層(車籠埔断層)の西側に伏在する彰化断層に伴う変形が大きい.

 

(2) プレート境界のカップリングのゆらぎ

 

 東北地方の海域の相似地震はプレート内部にはほとんど存在せず,プレート境界に多く発生していることが判明した.これらの相似地震はカップリングが弱いと考えられる領域に多く発生している(五十嵐・他, 2000;第2章図9を参照).また,大地震時の余効すべり時に発生間隔が短くなる地震群もある.従って,これらの相似地震の時空間分布から,プレート境界でのゆっくりとしたすべりの時空間分布を,GPSとは独立にかつGPSより高分解能で推定できる可能性があり,今後,他の海域においても同様の解析が重要となる(東北大学[課題番号:0501.2],[課題番号:0501.4]).

 東海地域については,辺長測量データ・水準測量データおよび地盤沈下水準測量データに4〜5年周期のゆらぎが同期して存在していることが明らかになっている(図2).さらに,GPSから求めた上下変動でも,駿河湾西岸沿いの沈降パターンが明瞭に検出され,これまで精度が悪いとされていたGPSの上下変動データが解析に使用できる目処がつきつつある(名古屋大学[課題番号:0903];木股・他, 2000).

 国土地理院は全国基盤のGPS観測(GEONET)データの解析により,プレート運動に年周変化成分のあること,また年周変化成分の大きさとプレート運動の大きさに正の相関があることなどを報告した.

また,富山大学[課題番号:1401]は,198912月東京湾サイレント地震(Mw5.9に相当)(広瀬・他,2000),および1999年2月末,太平洋プレート上面に発生した銚子沖サイレント地震(Mw5.5に相当)を見出し(中川・他,2000),プレートカップリングについての知見が得られつつある.東京湾サイレント地震の場合は下盤が北西へ,銚子沖サイレント地震の場合は東に向かう低角逆断層型地震であり周辺のテクトニックスと調和的である.

 

 

(3) 東海地域の地震活動静穏化

 

 東海地域においては19998月下旬頃から地震活動が有意に減少しており,発震機構解別の地震発生頻度分布についても変化が認められることが,防災科学技術研究所によって報告されている.2000年に入って活動はやや回復気味になったが,静穏化は継続中である.地震活動低下率の大きな領域は,静岡市から西に延びる非静穏化領域を挟むように,その南と北に存在することがわかった(松村, 2000).

 来たるべき地震の震央(アスペリティ)を囲むように静穏化域が分布している事例が,これまで報告されているが,東海地域の静穏化のパターンもそれと似ているように見える.また,東海地域の想定固着域における地震活動と地球潮汐の相関を調べたところ,地震活動が低下した19998月以降は,上げ潮区間に11個,下げ潮区間に1個と,イベント数が偏在していることがわかった(松本・松村, 2000).今後はこの周辺の地震活動やGPS・地殻変動観測データに引き続き注意するとともに,静穏化現象のモデル化を行って定量的に議論することが重要である.

 

(4) 観測システムの開発

 

 プレート間カップリングの状況を把握するためには,海底において直接観測を行なうことが望ましい.各大学では海底地殻変動観測システム開発が進められている(東大地震研究所[課題番号:0113(I)];Fujimoto and Kanazawa, 2001;名古屋大学[課題番号:0906]);田所・他, 2000;東北大学[課題番号:0503];藤本・他, 2000, 2001Osada et al., 2000).また,地震観測と地殻変動観測の間の周波数帯域を埋めるために,高サンプリングGPSの観測も始められた(東北大学[課題番号:0501.3];三浦・他, 2000).この二つの新しい観測技術は,準備過程の解明のためには今後,極めて重要となると考えられる.

 

2.2 地震多発域へのローディング機構の解明

 

(1) ローディング機構

 

 ローディング機構においては,地殻や最上部マントルの不均質性が重要なファクターになると考えられる.東北地方では,脊梁部における合同観測のデータも利用した詳細な3次元トモグラフィーからVp/Vsの詳細な分布が明らかになっており,その不均質性の原因についての解析が進められている(東北大学[課題番号:0502.1];Asano et al., 2000Nakajima et al., 2000).

 トモグラフィーと独立な解析結果として,スラブ内の深さ150km付近にb値が極めて大きな領域が見つかり,これはスラブ内の脱水反応に起因している可能性が高いと考えられる.この領域から火山付近につながる低速度域がトモグラフィーで見えていることから,スラブからアセノスフェアに供給される多量の水によってメルトが発生して上昇し,マグマとなって火山に供給されるという仮説が考えられる(Wyss et al., 2001).地殻中の高Vp/Vs域の成因がマグマであるか水であるかは不明であるが,マグマであったとしても,その付近にはマグマの固結に伴なって生じた水が多量に存在する可能性がある.

 地殻中に高温のマグマが存在しているのであれば,その周辺の塑性変形に大きく寄与するであろうし,水が存在していたとしても石英の圧力溶解が介在すれば,やはり塑性変形に関係すると考えられる.従って,地震発生のトリガや断層強度低下に対する地殻流体の寄与の解明のみならず,地殻の塑性変形の解明のためにも,Vp/Vs構造の推定は今後極めて重要である.

 特定地域に対するローディングの状況を示す成果も観測から得られつつある.北海道においては,GPSデータの解析結果から,弟子屈地域がこれまでの地殻変動観測の結果や1959年弟子屈地震のメカニズム解などと調和的な南北方向の伸張場にある可能性が明らかにされた.このことは,道東地域全体が太平洋プレートの沈み込みにともなう圧縮場にあるなかで,弟子屈地域だけが千島外弧の西進に伴うpull-apartにより伸張場が卓越する特異点として存在することを示し,このような地域性がこの地域の活発な地震活動を支配する要因として強く働いている可能性を示していると考えられる(北海道大学[課題番号:0304]).

19994月から始まった瀬戸内海中部の燧灘の群発的地震活動は,発生数は少なくなっているが,活動は継続し活動域はほぼ一定で,その走向は中央構造線の走向とほぼ平行である.中央構造線付近の地殻地震のP軸方向は全体として東西というより,構造線に斜交する方向が卓越している.過去の地震のP軸も中央構造線近傍では構造線に斜交する傾向が認められる(高知大学[課題番号:1303];木村・川谷, 2000).

一方,御岳群発地震域では20年以上も群発地震が継続しながら有意な地殻変動が観測されていなかったが,名古屋大学[課題番号:0902]により震源域で実施された分解能の高い水準測量でも1999-2001年の間で有意な変動は検出されていない.

 

(2) 断層の強度

 

 野島断層近傍2か所で得られたコア試料を用いた地殻応力測定から,断層に直交する方向の最大圧縮方位が推定された(図3).この解釈として,断層はかなりの部分が破砕されたweak faultであり,アスペリティのみで固着しているということが考えられる(東北大学[課題番号:0502.4];山本・他, 2000).この仮説が正しければ,応力測定によってアスペリティの位置が事前に分かる可能性があり,また,そのアスペリティ近傍では応力集中により種々の前駆現象が発生することが期待されるため,地震予知のためには断層周辺の応力を漠然と連続測定するのではなく,アスペリティの近傍に特化した観測を考えることができるようになる.現在のところ「weak fault」というイメージは,まだ,地震断層の浅部での結果から得られたものである.今後,断層面に沿い深部までの応力分布を研究する必要がある.

 野島断層においてはさらに,摩擦発熱で溶融・急冷してできたシュードタキライト試料の採取が行われた.この断層岩には地震性摩擦すべりの記録が良好に保存されていると考えられる.現在,シュードタキライトの溶融温度,流動速度,粉体岩の摩擦抵抗など,多角的な分析が行われている(京都大学防災研究所[課題番号:0207]).

 もう少し広い地域で見ると,東北地方において,ここ数年に発生したM5前後の地震群について破壊過程と余震分布について解析した結果,いずれの地震についても,主たる地震群の破壊域は互いにオーバーラップせず,「棲み分け」ていることが判明した(図4)(東北大学[課題番号:0502.2];Okada et al., 2000).また,主破壊のすべり量の大きな領域では余震はほとんど発生していない.これらのことは,アスペリティの破壊の準備段階として,強度回復・応力蓄積過程が必要であることを示している.

 

2.3 断層周辺の微細構造と地殻流体の挙動の解明

 

(1) 地震波反射面と低周波地震

 

 内陸の稠密地震観測により,地殻内の顕著な地震波反射面が微小地震の震源域周辺で見つかっているが,従来東北日本弧で検出されている反射面は比較的低角のものがほとんどであった.これに対して九州の日奈久断層系においては,断層にほぼ平行な走向を持ち,傾斜角が45度以上の非常に高角な反射面の存在が明らかになった(図5).これら高角の反射面は,九州地域に働く広域応力場(張力場)を反映していると考えられる(九州大学[課題番号:1104];松本・他, 2000).

 地震波反射面や低周波地震はどちらも地殻流体に関連していると考えられるが,水とマグマのどちらに関係しているのか,これまで明確にはなっていなかった.岩手山周辺には低周波微小地震のクラスターがいくつか存在するが,岩手県内陸北部地震の本震発生から数日経過すると,その近傍での低周波地震の割合は減少し,かつその規模も小さくなった(弘前大学[課題番号:0503];小菅・千田, 2000).このことは,この低周波地震の発生が過渡的な現象であったことを示唆している.同地震の震源域で本震発生前後に行われた2回の人工地震による散乱・反射波のアレイ解析から(図6),本震発生前後で流体の移動があった可能性が指摘されており,その変化が見られた領域は低周波地震の震源域に近い.これらのことから,東北地方で見られている反射面や低周波地震の多くは,マグマが固結する過程で放出された水によって生じている可能性が考えられる.

さらに,長町・利府断層地域においても,アレイ観測データの解析から断層深部延長に位置する地震波散乱体の存在が示唆されている(東北大学[課題番号:0502.2];浅野・他, 2000).また,鳥取県西部地震の震源直下でも本震の発生前に低周波地震の発生が確認されている(京都大学防災研究所[課題番号:0210],[課題番号:0201];梅田・他, 2001;大見・他, 2001).またこの低周波地震の震源域付近は非常に低比抵抗であるという結果も出ている(鳥取大学[課題番号:1005];塩崎・他, 2001).したがって,いろいろな地域で地震観測だけでなく比抵抗構造探査等もあわせた総合的な解析・検討を行ってゆくことが重要である.

 

 (2) 比抵抗構造

 

 平成11年度までに得られた千屋断層周辺での比抵抗構造探査の結果によれば,微小地震は高比抵抗域に多く発生しているように見える.今年度行われた,本荘−花巻測線の40測点において実施された広帯域MT観測の解析結果から,地震発生層が地殻内の高比抵抗部に対応することがわかり,千屋断層における結果が再確認された(東北大学[課題番号:0502.5];秋田大学[課題番号:0601];東京工業大学[課題番号:0802];地殻比抵抗研究グループ, 2000Ogawa et al., 2000など).そして,いずれの場合にも断層の深部には低比抵抗域があるように見える.鳥取県中部—東部の吉岡・鹿野断層を含む微小地震発生帯に沿っても地震は高比抵抗領域内で発生し,その下部に低比抵抗領域が存在していることが指摘されている(塩崎・大志万, 2000). また,トルコの北アナトリア断層帯西部域では,コジャエリ地震断層の西端近くから断層帯の南のブランチまでの南北測線において広帯域MT観測を実施した結果,図7に示すように南ブランチの断層の西への延長部分にある,現在地震活動度が高い地域において,断層深部が低比抵抗であることがわかった(東京工業大学[課題番号:0801]).

 これらの結果によれば,断層浅部の地震発生層(脆性領域)は高比抵抗,断層深部の延性領域は低比抵抗という特徴があるのかもしれない.ただし現在のところ,事例がまだ充分ではないので,両者の対応関係を一般化できるかどうかは検討の余地がある.今後,他の地域でも詳細な比抵抗構造を調べ,地震波のP波速度構造のみならず,Vp/Vs・減衰・異方性・散乱体の分布等と比較することが重要となる.

また,断層破砕帯と比抵抗構造との関係を明らかにするため浅部比抵抗構造調査が,野島断層南端部周辺と秋田県太田断層で実施された.大田断層では反射法地震探査,VLF-MT探査が実施された(秋田大学[課題番号:0601]).

 

(3) 野島断層の注水試験

 

 地殻内流体(特に水)の移動を観測で検知することはかなり難しいと予想される.このような検知が可能かどうかを見積もる上でも,200013月に野島断層で行なわれた2回目の注水試験は重要である(京都大学防災研究所[課題番号:0207];東京大学地震研究所[課題番号:0107];東京大学理学系研究科[課題番号:0701];島崎, 2001;西上, 2001).この試験の主たる目的は注水を通じて断層の回復過程を明らかにするというものである.この実験では,注水孔から水平距離300m以内で,歪・傾斜・地下水・地震波速度・比抵抗・自然電位の連続観測が行われた.注水に対応して,圧縮歪と湧水量の増加(図8)(向井・他, 2001;北川・他, 2001),比抵抗と自然電位の変化(村上・他, 2001),極微小地震の発生数の増加(永井・他, 2001;田所・他, 2001)が観測された.これらの観測結果から注水孔から地震発生域(深さ2-4km)までの断層破砕帯に沿った領域の透水性が低下したことが示唆され,野島断層において回復過程が進行しつつあることが推定される.

 

3.鳥取県西部地震

 

 平成12年(2000年)106日に鳥取県西部地震(M7.3)が発生した.図9に,2000年鳥取県西部地震の余震分布と19891997年群発的活動の震央分布の比較を示す.本震直後の余震観測と強震波形データから,断層面の位置とすべり量分布を求めた結果,1989年から発生していたM5クラスの5回の群発的地震活動の断層面と一致すること,さらに,群発的な地震の発生域では,今回の地震でのすべりが小さかったことが判明した(京都大学防災研究所[課題番号:0210;大見・他,2001; 澁谷・他, 2001).この結果は,東北地方で発生したM5前後の地震の特徴(図4)と調和的である.

 断層とその周辺の微細構造を調べるために,全国の大学が協力して震源域に57点の臨時地震観測点を配置し,10月中旬から12月末まで約50日間の連続観測を行った.この観測と連動して,トラップ波の観測,稠密GPS観測,広帯域MT観測,高密度・長大アレイによる余震観測,バイブロサイス地下構造調査などが行われた.これらの観測データは現在解析中であるが,広帯域MT観測の結果からは,鳥取県西部地震の震央付近の観測点で得られた探査曲線から深部に低比抵抗領域の存在が示唆される(鳥取大学[課題番号:1005]).

 また,稠密地震観測およびアレイ観測からは,震源域近傍に地殻内地震波散乱体(反射体)が存在する可能性があることが明らかにされている(東北大学[課題番号:0502.1]).

また,野島断層でのアクロスの連続観測により 106日の鳥取県西部地震に伴う地震時変動と余効変動が観測された(図10).特にS波では1ミリ秒におよぶ変動が見られ,これは主に水に満たされたクラック密度が増加した影響と考えられる(名古屋大学[課題番号:0905-1];京都大学防災研究所[課題番号:0207]).さらに800m孔内の水圧・歪観測においても鳥取県西部地震の発生前に800m孔(震央距離160km,震央方向;北西)においてステップ状の水圧変化(水圧急変)と歪変化(歪急変)が観測された.過去約4年間のデータを調べた結果,発生前に水圧急変とそれに続く歪急変が対応する地震例がいくつか見られ,大きい地震の前は水圧急変量が大きく,震央方向に近い成分に歪急変が生じる傾向がある事がわかった(京都大学防災研究所[課題番号:0207]).今後詳しい研究を行う必要がある.

 

4.まとめ

 

 上述のように,平成12年度には,プレート間カップリングの時空間変化の解明について,多くの成果が得られている.プレート境界における余効すべりや準静的すべりの定量的把握,カップリング域の特定,カップリングの時間変動とそのメカニズムの解明は,応力の供給源の情報として基本的に重要である.今後も,プレート間カップリングの時間変化の解明のために,三陸沖,十勝・根室半島沖,東海—南海,日向灘,南西島弧地域などにおいて,「定常的な広域地殻活動」の計画によって実施される観測とも密接な連携をとりながら研究を推進する必要がある.

ローディング機構の理解に基づき,大地震に至る過程を解明するためには,断層およびその周辺の不均質性の把握,そして,その不均質構造への歪や応力の集中過程を調べることが必要である.こういった点に関しては,平成12年度は,例えば日奈久断層系周辺で見つかった高角な反射面の存在や,微小地震発生域と高比抵抗領域の対応が確認されるなど,断層周辺の不均質性の把握について多くの成果が得られた.今後,それぞれの地域で得られた特徴が,他の地域においても共通するか否かの検証を進めてゆくことが重要である.

 一方,広域のローディング機構の解明については,まだまだ,モデル化までの道のりは遠い.地域的な特徴が明らかにされつつあるが,今後,地震活動・構造・歪・応力等の解析により,ローディング機構を解明する総合的な研究をさらに強化する必要があるだろう.

 平成12年度の成果として,鳥取県西部地域や岩手山南西部では,本震発生前にモホ面近傍の低周波微小地震が発生していたことが指摘されており,地殻流体の存在が強く示唆される.このような内陸部の例のみならず海域のプレート境界においても,地殻流体の存在や挙動で説明可能な事例が得られるようになってきたが,いずれも状況証拠からの推論の域を出ていない.今後は,水の存在とその挙動に関する直接的な証拠が得られるような観測・研究を推進しなければならない.

   また,内陸部とプレート境界ともに,アスペリティやバリアに関する情報も得られつつあるが,過去の事例を見るかぎり,単一のセグメントの破壊に留まる場合だけでなく,バリアを乗りこえる場合があり,セグメント間相互作用により破壊が加速する等の機構があると考えられる.5ヶ年の最終年度までには,これらの破壊過程のパターンの違いが何に起因するのかを解明することも重要である.さらに,アスペリティ領域の特定とアスペリティの強度回復過程を明らかにすることが重要であろう.

 

 

文献

 

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図の説明

 

図1    1999年台湾集集地震の余震分布.観測点補正を加えて再決定した震央分布とその東西断面図.本震の位置は星印で,観測点は逆三角形で表した.

 

図2    東海地域における辺長の時間変化と上下変動の同期性.上下変動データは国土地理院と愛知県の水準測量による.カラースケールの単位は mm/年.

 

図3    a) 変形率変化法(DRA によって測定された野島断層沿いの最大水平圧縮応力の方位 [粟田・他(1996)に加筆]b) 育波 (IKH) における応力,r値,および最大水平応力の方位の深さ方向変化.

 

図4    (a) 岩手県南部において2000211日に発生した地震(M4.7)およびおよび1999419日に発生した地震 (M4.3)の余震分布および発震機構解.2000年の地震については青で,1999年の地震については赤で示す.太線で示した節面は余震分布から推定される断層面をしめす.(b) 2000年のM4.7の地震と1999年の地震のすべり量分布(走向に沿った断面).2000年の地震については青で,1999年の地震については赤で示す.コンター間隔は25cmである.大きな星は本震の位置,小さな星は最大余震,丸はその他の余震をあらわす.

 

図5    日奈久断層周辺で得られた地震波反射面の分布.色つきのシンボルは反射点を示す.黒丸は震源位置.

 

図6    東北脊梁山地直下の南北断面図に見られる地震波散乱体の分布.散乱体は岩手山,鬼首の活火山地域では浅部に多く分布し,千屋断層直下では20km程度の深さにまで分布している.

 

図7    2000年に実施した北アナトリア断層西部域での広帯域MT観測のYalova-Gemlik測線の比抵抗構造断面.

 

図8    1700m孔を使用した2000年野島断層注水実験の際に,800m孔で観測された歪3成分(Str_U, Str_M, Str_D),傾斜2成分(Tilt_X, Tilt_Y),地上気圧,孔底温度,孔内水温,湧水量,水位,および降水量.歪と傾斜のデータは,地球潮汐成分,気圧応答成分および線形トレンド成分を除去した.注水期間には影を付けて示してある.

 

図9    2000年鳥取県西部地震の余震分布と19891997年の群発的活動の震央分布の比較.白抜きの黒丸:1989年の震央分布.水色の丸:1990年の震央分布.薄い青丸:1997年の震央分布.濃い青丸:2000106日の1日間の震央分布.2000年の地震分布は,1997年の地震分布と重なっており,北西側,南東側に拡大しているのが特徴.

 

10.鳥取県西部地震に伴って野島断層800m孔内の歪計で観測された圧縮歪の方向依存性(左)とアクロス連続観測によって観測されたS波の遅れの異方性(右).