1999.11.25

No.0109

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)新建議の項目

1.(3) 直前過程における地殻活動

(a) 課題名

 震源核に関する実験的研究

(b) 関連する新建議の項目

1(3)ウ,(1(2)エ,ウ,1(3)ア,イ,1(4)ア,3(1)ア も関連する)

(c) 平成13年度の到達目標

 震源核に関する実験的研究は,次の四つの小研究課題:

 (I)「せん断破壊過程を支配する構成法則の地震発生場環境要因依存性と歪速度依存性の定量的評価

 (II)「間隙水流動と破壊核の相互作用に着目した,破壊に伴う電磁気シグナル発生のメカニズムの解明」

 (III)「すべり破壊核形成過程のモニタリング手法の開発」

 (IV)「大型剪断試験機によるアスペリティの相互作用の研究」

 に大別される.したがって,それぞれ小研究課題毎に到達目標を述べる.

小課題(I)の到達目標:

構成法則の地震発生場環境要因依存性の定量的評価のための実験を継続し,歪速度依存性やヒーリング過程などに関する時間的スケーリング則を完成させ,それまでの空間的スケーリング則に関する研究成果と合わせて実際の地殻内の破壊に適用できる破壊法則を確立する.

小課題(II)の到達目標:

室内実験により,地震発生場における破壊に伴う電磁気シグナル発生過程を定量的に明らかにする.

小課題(III)の到達目標:

大型試料のすべり実験による巨視的すべりに至る過程における微視的接触状態の変化の検出手法開発と,安定すべりから不安定すべりに遷移する非可逆過程検出手法の開発を目指す.

小課題(IV)の到達目標:

不均質な法線応力場での破壊核の成長,動的破壊への移行,破壊の伝播と停止を大型岩石試料の断層面上で観察し,アスペリティの相互作用を明らかにしていく.

(d) 平成13年度実施計画の概要

 小課題(I)

 高圧高温岩石破壊装置により構成法則の地震発生場環境要因である温度,圧力,間隙水,歪速度,破損面幾何学的不均一度依存性の定量的評価のための実験を継続する.また,歪速度や間隙水圧が変化することによって引き起こされる現象(破壊核成長の促進や抑制)にも着目する.大型高圧高温岩石破壊装置の維持経費など主たる経費は特殊装置維持費による.

小課題(II):破壊核と流体との相互作用と,その相互作用に付随して生ずる電磁気現象発生のメカニズムを明らかにするための室内実験を継続して行う.流動電流(電位)係数,透水率,ダイラタンシーなどが,岩石の種類,溶液の化学組成,温度・封圧・間隙圧などの環境条件にどのように依存するのかを明らかにし,測定された電磁気信号から破壊過程がどこまで進行しているかなどの情報を引き出せるような定量的モデルを構築することを目指す.12年度までは理化学研究所の地震国際フロンティア研究プログラムによるが,13年度以降そのプログラムが継続するかどうか未定であり,継続されなかった場合は主として地震予知研究経費におう.

小課題(III):応力の変化、動的すべりに至る各段階での透過波動の変化を連続的に追跡する.断層面の粗さや、断層面にガウジを含む場合、さらに水の存在の影響などについても考慮する.横浜市立大学との共同研究.経費は,主として校費及び地震予知研究経費による.

小課題(IV):不均質な法線応力を与えられる大型剪断試験機を用い,断層面上に複数個のアスペリティを生成させて固着すべり実験を行う.破壊核成長過程におけるアスペリティの相互作用,破壊核成長過程と最終的な破壊領域との関係,動的破壊の停止機構などを明らかにする.

(e) 全体計画のうちの平成13年度の計画の位置づけ.

小課題(I):高圧高温岩石破壊装置による構成法則の地震発生環境要因依存性の定量的評価に関する実験的研究は,1回の実験に長時間を要するので,平成13年度以降も引き続いて継続する必要のある長期的プロジェクトである.12年度までに空間的なスケーリング則を確立させる予定なので,13 年度は主に歪速度依存性やヒーリング過程を含む時間的なスケーリング則の確立を目指す.

小課題(II):水と破壊核成長過程との相互作用は高温になるほど強くなり,またゼータ電位などの高温におけるデータは今まで全く得られていないので,高温実験を早急に進める必要がある.また,地殻中に存在する溶液は様々な化学組成をもつので,イオン成分依存性を明らかにすることも重要である.高温実験を行うためには,岩石試料部が電気的に絶縁されている特別仕様の高温高圧容器を整備する必要があり,12年度までの高温実験の進捗状況は,科学研究費補助金などをどの程度受けることができるかに依存する.最悪の場合でも,13年度には,実際の地震が発生している温度圧力場に近い条件下での実験を開始することを目指す.

小課題(III):断層近傍における応力(又は歪)やすべり変位をモニターする以外の方法で破壊核を検出する手法の開発は,最近始めたばかりであり,挑戦的な試みである.11年度の研究により既に有効性が示されている.13年度は断層面にガウジを含む場合についても実験を行うとともに,水の存在の影響をも考慮し,更に発展させる.

小課題(IV):茂木・望月(1989)が開発した大型剪断試験機を再整備して行う実験であり,11年度にはふたつのアスペリティの強度比によって地震サイクルのモードが決まることなどを明らかにした.13年度は破壊核の成長過程と最終的な破壊サイズとの間にどのような関係があるのかを明らかにする.

(f) この課題の実施担当連絡者

氏名:吉田真吾,電話:03-5841-5814FAX:03-5689-7234

e-mail:shingo@eri.u-tokyo.ac.jp