1999.12.24

No.0127

平成13年度予知事業に向けての「地殻活動予測シミュレーション」

研究課題アンケート

(1)東京大学地震研究所

(2)新建議の項目 III の1の(2)

  (a) 地殻内流体の挙動とその地震発生に対する力学的効果に関する

    研究

   (b) 関連する「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」

   (以下、新建議)の他の項目

    III の3 の(1)のア

    III の1の(3)のウ

    III の1の(4)のア

      (c) 平成13年度の到達目標

 まず、地殻内をネットワーク状に流れる流体が地震破壊の時空間的複雑化や単純化

に果たす効果を数値シミュレーションに基づいて解明する。

 さらに、前震や余震の発生様式が、地震により、大きく異なるという観測事実を流

体移動の立場からの解明を行う。

 

     (d) 平成13年度実施計画の概要(実施済みのものを含む)

 最近では地殻内の流体が断層運動に大きく関与していることが野外調査、室内実験

、シミュレーションなど様々な研究により示されるようになってきた。流体の移動と

断層破壊は、流体圧の増大による実効封圧の低下、すべりによる空隙率の変化や断層

破砕帯の厚さの変化などを通して非線形の相互作用を行う。これにより、大地震発生

前後の地震活動はきわめて複雑な時空間変化を示すと考えられる(場合により、その

強い相互作用の故に単純規則性も現れうる)。プレート境界地震などでは、特に流体

の関与が大きいと考えられる。 

 従来、私たちのグループを含め、私の知りうる限り全てのグループは流体移動は平

面状の断層帯の中を流体は移動すると仮定している。私たちの一連の研究により、流

体移動と断層破壊の相互作用により前震ー本震系列のタイプの地震と群発型の地震の

違いが出てくるということがわかってきた。しかし、松代群発地震の際などの活動域

の3次元的拡大という顕著な観測事実を考慮すると、現実への具体的応用に際しては

3次元形状の地下流路や複雑に空間分布した破壊要素を考慮する必要がある。また、

流体の移動が大きな影響を及ぼしていると想像されている余震についても、最近の精

度の良い観測によれば、必ずしも2次元平面上のみで発生するわけではなく3次元的

に分布していることがわかっている。平成13年度では、このように非平面状に分布

した流路や破壊要素の効果を考慮に入れた流体移動と地震破壊発生の間の相互作用に

ついてのシミュレーション手法の開発と計算の実行を行う。

 また、流体移動の効果の解明は、見かけ上複雑な地震破壊現象を統一的かつ簡単な

視点からのモデル化につながると私は、考えている。このような立場から、前震や余

震の発生過程の複雑さをシミュレーションを通して理解する。例えば、ほとんど準静

的なすべりにより余効変動が生じていることもあり、また、活発な余震活動により余

効変動が生じていることもある。この成果は、地震活動の観測に基づいた地震発生予

測に役立てることができると考えている。

     (e) 全体計画のうちの、平成13年度の計画の位置づけ

   地震破壊と地殻内流体の相互作用について現実的なモデルを構築中であるが、

平成13年度研究は、その一部である。具体的には、平成13年度の研究は、流体の

流れについては準静的なものを仮定している。しかし、大地震の核形成時などは、流

速がかなり大きくなり、流体圧と流体移動速度の間の関係は非線形となる可能性があ

る。このような場合、計算にある程度の工夫が必要となる。次のステップとしては、

このような場合も考察する必要がある。さらに、流体移動は化学現象や電磁気現象と

関係している可能性があり、各種現象を将来的には統一して理解できる可能性もある

     (f) この課題の実施担当連絡者(氏名、電話、FAX, e-mail)

   山下輝夫

   電話  03-5841-5699

   FAX    03-5841-5693