「定常的な広域地殻活動」においては,島弧−海溝系規模の空間的スケールと地震サイクルの繰り返しを視野にいれた時間的スケールにおいて,場の不均質,その中での地殻活動のメカニズムを解明し,プレート運動の特性を反映している地震の繰り返し発生の特徴を明らかにすることが重要と考える.これらにより,プレート運動に伴う,沈み込み帯での応力再配分・蓄積過程に関する新しい知見を得ることを目指ざし,前年度に引き続いて下記の3項目の観測・研究を重点的に実施したい.
(1)プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究
太平洋プレート境界の構造及びプレート間カップリングに関する観測研究を実施する.具体的には,三陸沖の海底地震観測によるプレート境界の不均質構造の解明を目指す.制御震源による構造調査とともに,自然地震観測を行い,プレート間カップリングの空間分布の違いの解明することとする.12年度は自然地震観測を行い,沈み込み領域での地震の発生様式(地震震源の空間分布や地震のサイズ,メカニズム)を把握し,プレート間カップリングに関する新らしい知見を得ることを目指した.平成13年度は,11年度の構造解析の測線をより東側に移し,沈み込み面の反射強度(物性)とアスペリテイ分布に重点を置いた人工地震と自然地震の観測を行う.東大白鳳丸と地震予知事業費の用船と併用し,地震計,エアガン,火薬を用いた構造探査を行う.測線は南北測線120km,東西測線120km,地震計40台,火薬100発,エアガン17リットルx2台により行う.一方,陸域においては,前年度に引き続き,高速サンプリングGPSや広帯域地震計を利用して,これまでの短周期地震計とGPS観測の間の帯域を埋める努力を行なう.さらに,カップリングの時空間変化をもたらす原因の解明のためには,構造や地震活動の情報と摩擦構成則の発展は不可欠であるため,三陸沖の構造探査・微小地震観測と岩石すべり実験を継続する.特に相似地震の解析は,カップリング状況について新しい知見をもたらす可能性が高いため,今後さらに解析を進める.これらの結果から,カップリングの時空間変化と構造・大地震の発生位置や震源過程・津波地震・理論との関係等を解明していく.
(2)プレート内部の地殻活動・構造不均質に関する研究
プレート内(島弧内)の構造的不均質を解明し,地震活動・地殻変動等の地殻活動との関連性を明らかにする目的で,大規模合同実験観測を実施してきた.平成13年度は,モ地震時及び地震直後の震源過程と強震動モ計画推進部会の研究計画と密接な連携のもとに,南関東及び東海地域での実験・観測を行う.国府津-松田断層を対象とした反射法地震探査及び小田原平野における人工地震探査を実施し,地殻深部から浅層部までの断層系の形状や周辺の不均質構造を明らかにするとともに,強震振動発生メカニズムの解明目指す.また,JAMSTECと共同で,東海地域において海陸共同地震探査を行い,同地域に沈み込むフィリピン海プレートの形状と物性,島弧地殻内の地殻内不均質構造を明らかにする.更に,鳥取県西部地震発生の事態を踏まえ,平成14-15年度に実施予定の西南日本における合同観測の一部(特に,自然地震観測)を,繰り上げて実施する.電磁気的探査は,島弧マントルスケールの大局的電気伝導度構造決定(ネットワークMT観測「NMT観測」)と,特定の地殻活動地域スケールの電気伝導度精密構造決定(広帯域MT観測「WBMT観測」)とを目指した全国大学・国立研究所共同観測研究を引き続き実施する.NMT観測は,苫前(ないしは小平)から紋別に至る北海道道北地域,福島県原町から新潟県に至る東北南部地域,中国四国地域の未観測域をうめる観測を可能な限り実施する予定である.また,吉岡・鹿野断層帯域,あるいは,鳥取西部地震断層域で,WBMT観測,あるいは必要に応じて人工電流源を用いたアクティブな構造探査を実施する.
(3)地震発生の繰り返しの規則性と複雑性の解明
地震発生の繰り返しの実態の解明は,地震発生の場における定常的運動及びその揺らぎを明らかにする意味でも,また地震の発生時期の長期的予測を行う基礎という意味でも重要である.平成13年度は,地震時のずれの量と地震発生時との同時解明による時間予測モデル等の検討及び,発生時予測の精度向上をはかる目的で,別府湾,四国の中央構造線活断層系,および糸魚川-静岡構造線活断層系で適地を選定し,音波探査,ピストンコアリング,地層抜き取り装置による調査等を実施する.これらの研究により,地震時のずれの量と地震発生時を同時に解明して繰り返し発生の規則性を解明する.また,過去の地震の被害分布とずれの量分布とを比較して,アスペリティの位置予測が可能かどうかを検討する.また,活断層調査による台湾地震の事前予測可能性の検証する目的で,前年度に引き続いて1999.9.21台湾地震に焦点をあて,地表地震断層の位置と既存の活断層トレースが異なる地域での検討や,被害集中帯の予測に関する検討を進める.
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