第9章「過去の大学地震観測網のデータベース化」研究計画
1.はじめに
地震予知に関係してこれまでに集積された大量のデータや研究成果などの各種資料を,総合的,多角的に広く活用することが,地震予知研究の進展に不可欠であるとともに,地震予知の基盤を支える地球科学全般の進展に役立つことが期待される.このため,地震予知計画発足以前のものも含め,地震予知に関する資料のデータベース化と長期的視野に立って資料を保存する体制の整備に努めることが,新たな地震予知研究のための建議の中でも要請されている.この建議を受けて地震予知協議会のもとの企画部計画推進部会に「過去の大学地震観測網のデータベース化」計画推進部会が平成13年度に設置された.
2.平成13年度の研究成果
地震予知計画発足以前から地震観測所を維持してきた国立大学もあるが,1964年に地震予知研究計画が発足してから全国の基幹大学に地震観測所が設置され,全国的に微小地震までを観測出来る体制が順次整えられてきた.しかし,観測とデータ処理はそれぞれの観測所の観測網内で閉じたものであった.その後,データ伝送・処理技術の進展に伴って1970年代後半から観測所相互のデータがリアルタイムで交換されるようになり,観測能力は飛躍的に向上した.1985年7月から各大学の験震データをまとめて,「国立大学観測網地震カタログ」が東京大学地震研究所地震予知情報センターから半年毎に印刷公表されている(Earthq. Pred.Data Center, 1989).しかし,現在にいたっても,験震原データと地震波形データは各大学に個別に保管されていて,どの大学でも人材と資材の不足などのためデータの保全に苦慮しており,貴重なデータの散逸,消失が憂慮される状況にある.
地震データベース化に先だって,定常地震観測網を維持している大学がどのようなデータを持っているかを調べた。1970年代後半から隣接大学間でデータ交換がされているが,各大学は独自に験測処理したデータと地震波形データを保有している.
次に,各大学が,独自に決定した地震震源要素を東京大学地震研究所地震予知情報センターへ集めた.これまでのデータ収集状況を第1表に示してある.収集開始は各大学が観測を始めた時からとした.地震調査研究推進本部による全国地震基盤観測網の構築に伴い,1997年から大学のデータも気象庁で一元化処理されることになった.したがって,これより前のデータを収集対象とすることとし,1年間の重複期間をとって,1998年までのデータを集めた.
集めたデータを統合した全国地震震源データベースを構築中である.しかし,㈰データに紛れている誤りを可能な限り取り除くこと,㈪2つの大学の観測網の境界付近で発生した地震を両方の大学で震源決定していることがあること,㈫発破のデータが含まれていること,など対処するのに工夫と時間を要する問題が残されているので,データベースは公開に至っていない.現時点のデータベースから作成した1994年1年間の震源分布図を第1図に例としてあげておく.
3.まとめと今後の方向
震源要素を算出する基になった験震データの収集も始めたところである.
どの大学でも観測点の増設・廃止,観測方式の変更などを経験しているが,これらの観測情報をつけないままデータベースを公開すれば混乱を招くだけである.早い機会に観測情報を整備してデータベースを公開出来るようにする.
古い地震記録波形データを保全するために,煤描きやインク描きの古い地震波形記録紙のマイクロフィルム化,MTなど古い電子媒体記録を現在可読な媒体への変換などが急がれる.その実行に必要な多額の経費を得るためにも,記録の所在と量,保存状態などを確認しておくことが第1歩である.
文献
Earthquake Prediction Data Center, Japan University Network Earthquake Catalog July−December 1985, Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo, 1-496, 1989. (The following issue has been published semi- annually up to 1996.)
第1表 平成14年1月17日現在のデータ集積状況
第1図 1994年の震源分布図(暫定版).マグニチュードM0.0以上のデータ65409個がプロットされている.