(1) 課題番号:0109

(2) 実施機関名:東京大学地震研究所地震予知研究推進センター

(3) 課題名:震源核に関する実験的研究

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその中での平成13年度までの成果(以下の4-14-24-3について答える)

(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下,建議)の項目:

1.(3) 直前過程における地殻活動

 

(4-2) 関連する「建議」の項目 (建議のカタカナの項目まで)

1(3)ウ,1(2)エ,ウ,1(3)ア,イ,1(4)ア,3(1)

 

(4-3) 5ヵ年計画全体としてのこの研究課題の概要と到達目標」に対する到達した成果:

小課題(I) 「せん断破壊過程を支配する構成法則の地震発生場環境要因依存性と歪速度依存性の定量的評価」:

地震の破壊過程は,既存の弱面上での摩擦すべり破損と既存の弱面を含まない岩石の破壊の両者がミックスした不均質断層面上での破壊過程である.しかしながら,これまで地震発生場における温度・圧力で,間隙水存在下での岩石の破壊過程に関する研究はほとんど行なわれていない.そこで,岩石の破壊過程を記述するすべり変位量依存性構成法則が,地震発生層に相当する環境条件下で,どのように温度・有効法線応力・すべり速度に影響を受けるのかを室内実験により定量的に明らかにした.温度300℃以下では温度の効果はほとんど現れず,最大せん断強度tp(1a)は有効法線応力sneffの線形関数として記述でき,破損応力降下量Dtb1b)と臨界すべり変位量Dc1c)は,ほぼ一定値になる.一方,温度300℃以上では,各構成則パラメータは温度とsneffの両者の関数として記述できる.最大せん断強度tpは,温度300℃以下におけるsneffとの線形関係から期待される値に比べ減少し,sneffが大きい程その減少量は大きい.破損応力降下量Dtbは温度の増加にともなって減少し,sneffの増加にともないより減少する.臨界すべり変位量Dcは主に温度の増加にともなって増加し,sneffが大きいとより増加する傾向にある.データから求めた,各構成則パラメータと温度・有効法線応力の関係式を各図の実線でプロットしてある.また,破壊実験後の破損面近傍の顕微鏡観察により,温度300℃以上では黒雲母が顕著に塑性流動しており,同時に石英が若干塑性流動していることを確認した.破損面近傍のほとんどの粒子がクラックにより破砕されており,脆性破壊に若干の塑性流動が混合した結果,上記の様な温度300℃以上における構成則パラメータの変化が生じたと考えられる.次に,歪み速度を10-5/s10-7/sの範囲内で変化させた実験により,すべり速度が構成則パラメータににどのような影響を及ぼすのかを定量的に評価した.すべり速度の減少にともなって,最大せん断強度tpはすべり速度の対数関数に従いながら減少する(1d).破損応力降下量Dtbと臨界すべり変位量Dcも,すべり速度の減少にともない減少する.しかしながら,本研究の温度・有効法線応力条件下においては,すべり速度依存性は顕著ではなく,また,その依存性は温度・有効法線応力にほとんど依存しないことがわかった.

 以上の研究成果は,地震発生場における温度・圧力・間隙水圧条件下で行なわれた実験で得られたものであり,とくに間隙水圧とすべり速度(〜歪み速度)が構成法則に及ぼす影響を定量的に評価している.したがって,本成果は現実の大地震発生予測モデルの構築をおこなう上で,重要な物理的拘束条件を提示するものである.

 

小課題(II) 「破壊に伴う電磁気シグナル発生のメカニズムの解明」:

水が電磁放射に及ぼす影響に関して研究を行った.石英を含む岩石内で破壊などにより応力変化が生ずると,圧電効果により電磁放射(EME)が起こる.湿潤状態では抵抗率が非常に小さいため,誘電率と抵抗率の積で与えられる電気的緩和の時定数が短く,圧電効果で分極しても瞬間的に緩和される.したがって,湿潤状態の場合は乾燥状態に比べ一般的にはEMEは出にくいと考えられる.しかしAEの時のように応力変化の速度が非常に速い場合は,時定数に対応した高周波数領域で測定すればEMEの検出は可能かもしれない.そこで,円柱形の花崗岩試料を用いて3軸圧縮破壊実験を行い,湿潤状態と乾燥状態との比較を行った.湿潤状態でも乾燥状態でも高周波数成分をもつEMEイベントは,測定されたもの全てがAEによって引き起こされていた.乾燥状態の方が多くのEMEイベントが発生し,振幅も大きい.よって,湿潤状態の方がEMEが発生しにくいのは事実であるが,イベント数は1/3程度,振幅は同じ大きさのAEに対してほぼ10dB減少する程度の差であり,時定数が数桁異なることを考えると,EMEの発生数や強度の違いは僅かといえるだろう.

 

小課題(III) 「すべり破壊核形成過程のモニタリング手法の開発」:

模擬断層面に弾性波を能動的に照射したときに観測された,せん断応力の増加に伴う透過波動の振幅の増加は,いわゆるjunction growthのメカニズムによって説明し得ることが明らかとなった.このjunction growthは,アスペリティ接触において,せん断応力がわずかでも加わったときに必然的に引き起こされる極めて小さな変位による,接触面積の増加のメカニズムである.そしていわゆる観測によって捕らえうる前兆的なすべりは,このjunction growthが個々の接触において徐々に終焉を向かえたあとに生じるすべりである.したがって,junction growth,前兆的すべり,動的破壊は,小さなせん断応力が加わり始めた初期の段階から最終破壊に至る過程で,連続した破壊過程として捕らえるべきものである,ということが明らかとなった.また,地震サイクルにおけるこのような面の状態の変化を透過波動で原理的に検出可能であることが示された.

 ガウジを挟んだ断層への波動透過に関する準備実験はあまり進捗していないが1〜100ミクロン程度の粒径をもつガウジ層への波動透過実験を実施した.波動透過率は,粒径,水の存在の有無にかかわらず1〜2割程度となること,また波動到達時間はガウジの層の厚さから推定される遅れより有意に遅くなること,が観察された.また,当初の課題とは別に,人工的に作成した,さまざまな大きさの接触点をもつ断層面に波動を透過する実験を行った.透過波動の波長が接触点のおおきさの4倍以下まで短くなると,透過率は著しく影響を受け小さくなることが実験からも,また透過理論からも確認された.

 

小課題(IV) 「アスペリティの相互作用の研究」:

前年度,大型2軸装置を用い模擬断層面にふたつのアスペリティを生成させて行った固着実験により,アスペリティの強度比によって,ひとつのアスペリティのみが破壊しもう一方のアスペリティが破壊を停止させるシングルイベントと,両方が連動して破壊するダブルイベントとが交互に繰り返し起こることを示した(Yoshida and Kato, 2001).今年度は,ふたつのブロックをバネで連結しドライバーをゆっくり動かしていくモデルを考え,ブロックのすべりの連動性について調べた.古典的な最大静摩擦と動摩擦を仮定し,ブロック2の最大静摩擦はブロック1b倍であるとする.2(a)bを変化させてシミュレーションを行い, 101回目から200回目の破壊が起こる間に,ふたつのブロックをつなぐバネの長さがどのような値をとったかプロットしたものである. b=3周辺ではシングルイベントとダブルイベントとが交互に繰り返される周期解になっている.既にHuang and Turcotte(1990)によって示されていることだが,異なるタイプの周期解にはさまれてカオスの窓が生じている.完全には元の状態に戻ることがないという意味でカオスになっている b=2.5のときについて少し詳しく見てみる.3にブロック底面の剪断応力の時系列が示されているが,カオスであっても強い規則性があるのがわかる.多数回のイベントの解析から,ダブルイベントの70%は,シングルイベント(再来間隔が異なるが大きさはいつも同じ)が起こったあとちょうどt=100後に発生していることがわかった.ダブルイベントの大きさはイベント毎に異なる値をとるが,大きさについても規則性があり,ある幅で予測できることもわかった.

 この数値実験ではすべりが止まった瞬間に最大静摩擦まで回復すると仮定していたが,瞬間的な強度回復は起こらず,ひとつのイベント中に一方のブロックが一時的に停止しても動摩擦を超える力が働けばすべりだすと仮定すると,2(a)でみられたカオスの窓のいくつかは消滅し周期解になる(2(b)).現実的な摩擦則では,瞬間的強度回復は起こりにくいと考えられるのでカオスになりにくいだろう.また,断層の強度回復過程はローディングとの関係から地震サイクルを考えるときに重要視されてきたが,この結果は,瞬間的な強度回復が起こるかどうかが,地震直後の応力場,つまり次のサイクルの初期条件を決めるうえで重要な役割を果たしていることを意味する.

 

小課題(V) 「砂山崩しの実験的研究」:

砂山崩しの実験を行なった.砂山の受け皿として,4 ,5 ,8cm のディスクを用いた.砂をディスクの上にゆっくりと落とし,砂山を形成し,ナダレを発生させる.ナダレの発生のしかたに与える要因は,たとえば砂の流量,砂の落下速度,最終出口の径などがあるが,最も大きな要因はディスクの径である. 小さいディスクでは4(a)に示すように小さなナダレがランダムに起き,ナダレの大きさ分布はグーテンベルグ・リヒター則に従い冪分布となる(SOC ).これに対して大きいディスクの場合は,4(b)のようにかなり大きな規模のナダレが周期的に発生し(固有地震的),その分布は冪分布にはならない.このメカニズムを解明することは,SOC と固有地震の違いを考える上で示唆的であると思われる.また,本課題及び小課題(IV)の成果は,単純にカオスやSOCを根拠に地震予知が不可能であるとはいえないことを意味している.

 

(5) 平成13年度成果の概要

(5-1) 「平成12年度全体計画骨子の補足説明 3.具体的な課題提案の背景」のどの項目を実施するのか:

(4) 地震発生に対する地殻流体の役割

(4)-2. 断層面の破壊強度に対する地殻流体の役割

及び

(5) 断層面上の強度と応力の時空間分布

(5)-1. すべり発生の条件

(5)-2. 不均一な強度場での破壊核成長過程

(5)-3. すべり分布の再現性の検証

(5)-4. 応力・強度分布推定法の開発

 

(5-2) 「平成12年度項目別実施計画」のどの項目を実施するのか:

3.「直前過程における地殻活動」研究計画

[I]地殻流体の関与する過程の解明

(Ia) 室内実験 

[II]破壊核成長の過程の解明

(IIa)室内実験 

 

(5-3) 平成13年度に実施された研究の概要:

小課題(I) 「せん断破壊過程を支配する構成法則の地震発生場環境要因依存性と歪速度依存性の定量的評価」:

高圧高温岩石破壊装置により構成法則の地震発生場環境要因(温度,圧力,間隙水,歪速度,破損面形状不均一など)依存性の定量的評価のための実験を継続した.

小課題(II) 「破壊に伴う電磁気シグナル発生のメカニズムの解明」:

圧電効果によるAEに伴った電磁放射に関して,湿潤状態と乾燥状態の比較を行った.

小課題(III) 「すべり破壊核形成過程のモニタリング手法の開発」:

1〜100ミクロン程度の粒径をもつガウジ層への波動透過実験を実施した.

小課題(IV) 「アスペリティの相互作用の研究」:

ふたつのブロックをバネでつないだモデルにより数値実験によりアスペリティの連動性について調べた.

小課題(V) 「砂山崩しの実験的研究」:

砂山崩しの実験を行い,条件によっては固有地震的に大きな規模のナダレが周期的に発生することを示した.

 

(5-4) 「平成13年度の到達目標」に対する成果の概要:

小課題(I) 「せん断破壊過程を支配する構成法則の地震発生場環境要因依存性と歪速度依存性の定量的評価」:

地震発生場における温度・圧力・間隙水圧条件下で行なわれた実験により,構成法則の温度・有効法線応力・すべり速度依存性を定量的に明らかにした.今後は,強度回復過程が構成則にどのような影響を及ぼすのかに関する研究を進める予定である.

小課題(II) 「破壊に伴う電磁気シグナル発生のメカニズムの解明」:

流動電流係数の温度依存性の測定に関して100C以上での高温実験の目処はたっていない.間隙水存在下での圧電効果による電磁放射に関する理解は深まった.

小課題(III) 「すべり破壊核形成過程のモニタリング手法の開発」:断層近傍における応力やすべり変位をモニターする以外の方法で破壊核を検出する手法の開発してきたが,今後はガウジを挟んだ断層への波動透過に関する実験を推進する必要がある.

小課題(IV) 「アスペリティの相互作用の研究」:

不均質な法線応力場での破壊核の成長,動的破壊への移行,破壊の伝播と停止を大型岩石試料の断層面上で観察し,アスペリティの相互作用を明らかにすることを目指している.今後は非地震性すべり領域も視野に入れた実験に進展させる予定である.

小課題(V) 「砂山崩しの実験的研究」:

Diskと砂の大きさの比にcriticalな点がありその点を境に,ナダレの挙動がSOCから固有地震的にドラスティックに変化することがわかった.詳細なメカニズムは不明だが,このメカニズムの違いを考えることは地震学にとって重要であろう.

 

(5-5) 共同研究の有無:

小課題(II)は理化学研究所(地震国際フロンティア研究プログラム)との共同研究,小課題(III)と小課題(V)は横浜市立大学による研究.

 

(5-6) 平成13年度の成果に関連の深いもので,平成13年度に公表された成果

 

学会発表

橋本智洋・吉岡直人,アスペリティ接触の動力学 5.脆性物質におけるスクラッチング,日本地震学会2001年度秋季大会.

岩佐幸治・吉岡直人,透過波動による震源核検出の試み 5.断層面のstiffnessの変化,日本地震学会2001年度秋季大会.

加藤愛太郎・望月裕峰・吉田真吾・大中康誉, 地震発生環境条件下における岩石のせん断破損構成則の歪み速度依存性(2), 日本地震学会2001年秋期大会.

加藤愛太郎・大中康譽・望月裕峰, 地震発生環境条件下におけるせん断破損構成則の温度・圧力依存性, 地球惑星科学関連学会2001年合同大会.

加藤愛太郎・小笠原 宏・飯尾 能久, 微小地震の初期破壊過程−南アフリカ金鉱山における地震発生の制御実験(24), 地球惑星科学関連学会2001年合同大会.

Kato, A., S. Yoshida, H. Mochizuki and M. Ohnaka, Experimental study of the shear failure process of rock in seismogenic environments, International Workshop on Physics of Active Fault, 2002.

芝崎文一郎・吉田真吾・伊神正貫,破壊核形成に伴う水の移動と流動電流,地球惑星科学関連学会2001年合同大会.

吉田真吾,湿潤状態と乾燥状態の岩石におけるAEに伴う電磁放射,地球惑星科学関連学会2001年合同大会.

吉田真吾,流動電流係数とゼータ電位の温度依存性,地球惑星科学関連学会2001年合同大会.

吉田真吾・加藤尚之,アスペリティの連動性ー自由度2の質点バネモデルによる数値実験ー,日本地震学会2001年度秋季大会.

吉岡 直人,砂山崩しの実験—SOC と固有地震—,地球惑星科学関連学会2001年合同大会.

 

論文

Funahashi, F., and N. Yoshioka, Effects of contact geometry of faults on transmission waves, Pure and Appl. Geophys., 158, 717-739, 2001.

Iwasa, K., A study on frictional sliding processes of faults from a micromechanical point of view --- A laboratory experiment to monitor the contact state of a fault by transmission waves and a verification by computer simulation, Ph.D thesis, The University of Tokyo, 2001.

Kato, A., M. Ohnaka and H. Mochizuki, Constitutive properties for the shear failure of intact granite in seismogenic environments, Submitted to J. Geophys. Res., 2001.

Kato, A., Experimental study of the shear failure process of rock in seismogenic environments: Formulation of shear failure law, Ph.D thesis, The university of Tokyo, 2002.

Yoshida, S., Convection current generated prior to rupture in saturated rocks, J. Geophys. Res., 106, B2, 2103-2120, 2001.

Yoshida, S., and A. Kato, Single and double asperity failures in a large-scale biaxial experiment, Geophys. Res. Lett., 28, 3, 451-454, 2001.

吉岡直人・舟橋史考,単一断層面による透過波動の変化—断層面の幾何形状が透過波動に及ぼす影響,地震,54, 215-223, 2001.

 

 (6) この課題の実施担当連絡者

氏名:吉田真吾

電話:03-5841-5814

FAX03-5689-7234

E-mailshingo@eri.u-tokyo.ac.jp