(1)課題番号:0122

(2)実施機関名:東京大学地震研究所、京都大学

(3)課題名:歴史上の内陸被害地震の事例研究

(4)本課題の5ヵ年計画の概要とその中での平成13年度までの成果:

(4−1)「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:V.1.() エ.長期的な地震発生確率の推定

(4−2)関連する「建議」の項目 (建議のカタカナの項目まで):(1)ウ

 (4−3) 5ヵ年計画全体としてのこの研究課題の概要と到達目標」に対する到達した成果:内陸に発生した歴史地震の発生機構、活断層との関係、繰り返し周期性などを解明するため、史料収集および事象別の詳細データベースを構築する、というのが目標である。

 当初研究対象は、1847年善光寺地震など、糸静線、中央構造線付近に起きた内陸地震をデータベース作成をめざしたが、平成13年度は、これらの地震と並行して近畿地方中部におきた安政伊賀上野地震(1854)の事象別データベースを作成し、その地震を発生させた活断層について考察した。安政江戸地震(1855)、および宮城県沖地震系列の一連の歴史地震についても詳細震度分布を得た。

 

() 平成13年度成果の概要

(5−3) 平成13年度に実施された研究の概要:

  a) 安政伊賀上野地震(1854)は、安政東海、南海地震に約半年先行して起きた内陸地震で、従来大長ら(1982)によって、本震の被害分布が検討され、京都・奈良・三重県の境界付近を東西に走る木津川断層と、四日市付近を南北に走る桑名四日市断層という2本の断層がすべったものとされてきた。しかし、本研究による事象別データベースの作成により2個の前震、8個の余震による震度分布が詳細に知られるようになり、その各震央位置を推定したところ、木津川断層とその延長上にのみ分布していて、桑名四日市断層の付近には全く分布していないことが判明した。したがって、安政伊賀地震は木津川断層系のみがすべった出来事であることが鮮明になった。

 b)弘化善光寺地震(1847)のデータベース化を進め、断層活動期記事、地すべりおよび新湖出現記事、および震度分布を明らかにした。

 c)宮城県沖地震(1978)と同系列に属すると見られる地震は、歴史上にも1717年、1793年の仙台平野の地震を初めとして5回の事例が知られている。一部は平成12年度までに震度分布を解明したが、平成13年度は、地震研究所倉庫に保存されている明治期の新聞切り抜き記事から明治30年の宮城県沖地震と、その3年後に起きた広義の余震の震度分布について解明した。

   d)江戸時代、江戸を壊滅的な被害をもたらした、元禄地震(1703)、および安政江戸地震(1855)について、東京両国の江戸東京博物館の新田研究員によって当時の大名屋敷の配置図の詳細が明らかにされたことから古文書記載事実の現代地図上へのマッピングが可能となった。データベース化を進めているが、詳細地図への本格的なプロットは14年以後の事業とする。

  e)秋田県山形県内陸部に生じた地震について調査した。

  f)古代841年に長野県を襲った地震の物的検証の手がかりが得られた。

  g)古代の「六国史」や近世初期の「当代記」など、史料の乏しい時代の地震記載の   文献の性質や欠落時期の推定を行った。

    f)、g)は課題番号124の研究であるが、この項に含める。

 なお、平成13年9月7日−9日、秋田県象潟町にて、歴史地震研究会第18回研究発表会を主催した。29件の歴史地震・歴史上の火山活動に関する講演が行われた。

 

(5−4) 「平成13年度の到達目標」に対する成果の概要:

 平成13年は内陸地震の例として、安政伊賀地震、宮城県沖地震、善光寺地震を取り上げ上記のような成果を得たが、糸魚川静岡線、中央構造線などの関連性を意識した内陸地震の解明は14年度以降の課題とする。

 

(5−5)共同研究の有無:

 史料地震の研究は、全体として静岡大学教育学部、群馬大学教育学部との共同で行っている。

 a)安政伊賀地震の研究は、京都大学、早稲田大学と共同で行っており、5人ほど研究に参画している。

 d)の江戸の地震に関しては千葉県佐原市の歴史民俗博物館、および両国の江戸東京博物館と密に連絡を取りながら研究を進めている。

 е)は、象潟町、および山形県酒田市光丘文庫との協力のもとに研究を進めている。

 

 なお、大谷大学の大学院生・西山昭仁氏がわれわれとの協力関係のもとに京都付近に発生した内陸地震の研究を行っている。

 

(5−6)平成13年度の成果に関連の深いもので、平成13年度に公表された成果:

中村 操(早稲田大)、2001、安政伊賀上野の地震の震度分布と震源、歴史地震、16,146-155.

中村 操・笠原慶一、2001、歴史地震の規模の推定、月刊地球、23,2,84-88.

西山昭仁、2001,元暦二年(1185)京都地震の被害実態、月刊地球、23,2,113-119.

田中敏貴、小山真人、2001、近世初期の自然災害記録媒体としての「当代記」の特性分析、歴史地震16,156-162.

都司嘉宣、2001、歴史史料から見た宮城県沖地震の再帰性、地球惑星科学合同学会予稿集、20016月.

都司嘉宣、2001,江戸時代、明治時代記録に見る宮城県沖地震の再帰性、第18回歴史地震研究会研究発表会講演要旨集、秋田〓ァ象潟町、20.

都司嘉宣、2002、安政伊賀上野地震の顕著前震、および顕著余震,歴史地震、17(投稿中)

都司嘉宣・上田和枝、2001,貞享三年86(1686103日)の遠江三河地震による遠州横須賀の被害、月刊地球、127-137.

 

() この課題の実施担当連絡者

氏名:都司嘉宣

電話:03-5841-5724

FAX03-5689-7265

e-mailtsuji@eri.u-tokyo.ac.jp