平成14年度「準備過程における地殻活動」計画
「準備過程における地殻活動」計画推進部会
平成13年1月10日
大地震に至る準備過程の解明のためには,プレート間相互作用によって供給された応力がどのように断層に伝えられて地震を発生させるのか,そのプロセスを詳細に明らかにする必要がある.ここでは下記の3項目の分類による計画を推進するが,これらはいずれも,他の推進課題と密接に結びついているものである.平成11〜13年度の研究成果を踏まえ,平成14年度においても時間変化の研究を本格的に推進する.
(1) プレート間カップリングの時間変化の解明
プレート境界における余効すべりや準静的すべりの定量的把握,カップリング域の特定,カップリングの時間変動とそのメカニズムの解明は,応力の供給源の情報として基本的に重要である.プレート間カップリングの時間変化の解明のために,三陸沖,十勝・根室半島沖,東海〜南海,日向灘,南西島弧地域などにおいて,「定常的な広域地殻活動」の計画によって実施される観測とも密接な連携をとりながら研究を推進する.14年度においても,カップリングの時空間分布を規定する要因の解明を引き続き推進する.これまでの成果として,アスペリティやバリアに関する情報も得られつつあるが,過去の事例を見ると,単一セグメントの破壊に留まる場合だけでなく,バリアを乗りこえる場合,セグメント間相互作用により破壊が加速する場合等があると考えられる.14年度においては,これらのパターンの違いが何に起因するのかの解明も進める.
三陸沖では,ケーブル式海底地震観測,孔内地震・地殻変動観測,海底測位・測距 等の地殻変動観測を連携させ,プレート間カップリングの空間的不均質を明らかにする.
日向灘周辺においては,既存のGPS観測から推定されるカップリングの不均質と地震活動・発震機構の対比を行うとともに,三陸沖で発見されたような固有地震的な小地震活動の調査を行う.
日本海から伊豆・小笠原に至る海域において,陸域観測網とを組み合わせた十字アレイ観測を継続し,広域な地殻活動の把握を進める.
東海地域でのプレート間カップリングに関しては,フィリピン海プレートの収束運動を含めた,より高次なモデルの構築を行う.また,国土地理院のGPS観測網がリアルタイム化されて全国的にリアルタイムキネマティックGPS観測が可能な状況になるので,より高精度なGPS観測手法を確立する.紀伊半島では,地理院の観測網を補完してヒンジラインを横切るようなGPS観測網を構築し,繰り返し観測を実施する.
東海地域では,1998年来地震活動の静穏化が現れており,カップリングが従来とは異なるステージに入った可能性が指摘されている.14年度においても13年度に引き続き,現在の状況が大破壊への準備過程を示している可能性もあることに留意しつつ,静穏化現象のモデル化を行って定量的に解釈する.
(2) 地震多発域へのローディング機構の解明
プレート間相互作用を起源とする応力が,内陸やプレート境界の特定の領域に集中して地震を発生させる機構(ローディング機構)の解明が必要である.そのためには,地殻応力を正しく測定して,プレート間カップリングの時間変化の影響と内陸の非弾性変形の影響を正しく分離する必要がある.そのため,現在の応力測定を改善するとともに測定例を増やし,地震データを用いた応力テンソルインバージョンによる観測結果の充実を図る.また,多項目・集中的な観測から,地下構造の不均質性の分布と応力集中の関係を解明する.
14年度におけるフィールドとしては西南日本を重点とし,全国の大学が共同して,衛星テレメターによる合同稠密地震観測を実施する.この観測から,地震波速度やS波反射面の詳細な空間分布を求める.トモグラフィーの結果を実験室の物性データと比較し,地殻から上部マントルに至る流体分布を3次元的に見積る.
一方,活断層密度も高く,微小地震活動も活発な中部山岳地域でも,応力・歪場の時間変化を推定し,地殻の塑性変形と断層への応力集中のメカニズムの解明を進める.跡津川断層周辺での集中地震観測,北部フォッサマグナ地域での地震観測を実施する.花折断層と跡津川断層周辺では稠密GPS観測も実施する.御岳群発地震震源域では,高密度GPS観測,水準測量の継続などによる高分解観測を実施するとともに,地震波反射面分布などの地殻の微細構造とその時間変化の検出精度を検討する.
その他のフィールドとしては,弟子屈・屈斜路地域,岩手・秋田県境〜宮城県,別府-島原地溝帯における観測を継続し,異なった環境にあるそれぞれのフィールドの結果を相互比較する.宮城県鬼首地域では高精度観測の強化およびアレイ観測をおこない,周辺での散乱体分布,物性の詳細な推定により,強度分布の不均質性との関連について考察する.
(3) 断層およびその周辺の微細構造と地殻流体の挙動の解明
ローディング機構の理解に基づき,大地震に至る過程を解明するためには,断層およびその周辺の微細構造,歪や応力の集中過程を調べることが必要である.これまでの研究から,アスペリティ領域の特定とアスペリティの強度回復過程を明らかにすることが重要であることがわかってきた.そこで14年度においても,鳥取県西部,台湾,野島断層における観測を重点的に実施する.
14年度に全国の大学が共同で実施する西南日本合同観測においては,鳥取県西部地震の震源域,島根県東部の地震活動空白域,および鳥取県東部から兵庫県北部の両空白域に着目して,総合観測調査を実施する.その中では,下部地殻の地震波速度不連続面のイメージング,地震波反射面の時間的変動,稠密GPS観測による空白域における断層構造の時間的・空間的な把握,地下水位・水圧・温度測定による地殻流体の挙動の推定,広帯域MT観測による地殻深部の比抵抗構造の調査などを行う.
台湾においては,12・13年度に取得した地震データから,断層面の不均質性,本震のすべり分布,余震分布,断層面の速度分布の関連を解明して,断層の強度分布を推定する手がかりを得る.
野島断層においては,地震,地殻変動,地球電磁気,精密制御震源(アクロス),地下水,各ボアホール観測を継続する.また,第3回目の注水試験を実施する.
鳥取県西部地域や岩手山南西部では,本震発生前にモホ面近傍の低周波微小地震が発生していたことが指摘されており,地殻流体の存在が強く示唆される.このような内陸部のみならず海域のプレート境界においても,地殻流体の存在や挙動で説明可能な事例が得られるようになってきたが,いずれも状況証拠からの推論の域を出ていない.14年度においては,地殻流体の存在と役割に関する直接的な証拠を得るための観測・研究も推進する.そのため,断層近傍での地震波散乱強度分布の推定と,低周波地震の震源時間関数の推定を行う.紀伊半島のヒンジラインを横切るGPS観測網と連動させて,地下水位または間隙水圧の連続観測を開始する.電磁気的観測としては,広帯域MT観測を吉岡・鹿野断層,花折断層で実施する.跡津川断層ではNetwork-MTのための長基線電場観測を実施する.重力観測については三宅島・神津島および伊豆周辺でのハイブリッド測定を繰り返す.地球化学観測については王滝地域を重点的に観測する.流体の移動と地震発生の相互作用の解明のために,「地殻活動シミュレーション」によって推進される計画とも連携して,モデルの構築をはかる.