平成14年度「観測技術開発」計画
「観測技術開発」計画推進部会
平成13年1月10日
(1)重点課題
日本全体の地震予知研究として、もっとも期待されている観測技術開発は海底地殻変動とくに音響結合による海底地殻変動計測技術である.巨大地震の震源域が海底下に広がる我が国では,海底地殻変動計測の研究は地震予知研究に必須の技術である.海底地殻変動計測技術は諸外国でも競って開発されているが,海溝型の巨大地震の発生予測につながる技術は国内で強力に推進すべきものである.
本観測技術に関する先行的な開発研究は,地震予知以外の資金も導入しながら進められてきたが, 海底地殻変動観測技術はプレート境界型地震の予知研究を進める上で必要不可欠なものであるため,地震予知がその早期実現に向けて開発を主体的かつ,強力に推進するべきであると考える.
海底地殻変動研究は現在2グループが競って開発している.東北大・東大海洋研・東大地震研グループと名大グループである.大学外では海上保安庁水路部において東大生産技術研究所と共同で研究が進められている。
(2)地殻深部モニターのための観測技術開発
海底観測技術以外に各大学から提案されている課題は、従来計測が不可能であった地殻深部の新しい観測量を得るための、比較的長期展望に基づいた提案である。このようなある程度開発に時間のかかる観測技術を大事にしていくことも、地震予知としては重要と考える。
正弦波を用いた弾性波モニターは連続的な正弦波を用いて、地下の流体分布の時間変動や、断層固着の」時空間変動などをモニターできる可能性を持った手法である。正弦波を用いた地下比抵抗モニター手法開発も提案されている。これは弾性波を用いたものと観測技法に共通性があり、共通の開発課題があると考えられ、弾性波モニターと協力した開発が必要である。開発はいずれも2つの方向性を持っている。設置を含めた安定な送受信系の確立は弾性波・比抵抗ともに共通である。また正弦波信号特有の性質を利用した用途の拡大も測られている。散乱の検出はその一例である。
ボアホールによる深部計測では、高性能のセンサーと計測機能をもった歪み計を用いた繰り返し応力測定が提案されている。応力の測定は必要性が叫ばれながらもなかなか実用的な方法が見つからないものであった。ここで提案されている方法にも、いろいろと困難がともなうと考えられるが、長期的な展望で開発を促進していきたい。
(3)各課題の具体的内容
(a)海底諸観測
・平成11年度からの各種の測器の高度化を継続する.三陸沖(平成13年度ー)における海底測位・測距・圧力計測を継続することによりプレート間カップリングの変化等にともなう海底地殻変動の検出を試みる(東大震研).
・精度向上の最大のネックであるkinematic GPSの精度向上を図る。同時に、実用化にむけた問題点を洗い出すために、複数点の同時測距を可能とするとともに、数ヵ月程度のやや長期の試験観測を行なう。また水深3000m以上の海域での長期観測に向けた基礎実験を行う(名大).
・これまで取得したデータの解析を進め,音響−GPS結合システム全体のパフォーマンスの現状に関する技術的な達成度に関する検討を引き続き進めるとともに,13年度に設置した機器を用いた洋上観測を継続して行い,「実戦的」海底測地観測への移行を進める予定である(東北大).
(b)ボアホールによる深部計測
インテリジェント回収型歪み計を用いた応力測定法の精度向上を図り、応力の時間変動測定が可能なレベルにまで高める。開発されたインテリジェント歪計は3成分であるが,地殻内の3次元の応力を測定するために多成分化(6成分)をはかる.これに伴い消費電力,データ量などが増加するため,さらに低消費電力化が必要である.開発にともない歪計・傾斜計の埋設前のボアホールを使用して実験を行う(東大震研・名大).
(c)正弦波信号源による地下モニター (ACROSS)
波動場制御試験および集中照射試験の実施。岩石散乱試験の実施。FEMシミュレーションの実施。(東大震研)
アクロス震源装置による安定した送信実験を継続するとともに、平成13年度に導入した地震計アレイ記録装置による高分解能アンテナを用いた実験を立ち上げる。安定した震源を確立するためには震源関数のモデル化が必要であり、モデル化のためのシミュレーションを行う。また、淡路島においては、運用上の問題点を解決した後に、長期間連続観測を行い、降雨や地震震動などの影響評価をおこなう。瑞浪においてもアレイ実験を継続し、直下の不均質の影響や、歪み・地下水との関連を評価する。これらの実験を通じて、地下の速度モニター手法の実用化を図る。(名大)
電極の検討:ボアホール内に設置しやすくかつ接地抵抗が低く安定な電極の検討。野外での試験観測の継続。を実施し、観測システムの総合的な評価を行う。同時に自然電位が測定できるように改良を行う (京大防災研)。