(1)課題番号：0118
(2)実施機関名：東京大学地震研究所
(3) 課題名：台湾における衝突型プレート境界大地震発生メカニズムの研究
(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその中での平成14年度までの成果：
(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」（以下、建議の項目：
㈽．１．(２) 準備過程における地殻活動
(4-2) 関連する「建議」の項目：
㈽．１．(２)イ、ウ、エ（４）ア、４．(４)(国際協力の推進)
(4-3) 「5ヵ年計画全体としてのこの研究課題の概要と到達目標」に対する到達した成果：
平成12年度から14年度に実施する3ヵ年計画の初年度。12年度に制御震源構造探査、地震観測を実施。13年度は、データの解析と補足データを取得した。平成13年3月から5月にかけて、台湾東西横断測線（約150km）で、60台のオフライン地震地震計を約1ヶ月設置し、連続地震観測を2度（計2ヶ月）実施した。14年度は、この観測データの解析と成果のまとめを行った。
衝突型プレート境界は、日本では伊豆、北海道日高などで類似の構造があるが、台湾ではそれらの構造が著しく、容易に観察できる。また、衝突型境界では、プレート沈み込み帯（海溝）での地震テクトニクスと類似の現象が陸上で観察できる点で、こうした研究を国外で行うことは、わが国の海溝型地震の発生機構解明に貢献できる。平成11年度、12年度に北海道日高で行われた「島弧地殻の変形過程の合同観測研究」との比較研究を実施する。国際協力の推進に寄与できた。
(5) 平成14年度成果の概要：
(5-1) 「平成12年度全体計画骨子の補足説明 ３．具体的な課題提案の背景」のどの項目を実施したのか：
(2) プレート境界におけるカップリングの時空間変化
(3) 内陸活断層周辺における不均質な応力・歪場の成因
1999年台湾地震は、陸上部に出現した、衝突型プレート境界地震であるので、(2)、(3)の研究に関連した新しい項目として実施する。また、
(1) 広域応力場の形成メカニズム
(1)-3. 変形特性
(1)-3-1. 地殻・最上部マントルの変形特性
の項目とも深く関連している。本計画は、現在の「地震予知のための新たな観測研究計画」ではカバーできない新しい課題であるので、科学研究補助金（基盤研究（Ａ））を申請して実施した。
(5-2) 平成14年度項目別実施計画のどの項目を実施したのか：
2.「準備過程における地殻活動」研究計画
(3) 断層周辺の微細構造と地殻流体の挙動の解明
(5-3) 平成14年度に実施された研究の概要：
・平成1４年度は、平成13年度に引き続き、１２年度に実施した地質調査を整理した。地震断層は一部区間を除いて，変動地形的に認定される活断層と高い精度で一致していた。車籠埔断層は彰化断層とともに東傾斜の衝上断層系をなしており，過去10万年間の累積した変形では，地震断層（車籠埔断層）の西側に伏在する彰化断層に伴う変形が大きい。
・平成11年度に実施した余震観測観測データの解析を進め、本震震源断層の形態、本震時の滑り分布との関係を解明した(Fig.1)。20,000個以上の地震が観測され，約7,000個の地震に対して，地殼内の速度構造の不均質を考慮して、連係震源決定法、Double-difference震源決定法により震源再決定を行った(Fig.2)。余震は，東に約30度で傾く複数の面上に分布し，深さ約15kmでは水平に広がり，更に、本震直下約30km付近でも西傾斜の面上に分布している(Fig.3)。これらの震源分布は，1999年集集地震がユーラシアプレートの付加体下部で発生したことを示している。また、余震は、本震の震源断層面以外の広範な領域で発生し、それらは、複数の面上に分布していることが明らかになった。
・地震波速度構造とその不均質性を解明するために、制御震源地震探査を、平成13年3月に台湾地震の震源域で実施した。１４年度には、13年度に引き続き、このデータを解析した。低重合の反射法処理をおこなった。地殻深部からの反射波が確認された。
・余震観測：台湾東西横断測線（約150km）で、平成13年3月から5月にかけて、60台のオフライン地震地震計を約1ヶ月設置し、連続地震観測を2度（計2ヶ月）実施した。平成14年度は、このデータの解析を行った。近地及び、遠地の地震の解析を行った。特に、遠地地震の走時は、台湾中央部の中央山脈で大きく遅れ（Ｐ波で1.5秒程度）これは、地殻の厚化で説明出来た。また、近地地震の走時解析によって、最上部マントルの速度が水平方向に変化していることが明らかになった。
(5-4) 当初設定した平成14年度の到達目標に対する成果の概要：
・余震観測データの解析を継続して、詳細な余震分布を得るという、当初の目標は達成出来た。この成果は、修士論文としてまとめられ、学会誌（ＧＲＬ）に投稿準備中である。この結果、余震は、既存の活断層の深部延長で発生していること、ユーラシアプレートの付加体下部の滑り面（デコルマ）に集中していることが分かった。同時に、本震の震源断層から離れた場所に余震が集中して発生していることが明瞭となった。これらの観測事実は、プレート境界と、その周辺への応力の集中機構に関する知見を増やした。すなわち、プレート境界では、大規模な衝突によって境界近傍に応力が集中し、プレート境界とその他の地殻内弱面が破壊される。大地震は、主たる滑り面（デコルマ）で発生し、余震は、その面及び、それとは離れた別の弱面（分岐断層等）でも発生する。本地震の余震分布は、本震の規模から装うされるより遙かに大きな領域で発生したことが特徴であり、台湾衝突境界での地殻の不均質性と、応力状態によって定量的に説明されるべき観測事実である。
・当初の目標では、臨時観測で得られた余震データと、台湾の定常観測点のデータを統合処理し、トモグラヒィー解析およびーロン応力解析を実施する予定であった。しかし、台湾気象台の定常観測データとの統合化に時間がかかりトモグラフィー解析まで出来なかった。応力解析についても、予察的な考察を行ったに留まった。ただし、得られたデータには、これらの研究を実施できる潜在的能力のあることは分かったので、今後解析を続けることによって実施できると思われる。
・平成13年に実施した台湾東西横断測線のデータ解析は、遠地地震の走時解析では成果が出たが、近地地震を含めた詳細な構造解析は完成しなかった。変換波の波形解析を含めた速度構造の研究を更に進める必要がある。
・変動地形学・地殻変動学的な考察を含めて、衝突型プレート境界での応力の集中と、プレート境界から分岐する断層への変形と応力の伝播に関する知見を得ることを、本研究の目的とした。これらの目標に対しては、概念的なモデルは出来たが、当初予定していた定量的なモデルを作るには至らなかった。これらの作業は、現在も進行中である。
・本研究は、平成12年度から14年度までの科学研究補助金（基盤（Ａ））で実施していたので、本年度で期限が切れる。しかし、本研究で得られたデータは、十分に解析されていないので、平成15年度にも引き続き、研究を続けることが必要である。地震研究所の経常的経費によって実施する。
(5-5) 共同研究の有無：科学研究費補助金の研究組織は、国内7名（地震研、東大大学院理学研究科、東北大大学院理学研究科）台湾7名
(5-6) 平成14年度の成果に関連の深いもので、平成14年度に公表された成果：
（論文）
Aftershock Distribution of the
1999
(口頭発表)
Nagai, S., N. Hirata,
Hirata, N., S. Nagai ,H. Sato, S. Sakai, Eeiji
Kurashimo, B.S. Huang, K.C. Chen, C.Y. Wang, H.Y. Yen, Aftershock Distribution
of the 1999 Chi-chi, Taiwan, Earthquake and Crustal Structure in the Source
Region From an Explosion Reflection Survey, Conference for shallow and future
deep drilling into the Chelung-pu fault zone, Taiwan, at Geological Survey of
Japan /AIST, Tsukuba, July, 17, 2002.
本田史紀、平田直、蔵下英司、酒井慎一、Bor-Shouh Huang, Horng-Yuan Yen, 台湾横断線状アレイで記録された近地地震によって推定された台湾の地殻構造、地球惑星関連学会合同大会、２００３．
永井悟･平田直、1999年台湾集集地震における余震分布と静的応力変化,地球惑星関連学会合同大会、２００３．
(6) この課題の実施担当連絡者：
氏名：平田直
電話：電話：03-3818-3697（直通） 03-5841-5712 (dial in) 内線25712
FAX：03-5689-7234（地震予知研究推進センター）、03-3816-1159（事務室）
E-mail：hirata@eri.u-tokyo.ac.jp
図の説明
Figure. 1 Distribution of the temporary network. Solid
triangles show the stations of the network. Solid star denotes the hypocenter
of the mainshock. The thick solid lines mark the Changhua fault (F1), the
Chelungpu fault (F2), and the Shuangtung fault (F3), respectively.
Figure. 2 Location of aftershocks determined in this
study (open star and solid circles). Solid triangles show the stations of the
network. The solid star denotes the hypocenter of the mainshock.
Figure. 3 Cross-sections of the aftershocks as
indicated in Figure 2. Profiles AA’ (a) and BB’ (b) are perpendicular to one of
the nodal planes of the focal mechanism [Chang et al., 2000]. Profiles CC’ and
DD’ have a strike of N20ºE, which is parallel to one of the trends in
epicentral distribution. Arrows in (a) and (b) indicate the surface trace of
the Changhua fault (F1), the Chelungpu fault (F2), and the Shuangtung fault
(F3), respectively.