(1)課題番号:0216

(2)実施機関名:京都大学防災研究所

(3)課題名:高感度比抵抗変化計の開発

 

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその中での平成14年度までの成果:

(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:

「3。地下の変動状態モニター技術の推進」

(4)−1 地殻流体の実態の解明

(4)−2 断層面の破壊強度に対する地殻流体の役割

(4-2) 関連する「建議」の項目:

      III。1。(2)。エ、III。2。(1)。エ、III。2。(1)。オ

 

(4-3) 5ヵ年計画全体としてのこの研究課題の概要と到達目標」に対する到達した成果:

この研究課題の全体計画は、断層周辺での流体の動的挙動の解明を目指した、比抵抗不均質構造の時間的ゆらぎモニターのための高感度比抵抗変化計による観測システムの開発を行う。観測システムはボアホールを利用するものをめざす。

・位相検波方式を用いた長スパン(kmオーダーまで)のダイポールでの高感度比抵抗連続観測システムを形成できるようにする。

GPS信号を活用し送信点と受信点独立同期を実現し、別の孔の電極群の組み合わせによる立体的観測が可能なようにする。

というものであった。

 現時点で、まだ、未解決の問題点を残しているが、上記の2点、すなわち、「位相検波方式を用いた長スパンのダイポールでの高感度比抵抗連続観測システムを形成できるようにする。」と

GPS信号を活用し送信点と受信点独立同期を実現し、別の孔の電極群の組み合わせによる立体的観測が可能なようにする。」を可能にする観測システムを構成するために基本となる基礎的な技術上の問題はすべて解決したと考える。今後は、さらに大規模な電極配置での観測システムでのS/Nの向上に関する問題点を解決する必要がある。

 

平成13年度までに得られた成果の概要は以下の通りである。

・GPS基準信号を用いた送信部(電流源)と受信部の分離を可能にした。

・野島断層への注水試験に際して、500m孔内の電極による60mスパンのダイポールと、地表での100mのダイポールをお互いに500m程度離れた距離に置き、注水に伴う比抵抗変化の検出に成功した。

・油壺での連続観測を実施し、高精度で長期間安定した観測が可能であることを示した。

・立体的な電極配置での観測を実施した場合の検出可能性に関し数値シミュレーションを実施した。

 

(5)平成14年度成果の概要:

(5-1) 「平成12年度全体計画骨子の補足説明 3。具体的な課題提案の背景」のどの項目を実施したのか:

全体計画で示されている「地殻深部や海域での精度の高い情報を得るための新しい観測技術の開発」という位置づけで、高精度で長期安定性の高い比抵抗変化計の開発研究に取り組んだ。特に「平成12年度全体計画骨子の補足説明」の内、「(4) 地震発生に対する地殻流体の役割」「(4)-1. 地殻流体の実体の解明」に関わり、断層周辺での流体の動的挙動の解明を目指した比抵抗不均質構造の時間的ゆらぎモニターのための高感度比抵抗変化計による観測システムの開発研究である。

 

(5-2) 平成14年度項目別実施計画のどの項目を実施したのか:

平成14年度「観測技術開発」の実施計画の「(2)地殻深部モニターのための観測技術開発」の項目として実施。特に「(c)正弦波信号源による地下モニター」に対応する。

 

(5-3) 平成14年度に実施された研究の概要:

 

 新たに開発した装置を用い、二つの観測点において岩盤内の応力変化をとらえるための精密な大地比抵抗連続モニタリングを油壺で継続した。そして、得られたデータの解析を行った。その結果、油壺サイトは海岸から近いため、海洋潮汐のロードによる応力変動がきわめて大きいということと、海水位変動に励起されて地下水位が潮汐周期で変動しているという特徴をもつ。比抵抗測定は、この地下水位より上の部分飽和の岩盤を主に見ているSPC 2測線と、水位より下の完全飽和の岩盤を見ているSPC 10測線の二つの測線でおこない、どちらの測線でも10-4オーダーの潮汐周期の比抵抗変動がとらえられた。このデータから取り出したM2O1分潮の位相の情報より、SPC 10の比抵抗変動は一義的に応力変動に起因していることが示された。一方、SPC 2の比抵抗変動は、応力変動と地下水位変動がそれぞれにつくりだす二つの比抵抗変動の重ね合わせで説明できることが判明した。そしてこのSPC 2の比抵抗変動への寄与は、応力よりも地下水位の方がわずかに大きいことが明らかにされた。

また、2000年に野島断層で実施された注水試験に合わせて、500 m孔内電極と地表電極を使用して、注水に伴う比抵抗変化を観測した。その結果、注水のための圧力増加に起因する約1%のステップ状の比抵抗の増加がとらえられた。このデータに関する解析を継続し、成果をまとめる作業を行った。成果としては、観測された比抵抗の増加量から、野島断層周辺の岩盤の応力変化に対する比抵抗の感度が、室内実験の結果から推定される値より23ケタ大きいことが判明したことである。これは断層周辺の岩盤が多くのクラックを含んでいることに由来していると考えられる。

送信電流を大幅に増加させるための送信機の改良を継続して実施した。このアンケートを作成している段階では、技術的な問題点を完全にクリアできているとはいえないが、平成15年3月中旬に予定されている野島での第3回注水実験にあわせて、今調整中の大電流出力型の送信機を使用して、2000年の際の観測感度を大幅に向上させた観測態勢で、注水に伴う比抵抗変化の検出に努める予定である。出力電流の増加によるS/N比の増加を狙う。

また、電極の立体配置に関する数値モデルを用いて行った検討結果を、成果としてまとめ公表した。

 

(5-4) 当初設定した平成14年度の到達目標に対する成果の概要:

平成13年度終わりに立てた、平成14年度の実施目標は、

1)電極の検討:ボアホール内に設置しやすくかつ接地抵抗が低く安定な電極の検討。

2)野外での試験観測の継続。

3)観測システムの総合的な評価を行う。

4)同時に自然電位が測定できるように改良を行う。

というものであったが、前年度からの課題「送信出力の増加を装置の高安定性を維持しながら実現する。」を継続して集中的に実施したため、上記課題の1)と4)に関しては、平成14年度内に実施できなかった。

 しかし、昨年度までに実施した観測によって得られていたデータの精査により、現時点での電流送信能力下でのシステムの性能の高さは証明されその評価は終わったと考えられる。平成14年度の残り期間および平成15年度の1年間で、現時点での高分解能高安定性を維持しながら電流送信能力を向上させたシステムの完成を目指したい。

 

(5-5) 共同研究の有無:一部、東京大学地震研究所との共同研究(油壺観測所での連続観測)

 

(5-6) 平成14年度の成果に関連の深いもので、平成14年度に公表された成果:

 

Oshiman N。、 Towards effective observations of resistivity changes due to fluid movement related to faulting In H Ogasawara T Yanagidani and M Ando ed Seismogenic Process Monitoring Balkema Publishers Netherlands 257-268 2002

 

Futoshi Yamashita and Takashi Yanagidani Development of a sensitive robust earth-resistivity measurement system stable over long period to monitor subtle temporal change in stress in the Earth’s crust In H Ogasawara T Yanagidani and M Ando ed Seismogenic Process Monitoring Balkema Publishers Netherlands 339-410 2002

 

Futoshi Yamashita and Takashi Yanagidani Origins of resistivity fluctuations at Aburatsubo Japan: Can earth resistivity monitoring provide a probe for detecting the changing stress in the rocks?,  J.G.R. 2002 (投稿中)

 

Takashi Yanagidani and Futoshi Yamashita In situ detection of stress changes produced by pressurized water injection at the Nojima Fault Zone Japan through precise earth-resistivity monitoring J.G.R. 2002 (投稿中)

 

(6)この計画の実施担当連絡者:

氏名:大志万 直人

電話:0774-38-4202

FAX0774-38-4190

E-mailg53032@sakurakudpckyoto-uacjp