「定常的な広域地殻活動」15年度の研究実施計画
「定常的な広域地殻活動」計画推進部会
平成15年1月3日
「定常的な広域地殻活動」においては,島弧−海溝系規模の空間的スケールと地震サイクルの繰り返しを視野にいれた時間的スケールにおいて,場の不均質,その中での地殻活動のメカニズムを解明し,プレート運動の特性を反映している地震の繰り返し発生の特徴を明らかにすることが重要と考える.この考えに基づき,プレート運動に伴う,沈み込み帯での応力再配分・蓄積過程に関する新しい知見を得ることを目指ざしてきた.その最終年度にあたる平成15年度も,前年度に引き続き,下記の3項目の観測・研究を重点的に実施したい.尚,この中には,今計画において実施してきた研究のまとめ,次期計画に向けての研究も含めた.
(1)プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究
(1-1)太平洋プレート(三陸沖)
11年度から14年度にかけて行った結果,不十分な領域に重点をあてる.地震発生域(アスペリテイー)と安定すべり域の現在の分布をとらえる手段としてプレート境界からの反射波のマッピングが使えそうであることがわかってきた.
これに基づき,15年度は,過去4年間で不十分であった場所或いは福島沖において以前の結果をより確実にするための観測を行う.手法や従来に加え,理論波形により考察を行う.また,より稠密化することにより,OBSの記録から反射断面を作ることを試みる.地震計,エアガン,火薬を用いた構造探査を行う.測線は南北測線120km,東西測線120km,地震計40台,火薬100発,エアガン17リットルx2台により行う.
一方,陸域の観測においても,プレート境界のアスペリティー分布解明のための研究を続ける.特に,周波数ごとにみたアスペリティー分布を求め,特に高周波側での特性を明らかにすることを目指す.
これらの観測を総合し,カップリングの時空間的変化の解明を目指す.
(1-2)フィリピン海プレート(西南日本)
フィリピン海プレートの形状は非常に複雑である.本計画内に実施した探査・観測を踏まえ,かつ新たな稠密地震観測や陸上・海底地殻変動(GPS)観測を加えることによって,プレート境界の形状の精度向上ともに,プレート収束運動をゆらぎも含め詳細に解明する.また,電磁気学的探査(ネットワークMT観測)を中部・近畿地域で行い,フィリピン海プレート北限の解明を目指す.
また,平成14年度に引き続き,日向灘での海底地震観測を実施し,日向灘におけるスラブの沈み込みの特徴をさらに詳しく明らかにする.さらに,GPS観測データに基づいたプレート間カップリングの時空間変動の研究成果との比較により,その強度を決める要因に関する知見を得る(この部分準備仮定).更に地震活動度が高い奄美大島東方のプレートカップリング域の地震活動を明らかにするために,喜界島に地震観測点を設けるとともに(鹿児島大要求中),奄美大島および周辺域で従来から実施している臨時地震観測を継続する.
(2)プレート内部の地殻活動・構造不均質に関する研究
今までの地震予知研究計画の進展から,プレート境界域及び内陸域(歪集中帯や内陸地震発生域)における応力の蓄積・集中過程の解明の重要さがより明らかになってきた.次期研究計画でも,歪・応力の集中・蓄積過程の解明が重要となると思われる.このような研究の方向性を考慮し,平成15年度は,九州地域(中央構造線西部或いは内陸断層帯)において,制御震源探査・自然地震観測を連携させ,“断層スケール”の地殻内不均質に焦点を当てた研究を行う.地殻活動(GPSや自然地震活動)から,調査領域内における構造線/断層面の動的な特性と不均質構造の関係を明確な形で捉え,歪・応力の集中・蓄積過程の解明につなげる.即ち,現在展開されている定常的あるいは臨時観測網の観測点周辺に小規模地震計アレイを機動的に展開し,散乱波・反射波を用いて地殻内不均質構造のmappingを図る.更に制御震源と自然地震データを総合的に解析し,S波およびP波の不均質構造解明を行う.
一方,平成14年度に構築した西南日本自然地震アレーについては,平成15年度も観測を継続させ,レシーバ関数等を利用したフィリピン海プレート深部構造の解明を目指すとともに,Hinetデータなども利用しながら鳥取県西部地震を含む内陸側の地殻活動の詳細と構造不均質の解明を図る.また,地殻内流体が関与していると考えられる低周波地震の物理メカニズム解明のための観測研究を行う.
電磁気学的観測では,地殻活動シュミレーションモデルに組み込むための物質や場の条件(温度や,水・メルトの含有量,ぬれ角の分布)に制約を与えることを目標としてきた.平成15年度も,平成11年度からのNMT,WBMT観測を継続し,引き続き,電気伝導度構造と地域のテクトニクス,地震発生域との関連を調査する.NMTについては紀伊半島地域の観測(和歌山県,奈良県)を実施しする.また,14年度の観測を補充,対照する目的で,富士山周辺域,島根県東部地域での観測を実施する.WBMTについては富士山周辺域,島根県東部地域,東北脊梁山地(千屋断層付近)での観測を実施する予定である.14年度に一応の完成をみた3次元コードの改良を図りいくつかの地域において適用して構造決定を行う.
これまでに得られたデータのとりまとめを行い,NMTについては異なるテクトニクスが卓越している地域の構造の対比,WBMTについては主要な地震断層・活断層周辺部の詳細な環境の異なる断層での結果を対比させ,断層下部や地殻下部の比抵抗構造,断層および周辺部での地殻内流体分布の特徴を把握する.
(3)地震発生の繰り返しの規則性と複雑性の解明
活断層調査による台湾地震の事前予測可能性の検証については,GIS情報を用いて,被害分布の特徴を定量的に把握することを試みる.地表地震断層の出現を予め予測することに困難がともなわれると予想される,複数の断層トレースが認められる地域を研究対象地域として特に注目する予定である.また,年代測定試料の分析に基づき,車籠埔断層の平均的活動間隔・変形帯の構造などをさらに詳細に明らかにする.本研究の目的は,既存の活断層の位置や変位様式などを詳細に検討することによって,地震被害予測がある程度可能であることを提示することである.地震の発生位置・発生間隔や被害の集中帯を総合的に検討することによって,予想可能な被害と実際の被害分布との関係を比較することができるであろう.その結果にもとづき,他の断層への被害予測方法の適用を含め,地震被害予測に関する具体的な提言を試みたい.
活断層の地形・地質・地球物理学的調査については,別府湾海底断層などを対象にし,過去の地震の発生時,ずれの量,断層の分岐形状などを調査する.必要に応じて,音波探査,ピストンコアリング調査を行う.また,別府地溝形成と活断層の分布や活動性との関連を探る.新手法による横ずれ量測定は,野坂断層,木津川断層について行い,地震時の横ずれ量の予測に資する規則性の検討を進める.一方,北海道太平洋岸で発見された巨大津波については,規則性に対するゆらぎの観点から調査を行う.また地中で近接する活断層の活動の連動性についても,北上低地西縁断層帯と横手盆地東縁断層帯を例として検討する.大地震の繰り返し発生の予測の高度化のために,地震発生時とずれの量を同時に解明し,ずれの量の空間分布を推定し,活断層形状を調査して,発生時期の予測精度を高めるとともに,震源パラメターや破壊過程の予測を試みることが目標である.平成15年度はこれまでの調査で不十分な点に重点をおいて,この目標を達成する.