（１）課題番号：0210

（２）実施機関名：京都大学防災研究所

（３）課題名：直下型地震の地震環境評価

（４）対応する新建議の項目

　　　１．地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進

　　　（４）地震時および地震直後の震源過程と強振動

（５）具体的な課題提案の背景の項目：

　　（３）内陸活断層周辺における不均質な応力・歪場の成因

　　　（３）−２．内陸の歪集中帯の変形様式

　　（５）断層面上の強度と応力の時空間分布

　　　（５）−２．不均一な強度場での破壊核成長過程

　　　（５）−３．滑り分布の再現性の検証

（６）関連する建議の項目

（２）イ・エ、（４）ア・イ

(7) 平成14年度までの研究成果の概要

・山崎断層の安富、大沢の２観測坑道での地殻変動観測を継続、GISを用いた地震活動の定量的評価として、地質構造や地形、重力等も勘案した解析を開始した。山崎断層の近傍で、浅井戸を利用した水位・水温観測を開始した。現地溜め込み方式であるが、太陽電池と携帯電話によるテレメータ方式の導入を進めている。

・JHD法による予備的な震源再決定を行い、プログラムの改良とデータのチェックを行った。

・山崎断層系において，比較的密度の大きな岩石が断層帯に存在する例を見つけ、その深さ分布を推定した。安富断層では、断層帯の石が高密度な傾向を示している。その西方、土万（ひじま）断層、大原断層にそう 20 点の石について測定し、おおよそ同様の結果を得た。この密度値を用いて地下構造を推定すると、断層下数百 m から数 km の深さまで、重い岩石が存在する可能性が示された。

・地震シナリオの高精度化を目的として，既往の地震の運動学的震源モデルから動的パ

ラメターを推定することにより，特性化震源モデルのアスペリティ及びこれまで困難

であった背景領域の応力降下量の与え方についての知見を得た．

・地震波伝播経路特性及び地震波減衰メカニズムの地域性を調べるため、和歌山群発地震記録のSコーダ波を用いて散乱減衰と吸収減衰を分離・評価し、他地域の結果と比較した。当該地域では2Hz以下では散乱減衰が卓越し、一方16Hz以上では吸収減衰が卓越する。散乱減衰と吸収減衰の和としての全減衰は群発地震域の破砕度の高さを反映して他地域と比較して顕著に大きい。これは強震動予測において重要な地震波伝播経路特性の評価には，地殻構造の水平方向への不均質性に起因する減衰特性の地域性を考慮する必要性を指摘している。

・2000年鳥取県西部地震の初期破壊について詳しく調べた。初期破壊による波形は、余震のはじまりの波形とは全く異なっており、その規模に比べて、かなりの長周期成分が含まれる。初期破壊は約2.5秒続いたが，この継続時間はこれまでに得られている初期破壊継続時間と地震規模との関係を満たす。初期破壊の波形インバージョンを行い、初期破壊におけるモーメント解放量とその空間分布を求めた。なお、初期破壊と大破壊とはメカニズム解が異なることから、破壊の進展は連続的でないことが明らかになった。

・2000年鳥取県西部地震前に，その断層面付近において，1989, 1990, 1997年にM5.1-5.4の地震6個を含む群発的な地震活動が発生しており，その領域は，すべり量の小さなところに対応していることが明らかになった．また，2000年鳥取県西部稠密合同観測データを用いたトモグラフィーにより，P波速度が大きくポアッソン比も大きい領域がすべり量の大きな領域を取り囲むように分布していることがわかった．さらに，精度良い震源の再決定により，群発地震と本震の断層面が断層面と直交方向に数百mずれている可能性が指摘された．

・2000年鳥取県西部稠密合同観測データによるメカニズム解の解析から，群発地震のP軸の方位がこの地域の最大圧縮応力軸の方位であると仮定すると，鳥取県西部地震の断層の強度は弱いと考えられることが分かった．

・2000年鳥取県西部地震前後に，その断層の下部，モホ面付近で発生した低周波地震の震源過程を推定した．

・GPSの稠密観測により，2000年鳥取県西部地震後に，その断層の上部で余効すべりが発生したことが推定された．

(8) 平成15年度計画の概要

山崎断層については引き続き地震活動を観測し、GISを用いた分析を続ける。今後、精密再決定された震源とｂ値の空間分布のマッピングをおこない、山崎断層の地震シナリオの高精度化のために、アスペリティと破壊開始域の推定をおこなう。

断層の応力レベルを調べるために、歪計とGPSを用いて地殻変動を観察する。地下水の観測は引き続き精度を上げておこない、地殻変動や地震活動と関連する変化がないかどうか調べる。重力観測による構造の研究も継続する。山崎断層における地震シナリオを検討し、強震動を精度を上げて計算する。

花折断層のGPS観測を継続する。

和歌山でのアレイ観測を続け、サイト・リスポンス、速度構造、吸収および散乱減衰の構造を研究する。

2000年鳥取県西部地震（本震）の初期破壊による波形は、余震のはじまりの波形とは全く異なっている。また、前者には、その規模に比べて、かなりの長周期成分が含まれる。このような波形の特徴を、波形インバージョン結果によるモーメント解放の時間歴と比較することによって、準静的から高速破壊破壊に至る初期破壊過程の物理にせまる。

(9) 5ヶ年の到達目標に対する平成15年度の計画の位置づけ

ア）広域歪場と各断層周辺の歪場は必ずしも一致していない。これは広域歪場の中にありながらも各断層が独自の動きをしているものと理解される。地理院のネットを補完するＧＰＳ観測を行い両者を分離し、断層固有の歪変化をとらえる。

イ）５カ年計画の当初は鳥取県西部地震を予測していなかったので、当初の目標達成は中・小規模地震の初期破壊の有無を調査し、初期破壊を持つ地震の発生環境を、そうでない地震と比較することによって解明しようという計画だった。ところが、鳥取県西部地震が，基盤観測網が完成した直後に発生したため、非常に精度の良い波形データが多く得られた。このため当初の目標とはやや異なったが、７）で述べたような研究成果を得る事が出来た。５カ年計画の最終年度も引き続き、８）で述べたように鳥取県西部地震の初期破壊に関する研究を行う。

(10)この計画の実施担当連絡者

氏名：James Mori

電話：0774-38-4205

FAX ：0774-38-4190

e-mail: mori0@rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp