(1)課題番号：0107
(2)実施機関名：東京大学地震研究所
(3) 課題名：繰り返し注水実験による野島断層の強度回復の検出および誘発地震発生メカニズムの解明
(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその成果（以下の4-1〜4-3について答える）
(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」（以下、建議）の項目：
（数字の項目まで、最も関連の深い項目を記入する）
III—1 地震発生にいたる地殻活動解明のための観測研究の推進
(4-2) 関連する「建議」の項目： (建議のカタカナの項目まで、複数可)
III—1—（2）−イ，III—1—（2）—ウ，III—1—（2）—エ，III−３−（2）−ウ
(4-3) 5ヵ年計画全体の目標：（計画を実施するにあたっての当初目標を記述する）
野島断層近傍における地殻変動連続観測を行い，断層近傍の歪・傾斜変化を通して地震断層の強度回復過程を明らかにすることを目標とする．
(4-4）5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果：（5ヶ年で実施された観測・研究の内容と，それによって得られた重要な成果を述べる）
1997年および2000年に行った注水実験により得られたデータの解析を行った．歪３成分は注水開始直後から縮みはじめ，数日の時定数をもつ指数関数的な時間変化を示した．これは浸透水の拡散によって間隙水圧の上昇域が広がっていったことを反映している．1997年の第3回注水試験では注水開始から２日後に指数関数的な歪変化が終息し，その後の注水期間でほぼ一定の値を保った．1997年の注水試験では，潮汐変化を取り除くことができなかった１日周期の歪変化がN39E成分に残されている．2000年の注水試験においてもN39E成分に不規則に現れる１日周期の変化がみられ，注水によって潮汐振幅または位相が変化した可能性がある．注水開始以降の最大主歪，最小主歪および最小主歪の方向の時間変化を計算したところ，最小主歪の方向は注水に伴う最大縮の方向（N40E〜N60E）を示している．
1800ｍ孔に注入された水は深さ約550ｍの孔壁から周辺の岩盤中に浸透したと推定されている．この浸透地点は800ｍ孔からみて約N50E方向に位置する．そこで，均質な岩盤において深さ550ｍ地点を中心とする点対称な浸透流が生じたと仮定して，注水時の歪変化を計算した．このとき，岩盤の透水性を表す透水係数kと比貯留係数Ssの比を未知量として，予測された歪変化と観測値との差が最小となるようにk/Ss値を決めた．k/Ss値が大きいほど，岩盤の透水性が高いことを示す． 歪変化の予測値は2000年第4回注水における最小主歪を除いて，注水にともなう歪変化とほぼあっていることから注水に伴って観測された縮みの歪変化は深さ550ｍから流出した水が間隙水圧を上昇させ，岩盤の収縮を引き起こしたと考えられる．最小主歪から求めたk/Ss値が最大主歪から求めたk/Ss値よりも大きいことから，最小主歪の方向である北東—南西方向に岩盤の透水性が高いことがわかる．これは野島断層の方向に平行な北東—南西方向に破砕が発達していることを反映している可能性がある．2000年の注水試験では，最小主歪および最大主歪から求めたk/Ss値が，時間経過につれて互いに近づく時間的変化を示した．破砕方向に直交する方向への浸透経路が形成され，等方的な透水構造に近づいた可能性がある．2000年第2〜４回注水から求めたk/Ss値は，1997年第3回注水から求めたk/Ss値に比べてほぼ同程度以下の値となった．注水終了後の歪は1997年の注水試験では，約１日の時定数で注水前のレベルまで回復したが，2000年の注水試験では，数日以上の時定数で緩やかに回復した．これらから，2000年とくらべて1997年における岩盤の透水性が高く，破砕が発達していたことを表していると考えられる．
(4-5）5ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ：（得られた成果が地震予知研究においてどのような意味を持つのかを述べる）
地震発生を予測するためには地震の発生サイクル全体に対する理解が不可欠である．ここでは兵庫県南部地震の震源断層である野島断層近傍での歪・傾斜観測と注水実験を通して地震発生サイクルのうちの地震直後の断層の固着過程の一部を明らかにすることができた．
(4-6）当初目標に対する到達度と今後の展望：（当初設定した目標に対してどの程度到達できたのかを総括し，平成16年度以降の計画についての展望を述べる）
注水実験を行うことにより透水係数と比貯留係数の比の時間変化を求めることができ，破砕の固着が進行していることを明らかにすることができた．これは当初の目的を達したものといえる．しかし,2回のみの実験からの結果であり，地震サイクルの長さを考えればさらに実験を行い，固着過程の時間変化を追うことが必要である.
(4-7) 共同研究の有無：（機関・グループとの共同研究の場合は、その旨明記し、さらに観測の場合には、実施時期と場所、参加人数概数も明記する）
京都大学大学院理学研究科
(5) この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト
(5-1）過去5年間に発表された主要論文（５編程度以内）：
（出版された論文のリストを科研費の申請書に倣って書く。「著者名、論文名、学協会誌名、巻(号)、最初と最後のページ、発表年(西暦)」。著者名が多数にわたる場合は、主な著者を数名記入し以下を省略。主要な論文のみを示す）
藤森邦夫，石井紘，向井厚志，中尾茂，松本滋夫，平田安廣，1998，注水試験に伴う地殻変動，月刊地球，号外21，38-43．
石井紘，1998，深部ボアホール地殻活動総合観測の重要性・今後の短期予知研究の地殻変動連続観測，月刊地球，号外20，198-204．
向井厚志，藤森邦夫，石井紘，中尾茂，松本滋夫，平田安廣，1998，淡路島800m孔で観測されたひずみおよび傾斜変化，測地学会誌，44，237-248．
向井厚志・藤森邦夫，2000，淡路島800mボアホールで観測された大気荷重に伴うひずみ変化，地震2，53，57-63．
Mukai, A. and K. Fujimori,
2001, Determination of elastic structure using strain changes observed at an
800m boreho1e, J. Geod. Soc.
Ishii, H., A. Mukai, K. Fujimori S. Nakao, S. Matsumoto and Y. Hirata, 2001, Multi-component
observation of crustal activity in an 800m boreho1e
c1ose to an earthquake fault, The Island Arc, 10, 282-287.
Fujimori, K., H. Ishii, A. Mukai, S. Nakao, S. Matsumoto and
Y. Hirata, 2001, Strain and tilt changes measured during a water injection
experiment at the Nojima Fault zone, Japan, The
Island Arc, 10, 228-234.
(5-2）平成15年度に公表された論文・報告：（出版された論文、学会大会等での発表、会議報告等を記述。フォーマットは(5-1）と同様。なお，(5-1）に示されている論文はここでは記入不要）
なし．
(6) この課題の実施担当連絡者：
氏名：佐野修
電話：03−5841−5892
FAX：03−5841−8265
E-mail：osano@eri.u-tokyo.ac.jp