(1)課題番号:0127

(2)実施機関名:東京大学地震研究所

(3) 課題名:地殻内流体の挙動とその地震発生に対する力学的効果に関する研究

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその成果

(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:

3.地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発 (1)地殻活動シミュレーション手法

 

(4-2) 関連する「建議」の項目 (建議のカタカナの項目まで、複数可):なし

 

(4-3) 5ヵ年計画全体の目標

 断層帯での流体の移動を考慮した断層破壊の数値シミュレーションを行うことにより以下について考察する.(1)現実の地震活動の複雑さが、流体の関与を考えることにより統一的に説明可能かどうか.(2)地震活動の地域的特性や地球科学的意味について断層帯の流体移動に関するパラメタの違いで説明可能かどうか.(3)流体の効果を考えることにより大地震の発生の予測に用いることが可能な単純規則性が地震活動に現れるかどうか.さらに,(4)摩擦熱による温度上昇が流体圧変化に及ぼす影響を考慮して断層の動的破壊の数値シミュレーションを行い,局所的破壊開始直後の特徴的なすべりパルスの生成が説明できるか否かについて考察する.

 

(4-4) 5ヵ年計画の実施状況の概要と主要な成果

半無限等方均質弾性体の中の矩形断層ストライク・スリップ型断層モデルを仮定した数値シミュレーションにより,余震の発生に流体がどのような影響を及ぼしうるのかということを考察した.断層の広がりに比べて非常に薄い断層帯が地下流体の流路と仮定した.また,断層帯の内部に局所化している高圧流体源の破壊により流体が流れ出し,破壊を発生させるものとする.破壊基準についてはCoulombの基準を採用した,本研究の主要な仮定は以下の二つである.すなわち,各断層要素で最初の破壊が起こるとそこでの(1)凝着強度は大きく低下する,ということと,(2)透水係数は増大するということである.シミュレーションの実行により,余震については大森公式およびグーテンベルグ・リヒターの式が統一的に数値シミュレーションにより再現できることがわかった.グーテンベルグ・リヒターの式をみたすものは繰り返しすべりを起こしている破壊であることもわかった.また,余震系列については,初期には比較的大きなイベントが起きる傾向にあるなど,観測事実と調和的である.複数の流体源があったり,未破壊領域の透水性がゼロに近いような場合は,二次余震が生じうることもわかった.

熱多孔質弾性体中の断層破壊に関する数値シミュレーションを行うことにより,動的な地震破壊における熱的・水力学的効果を調べた.断層すべりの時間変化を詳しく調べる際には,無限に広い断層が一様にすべるとする1次元モデルを用いた.液相と固相の熱膨張率の比の効果を調べたところ,液相の熱膨張率が固相のそれに比べ非常に大きい場合には,破壊開始直後に短時間の断層すべりが生じるself-healing slipがあらわれるが,熱膨張率の比が小さい場合には,最終的に一定速度ですべり続ける結果が得られた(図1).破壊伝播の効果を調べる際には2次元モデルを用いて計算を行った.その結果,熱的・水力学的効果により,破壊先端域にself-healing slipがあらわれるほか,破壊開始点付近でのすべりの立ち上がりがゆるやかになる結果も得られた(図2).

 

(4-5) 5ヵ年計画で得られた成果の地震予知研究における位置づけ

流体移動を考慮した地震活動の数値シミュレーションにより,地震破壊の成長と地下流体の移動の間の相互作用を考えることで一見多様に見える地震現象を統一的に説明できることが明らかになった.熱的・水力学的効果を考慮した動的破壊の数値シミュレーションでは,すべり時間関数や破壊伝播に関する特徴的な振る舞いは断層帯の流体が関与している可能性を示している.

 

(4-6) 当初目標に対する到達度と今後の展望

 (1)前震,余震,群発地震の発生に関する単純規則性や複雑性が断層帯内部の流体移動を考えることにより統一的に説明可能であることが示され,目標が達成されたと考えている.(2)地震破壊の発生に伴う空隙生成率が大きな地域は,群発地震が起きやすいということもわかった(空隙生成率が小さければ、前震—余震系列となる).これから,水力学的パラメタがわかれば,その地域で発生すべき地震活動についての予測が可能になることがわかる。今後は,実験による追試なども必要だろう.(3)流体の効果により大地震に先行する特徴的な地震活動が現れるか否かについては,前震の研究を除いては,未だ十分な成果が得られていない.今後は準備過程に焦点をあてた研究が必要である.(4)動的破壊時の熱的・水力学的効果によりself-healing slipなどが説明できることが示された.

 

(4-7) 共同研究の有無

なし

(5-1) 過去5年間に公表された主要論文(5編程度以内)

Yamashita,T., Regularity and complexity of aftershock occurrence due to mechanical interactions between fault slip and fluid flow, Geophys. J. Int., 152(1), 20-33, 2003.

(5-2) 平成15年度に公表された論文・報告

鈴木岳人・山下輝夫,地震の初期破壊に対する温度・流体圧・空隙率の非線形な相互作用の効果,日本地震学会講演予稿集,B003, 2003.

 

(6) この課題の実施担当連絡者

氏名: 山下輝夫

電話: 03-5841-5699

FAX  03-5841-5806

E-mail tyama@eri.u-tokyo.ac.jp

 

 

図1.断層の動的破壊時の流体圧,すべり速度,温度の時間変化のシミュレーション結果.圧力,速度,温度,時間は無次元量である.赤い線はαfs = 21の場合,緑色の線はαfs = 4.2の場合である.αf,αsはそれぞれ液相,固相の熱膨張率である.

 

図2.断層動的破壊時のすべり量の時空間変化のシミュレーション結果.左図は熱的・水力学効果を含むモデル.右図は熱的・水力学効果を含まないモデル.