(1)課題番号:0128

(2)実施機関名:東京大学地震研究所

(3) 課題名:断層間の相互作用による地震発生に対する力学的効果に関する研究

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその成果

(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:

3.地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発 (1)地殻活動シミュレーション手法

 

(4-2) 関連する「建議」の項目 (建議のカタカナの項目まで、複数可):なし

 

(4-3) 5ヵ年計画全体の目標

 断層形状の地域的特徴や時間変化を理解するため,地震破壊のダイナミクスと断層の幾何学形状の関係をシミュレーションにより考察すること.

 

(4-4) 5ヵ年計画の実施状況の概要と主要な成果

二つの亀裂間の動的相互作用を考慮して,亀裂形状の時空間的変化を考察した.亀裂の初期配置,亀裂端の成長速度,破壊基準の影響について特に詳細な考察を行った.これにより,主に初期亀裂の配置により,亀裂は互いに接近し合体する場合と,離れていく場合があることがわかった.亀裂端の成長速度が大きくなると,亀裂の屈曲の程度は大きくなる.この結果は,近接する断層セグメントは合体しやすいことを示唆する.このような性質をもつ断層系は,繰り返し起こる地震と共に成長して行くことになり,次第により大きな地震を発生させるようになる.

自然の断層は,断層の方向に破砕された領域(破砕帯)を伴っていることが多い.断層破砕帯が動的破壊過程に与える効果を調べる目的で数値シミュレーションを行った.2-D等方均質弾性媒質中に,面内剪断型断層を一つ仮定する(主断層).図1のように,その周辺には主断層の破壊とは関係なく存在する地殻中の強度不均質をモデル化した,多数の微小弱面を配置し,その弱面上での新たな破壊(断層面外破損)を許可する.簡単のために,破壊は平面形状をした既存の弱面上のみを伝播するものとし,微小弱面は主断層に平行に配置し,摩擦は線形の滑り弱化則を仮定した.シミュレーション結果によると,断層周辺の破壊領域の幅(y方向)は,主断層の破壊進展に伴い増加している(図1).主断層上の破壊の開始に伴い,微小弱面上の破壊がS波で励起されている関係が分かる(図2).この破壊領域が破砕帯になると考えられる.また,主断層の破壊の初期段階において,一旦加速した破壊が抑制されており,破壊の再加速後も,伝播速度が終端速度のレーリー波速度より遅いS波速度の80%に抑制されている様子も分かる.これは,断層面外破損により生じたstress shadowによる負の相互作用の影響であり,微小亀裂の配置に強く依存している.

 

(4-5) 5ヵ年計画で得られた成果の地震予知研究における位置づけ

 断層形状,及び複数の断層の相互作用が,地震の動的破壊伝播過程,破壊停止過程に及ぼす影響の重要性を示すとともに,動的破壊による断層の成長,合体,相互作用により断層形状や断層破砕帯の時間変化の可能性を明らかにした.

 

(4-6) 当初目標に対する到達度と今後の展望

 2亀裂間の動的相互作用による亀裂形状の生成ついて詳細な解析・考察により,断層系の成熟過程についての定性的な知見が得られた.断層破砕帯生成過程のシミュレーションでは,並行する亀裂がそれぞれの成長を妨げる効果は巨視的断層の破壊伝播に強い影響を及ぼすことを明らかにし,断層形状,微小亀裂相互作用が地震の動的過程に及ぼす影響の重要性を示すことができた.

 

(4-7) 共同研究の有無

なし

(5-1) 過去5年間に公表された主要論文(5編程度以内)

安藤亮輔・山下輝夫、断層間の動力学的相互作用と断層形状の生成、地震、56, 1-102003.

Kame, N. and T. Yamashita, Dynamic branching, arresting of rupture and the seismic wave radiation in self-chosen crack path modelling, Geophys. J. Int., 155, 1042-1050, 2003.

(5-2) 平成15年度に公表された論文・報告

安藤亮輔・山下輝夫,断層破砕帯の生成過程:断層面外破損のモデル化とシミュレーション,日本地震学会講演予稿集,B007, 2003.

 

(6) この課題の実施担当連絡者

氏名: 山下輝夫

電話: 03-5841-5699

FAX  03-5841-5806

E-mail tyama@eri.u-tokyo.ac.jp

 

図1.断層破壊進展のスナップショット.赤色の線分が既存の弱面の位置,青色の線分が破壊した部分を表す.y=0上に主断層が配置され,その周辺に既存の微小弱面が配置されている(縦横比に注意)

図2.断層端位置の時間変化.濃淡で示した多数の系列は全て,既存弱面が破壊し滑りu0<u <Dcである部分(つまり断層端付近のprocess zone)を示す.白抜き矢印で指し示した二本の系列は,それぞれ,断層面外破損を考慮したモデル(黒色)と,それを考慮しない従来のモデル(濃灰色)の主断層を表す.双方とも主断層面上の摩擦パラメータは一様であり,値は同一である.縦に伸びる薄灰色で示した系列群は,y/s=-0.6上に配置された(主断層に最近接する)微小亀裂群を表す., crおよび複数の直線の傾きはそれぞれ,P波速度とS波速度,レーリー波速度(0.92)を示す.