(1) 課題番号:0132

(2) 機関名:東京大学地震研究所

(3) 課題名:基盤的高感度地震観測データの流通システムに関する研究

 

(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその成果

(4-1) 建議の項目:  III. . () 広域地殻活動モニタリングシステム 

(4-2) 関連する「建議」の項目: 2.(1)イ

 

(4-3) 5ヵ年計画全体の目標:

防災科学技術研究所において整備が進められている,基盤的高感度地震観測網の全国的なデータ流通のあり方については,地震研究所の特定共同研究などを利用して,全国の国立大学,防災科学技術研究所,気象庁等の研究者が,平成11年度から平成12年度にかけて様々な観点から検討を行ってきた。平成11年度末の公開の地震研究所研究集会では,それぞれの立場からどのような流通方式が望ましいかについて提案し議論した。それを受けて,平成12年度から各関係機関の担当者による検討が進められ,合意を得ることができた。また,推本のデータ流通委員会等でも,この実施が確認され,それに向けて平成13年度概算要求が提出されるに至った。その結果,平成13年度末に,防災科学技術研究所のデータセンターから基盤的高感度地震観測網のデータを大学として一括して地震研究所の衛星テレメータ中継局(主局と副局)において受信し,衛星テレメータシステムを用いて全国の大学など研究機関にリアルタイムで流通させるシステムを開発した。また,大学のデータもその反対の流れで,中継局から防災科学技術研究所のデータセンターに提供するようになった。気象庁のデータも,防災科学技術研究所のデータセンターに送られているので,同様のルートで大学の衛星中継局にも転送可能にした。これらによって,我が国の高感度地震観測網のすべてのデータが,各機関にすべてリアルタイムで流通するという画期的なシステムが構築された。

本研究課題では,このようにして平成13年度末に構築された全国的な高感度地震観測データ流通システムの更なる改良に向けた研究を進めるとともに,全国の高感度地震観測データが大学の衛星テレメータシステムを活用して全国の大学等で効率的に活用されることを目標として平成14年度から開始した。具体的には,地震研究所の全国共同利用により,全国の大学等に衛星データ受信装置の利用の普及を図る,また全国の基幹大学の地域センターと共同で,データのリアルタイム処理システムの研究開発を進め,データ利用システムを介して迅速なデータ公開を推進することを目標としている。

 

(4-4)5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:

1)高感度地震観測データのデータ流通システムの運用

平成13年度末に開発した高感度地震波形データ流通システムは,地上系回線によるデータ交換機能と,衛星回線によるデータ配信機能で構成される。地上系データ交換では,防災科研,気象庁,大学衛星中継局からフレームリレー回線,セルリレー回線等の数Mbpsの高速パケット回線や,ダークファイバーによる100Mbpsの専用回線などを使って,それぞれの機関で収集した高感度地震波形データをリアルタイムで,防災科研の東サブセンターに設置したTDX(Tokyo Data Exchange)に送り,データ交換を行っている。TDXは,データ交換専用のLANで,各機関からのデータはいったんすべてここに流れる。それぞれの機関は,TDXから,他機関のデータを選択的に取得する。ここで,TDXと防災科研のHi-netとの間では,Hi-netで採用している通信方式(WIN32)と大学や気象庁で採用している通信方式(WIN)との間の変換WIN32<->WINをリアルタイムで行っている。この結果,衛星系では,3機関で集められたすべてのデータが配信されている。

2)衛星受信専用装置の研究開発と普及活動

地震研究所では,卜部・植平(1998)の開発による衛星データ受信専用装置を,全国の大学等に貸し出して,衛星データ利用の普及を図っている。全国で衛星データを受信しているサイトは,大学の送受信局24箇所,大学の受信専用局14箇所,その他の国立研究所等に9箇所である。さらに,既設の受信モデムの老朽化対策などのために,新たな衛星データ受信装置を開発し試験している。

3)データのリアルタイム処理・蓄積とデータ公開

高感度地震波形データの迅速な処理については,気象庁が一元化震源処理のもと,翌日までに精密な震源を出すようになった。また,高感度地震波形データの利用については,防災科研のデータセンターにおいて,大学や気象庁の観測点のデータも含めて公開されるようになった。

大学においては,以前より基幹となる大学の地域センター等において,リアルタイム処理システムの研究開発が進められ,各大学のデータがそれぞれの大学に設置された地震データ利用システムによって公開されている。ここで,各大学の地震データ利用システムは,地震研究所との共同研究により開発されたもので,すべての大学のシステムで共通した利用者インターフォースとなっている。また地震研究所では,世界で大地震が発生した時に,全国の大学や気象庁等で観測された微弱な波形データをリアルタイムで処理してJ-arrayデータベースシステムとして保管しデータ公開している。

また,近年では,リアルタイム地震波形データを活用した,地震波動場のモニタリングシステムGRiD MT(図1,鶴岡ほか2003私信)のように,リアルタイム波形データを利用した地殻応力場のモニタリング手法の研究開発と試験的な運用を行っている。

 

(4-6)当初目標に対する到達度と今後の展望:

 平成13年度末に構築された全国的な高感度地震観測データ流通システムの運用開始を受けて,本研究課題では,全国の大学等に衛星データ受信装置を普及し,リアルタイムでのデータ処理・解析研究の推進を行った。さらに,既存のシステムより安価で利用可能な新しい衛星システムの開発研究を進めた。

データ公開については,全国レベルのデータ公開が,従来の基幹大学におけるデータ利用システムから,国レベルの防災科研データセンターの公開システムに移った。各基幹大学の地震データ利用システムは,より地域密着型のデータ提供などの新たな活用に向けて研究開発が進められている。

 全国の高感度地震波形データがリアルタイムでどこでも利用できるようになり,震源データについては,気象庁で一元化処理されるようになり,それらのデータがそれぞれの機関で迅速に利用可能になった。これは,全国の大学,気象庁,防災科研などの研究者が協力して実現しえた大きな成果である。

 

 今後平成16年度以降では,この高感度地震観測データ流通システムのリアルタイム地震波形データを活用した,広域地殻活動のモニタリングシステム手法の研究開発を進展させ高度化する予定である。また全国の研究者とお互いに競争し協力して,震源や発震機構などの実時間決定システムの開発,種々の帯域での低周波地震や低周波微動の準実時間検知システムの構築などの研究を推進していく予定である。衛星データ通信については,災害時に強い,山間地の観測に有効などから,今後も全国の基幹大学の研究者と共同で運用し,改良を重ねていく予定である。また一方で,通信衛星の容量に比べて地上のブロードバンド回線の容量が最近急速に増大していることから,地上回線を活用した次世代の地震観測ネットワーク・システムについても,全国の大学等の研究者と共同研究を行っていく予定である。

 

(4-7) 共同研究の有無:

 

 地震研究所特定共同研究2004-A-18「全国地震観測データ等を用いた地殻活動モニタリング手法の高度化」において,全国の研究者との共同研究を実施している。

 また,「高感度地震波形データ流通システム」は,全国の基幹大学(9大学)と防災科研,気象庁と共同で開発し運用しているものである。同様に,基幹大学の地域センター等で稼動している「地震データ利用システム」は,地震研究所地震予知情報センターと各大学において,共同開発・共同運用されている。

 

(5) この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト

(5-1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):

 

(5-2)平成15年度に公表された論文・報告:

 

(6) この課題の実施担当連絡者:

氏名:電話:鷹野澄,卜部卓

電話: 03-5841-5760, 03-5841-5790

  FAX   03-3814-5507, 03-5841-8265

  e-mail: takano@eri.u-tokyo.ac.jp, urabe@eri.u-tokyo.ac.jp

 

1  GRiD MT (Grid-based RealtIme Determination of Moment Tensors)による

地震波動場のリアルタイム解析システム(鶴岡,川勝,卜部)