三陸沖プレート境界でのカップリング強度の空間分布を明らかにするため,以下の課題を実施する.(1) 人工地震及び自然地震のアレイ観測を行い,プレート境界での散乱波励起効率の空間分布を求める.(2) セントロイド位置,短周期地震波の放射領域,震源時間関数の立ち上がり時間のマッピングを周波数帯域に留意しながら行う.
目標 (1) については,三陸沖構造探査実験における短周期地震計アレイ観測(12年度),及び浅発地震のエンベロープ解析(14年度)を行った.アレイ観測では人工地震は十分なS/N比では記録できなかったので,プレート境界地震に対するセンブランス解析を行い,後続波の到来方向は大局的なプレート構造の影響を受けていることを確認した.浅発地震のエンベロープ解析では,岩手県宮古付近の太平洋プレート上面での散乱強度が強いことがわかった.
目標 (2) に対しては,GPS連続観測データの解析(13〜14年度),2001年8月14日に青森県東方沖で発生した地震(M = 6.2)の解析(13〜14年度),及び青森県東方沖における地震活動の特徴抽出(15年度)を行った.GPSデータの解析では,1994年三陸はるか沖地震によって変化した青森県東方沖のプレート間カップリングは,2001年の段階では完全に固着するには至っていないと推定した.2001年8月の青森県東方沖の地震では余効変動が観測され,余効すべり域は震源域北側の領域に位置することが明らかになった.青森県東方沖のプレート境界近傍で発生した地震によるモーメント解放の変動を調べた結果,アスペリティ領域の周辺にはモーメント解放率の小さな領域が分布していること,及びアスペリティ領域でのモーメント解放率はその周辺と比べて特に小さくはないことがわかった(図1, 2).
目標 (1) についての成果からは,プレート境界周辺での散乱強度はその周辺よりも全般的に大きいが,境界における散乱強度分布は一様ではないことが考えられる.陸域から離れた場所での散乱強度分布の推定は構造探査実験に頼らざるを得ないが,陸域に近い領域では自然地震と陸域の観測網の組み合わせからでも散乱強度分布の推定が可能と考えられる.目標 (2) についての成果からは,大地震の既知のアスペリティ領域を完全な固着域と考えるよりは,アスペリティ領域内にも固着の度合いの階層構造があると考えるべきことが示唆される.
目標 (1) については空間範囲について,目標 (2) については周波数領域について,当初設定した目標の一部しか達成することができなかった.16年度以降の計画では「プレート境界のセグメント構造の解明」という課題を設定しており,14年度に実施した地震波のエンベロープ解析をさらに進めて,地震波散乱強度の分布からプレート境界地震震源域のセグメント構造に関する知見を得ることにしている.
構造探査実験の観測は,東北大学大学院理学研究科・東京大学地震研究所との共同研究.参加人数は4名.
相澤信吾,地殻及び最上部マントルにおける地震波散乱強度分布—東北地方北部・北海道南部での地震波エンベロープ解析—,弘前大学修士論文,83 pp., 2003.
相澤信吾・小菅正裕,モホ近傍とプレート境界における地震波散乱特性—東北地方北部及び北海道南部での高密度観測データの解析—,月刊地球,25, 610-615,
2003, .
小菅正裕・蔦林彩加,青森県東方沖における地震活動の特徴,東北地域災害科学研究,40(印刷中),2004.
佐藤魂夫・今西和俊・加藤尚之・鷺谷 威,1968年十勝沖地震の北側アスペリティ近傍に発生した地震(2001年8月14日, MW 6.4)の余効すべり,地震研究所彙報,78, 227-243, 2003.
氏名:小菅 正裕
電話:0172-39-3652
FAX:0172-34-5325
E-mail:mkos@cc.hirosaki-u.ac.jp
図の説明
図1 モーメント解放率(積算モーメントの対数平均値)の空間分布.破線はアスペリティ領域を表す.
図2 積算モーメントの対数の標準偏差の空間分布.モーメント解放率が1016
[Nm/y] 以上のブロックに色を付けて示す.破線はアスペリティ領域を表す.