(1) 課題番号:0305
(2) 実施機関名:北海道大学・大学院理学研究科
(3) 課題名:北海道南方沖における大規模海底地震観測
(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその成果
(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:
1.(1) 定常的な広域地殻活動
(4-2) 関連する「建議」の項目:1.(1)ア・ウ、(2)イ・ウ・エ
(4-3) 5ヵ年計画全体の目標:
平成11・12年度に、北海道南方沖において海底地震観測をそれぞれ約2ヶ月間実施する。平成12年度には、平成11年度に得られたデータを陸上のデータとあわせて震源決定およびトモグラフィー解析を実施し、予備的な結果を得る。
(4-4)5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:
北海道苫小牧沖から釧路沖にかけての海域で、平成11・12年度にそれぞれ27台の海底地震計を用いて、約2か月間の大規模な自然地震観測を行い、このうち平成11・12年度にそれぞれ21、23台で記録が得られた。また、平成12年度には11年度に得られたデータを用いて震源決定を行い、424個の震源が決定され、このうちの276個は陸上の観測網では検知できないものだった。さらに、このデータに同期間に陸上の臨時高密度地震観測網で観測された420個(海底地震計でも観測された142個も含む)の地震の走時データを加えて、海域から陸域に渡る高精度の震源再決定を行い、トモグラフィー解析によってP波速度構造を推定した。この水平断面図を図1に、図1(a)中の直線ABでの鉛直断面図を図2にそれぞれ示す。その結果、日高山脈の東側から1982年浦河沖地震(Ms6.8)の震源域にかけての深さ35-45kmに、P波速度が6.9-7.4km/sの低速度の物質が緩やかに沈み込んでいることがわかった。他の反射・屈折法による地震波探査の結果から判断すると、これはdelaminateしている千島弧の下部地殻と解釈された。
(4-5)5ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:
地殻変動の解析から、1982年浦河沖地震発生の約3年前から地震断層の深部延長部において非地震性のすべりが生じていたことが明らかになっていたが、このプレスリップはdelaminateしている千島弧の下部地殻が東北日本弧に衝突している付近で生じていたと考えられる。このように、本課題によって1982年浦河沖地震のような大地震を引き起こすメカニズムが明らかにでき、この地域における次の大地震発生の可能性を評価するための基礎的な情報が得られた。
(4-6)当初目標に対する到達度と今後の展望:
北海道南方沖の海域では、千島弧が西進し東北日本弧と衝突していると考えられている日高山脈の海側への延長部にあたり、また太平洋プレートが沈み込んでおり、テクトニックに複雑な場所である。この海域のテクトニクスを明らかにすることは地球進化をより深く理解するためだけではなく、地震発生ポテンシャルの評価という点からも重要である。本課題では、1982年浦河沖地震発生のメカニズムを明らかにでき、当初設定した目標は達成されたと言える。しかしながら、十勝沖などのプレート沈み込み帯では、地震活動が低調であったため、トモグラフィー解析によって地震波速度構造を推定することができなかった。また、データ数の制約からS波速度構造を推定することができなかった。本課題終了後の平成14・15年に十勝沖の海域で海底地震観測が行われ、平成15年9月26日には2003年十勝沖地震(M8.0)が発生し、海底地震観測網によって多数の余震が観測された。このように、現在までデータが蓄積されてきているので、今後は本課題でできなかった海域の地下構造の解明およびS波速度構造を推定することにより物質の種類や状態に関する議論まで可能になると思われる。
(4-7) 共同研究の有無:
観測は気象庁との共同研究。平成11年6-10月および平成12年7-10月に、北海道苫小牧沖から釧路沖にかけての海域で、参加人数は12名。トモグラフィー解析は愛媛大学との共同研究。
(5) この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト
(5-1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):
秋山 諭、北海道南方沖における大規模海底地震観測から得られた地震活動と地震波トモグラフィー、北海道大学修士論文、2001年。
村井芳夫・秋山 諭・勝俣 啓・高波鐵夫・山品匡史・渡邊智毅・長 郁夫・田中昌之・桑野亜佐子・和田直人・島村英紀・古屋逸夫・趙 大鵬・三田亮平、海底および陸上稠密地震観測から明らかになった日高衝突帯の地下構造、月刊地球、第24巻第7号、495-498頁、2002年。
Murai,
Y., Akiyama, S., Katsumata, K., Takanami, T., Yamashina, T., Watanabe, T., Cho,
I., Tanaka, M., Kuwano, A., Wada, N., Shimamura, H., Furuya, I., Zhao, D.,
Sanda, R., Delamination structure imaged in the source area of the 1982
Urakawa-oki earthquake, Geophys. Res. Lett. Vol.30, No.9, 1490,
10.1029/2002GL016459, 2003.
(5-2)平成15年度に公表された論文・報告:
(6) この課題の実施担当連絡者:
氏名:村井芳夫
電話:011-706-3553
FAX:011-706-3553
E-mail:murai@eos.hokudai.ac.jp
(図の説明)
図1.トモグラフィー解析によって得られたP波速度構造の深さ(a)15-、(b)25-、(c)35-、(d)45-kmでの水平断面図。初期モデルからのずれを%で表す。1982年浦河沖地震の震源を★、陸上の臨時高密度地震観測によって決められた微小地震のすべての震源を〇、最大主圧縮軸の向きを細い直線でそれぞれ示す。最大主圧縮軸を示す直線は、その向きが断面と平行な場合に欄外の凡例で示した長さになるように射影して示してある。曲線で囲まれた領域は1982年浦河沖地震の余震域を示す。
図2.図1(a)中の直線ABでのP波速度構造の鉛直断面図。横軸は北海道西海岸の位置を原点としている。 1982年浦河沖地震の余震域を太い直線で、臨時高密度地震観測で得られた震源分布から推定された太平洋プレート上面を曲線でそれぞれ示す。微小地震の震源は、断面の両側それぞれ10kmの範囲で発生したものを投影して示す。テクトニックな概念図をあわせて示す。図上の太い直線と▲は陸地と日高山脈の位置をそれぞれ示す。