(1)課題番号 0307

(2)実施機関・部局名:北海道大学大学院理学研究科附属地震火山研究観測センター

(3)課題名:十勝・根室沖大地震を対象とする地震予知の実現に向けた総合的観測研

       究

(4)本課題の5ヵ年計画の概要とその成果

(4−1)「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」の項目:

III.1.(2) 準備過程における地殻活動

(4−2)関連する「建議」の項目:

III.1. (2)・1.(2)・2. (2)・2・2.

(4−3)5ヵ年計画全体の目標:

次の十勝・根室沖の巨大地震の予測精度の向上のために、過去の地殻変動観測事例を確認するとともに、この地域において総合的な地殻活動観測体制を構築することを目標にしている。

 

(4−4)5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:

この5ヵ年の間、観測点の設置費用が認められていないため、ボアホール歪計の設置作業計画は実施されていない。

電磁気関係では、12年度から根室地域3地点、厚岸地域3地点、浦幌地域3地点に地電位変動観測点を設置し、平成9年から観測している、えりもおよび虹別(標茶町)と合わせて5地域11箇所で地電位変動の観測を実施した。また、えりも、虹別、浦幌地域には、フラックスゲート磁力計を設置し,地震前の地磁気変動の観測も実施した。また、これらの観測点および弟子屈地域において地磁気・地電位・地電流変動観測を同時に実施してきた。

この地域において大きな地震のあった1999年,2000年のデータについて磁場変換関数を計算し、地震との関連を議論した。M6.5を越えた1999513日の釧路中部地震や2000年128日の根室沖地震では2ないし7日前に顕著な地磁気変換関数の変化が観測されたが、その変化の理由については検討中であるが、地磁気の活動の小さいときにこれらの変化が顕著であることから、何らかのノイズで地磁気変換関数が変動した可能性がある。

2003年926日に起こった十勝沖地震の際には、地震発生の1ヶ月前の8月下旬に、えりも地域で比抵抗の減少、地磁気変換関数の変化が観測された。7月上旬にも地磁気変換関数の変化があった。地電位については、VAN法で言われているような変化は、現段階で記録を直視する限りでは見いだされていない。信州大学や産総研と共同で実施している、えりもでの電磁パルスは、827日から10月3日まで顕著なパルス数の増加が観測された。パルス数は5月下旬や7月にも短期的にパルス数の増加が観測された。このようなパルス数の増加は2000年2月から2001年3月の間の変化以来の出現であり注目される。

14年度からVHF 帯電磁波伝播異常と地震発生との関連を調べる観測を始めた。札幌観測所、天塩中川観測所、問寒別雪崩観測、えりも観測所、弟子屈観測所において、道内および本州各地の、他の放送局と混信がない、FM放送局の放送波強度受信している。現段階では、確定的ではないが、M5以上の地震の2−10日前くらいに普段観測されない遠くの放送局による電波の強度が大きくなる現象が観測されている。その中には、複数の経路(送信局と受信局を結ぶ経路)で観測されたものもあるが、ひとつの経路でしか観測されないものも多い。送信局の近くで電波の散乱体が発生している可能性がある。

GPS観測からは、現在、想定地震震源域はほぼ100%固着していると見られる.この固着域でのプリスリップ、あるいは深部でのすべりの促進などをモデル計算によると、陸域では、海岸線近くに変動の極大が見られる.さらに、1952年十勝沖地震のすべり量分布を津波波形データより解析した結果を見ると、震源域と考えられるプレート境界で大きく滑った場所の1つが浦幌の沖である事が解明された。これは、浦幌でのボアホール観測が十勝沖地震の前兆すべりを捕らえる上で非常に重要である事を示唆する。14年度には、既存の横坑でのSN改善の1方法として、えりも観測所横坑最奥部に10m深度のボアホール歪計の設置を試みた。

 

(4−5)5ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:

電磁気観測は、ULF帯での電磁気現象と地震発生との関係を調べる観測を行ってきた。道東地域では、2003年十勝沖地震をはじめ、1999年と2000年にも、観測網内および近傍でM6.5クラス以上の大きい地震がおこったので、それを中心にデータ解析を進めた。その結果、磁場伝達関数異常や十勝沖地震の際のえりも観測点のように震源域に近い場合は比抵抗変化として、地震発生との関係が観測できる可能性があることがわかってきた。これらの記録のデータ解析をさらに進めることにより、準備過程から直前過程にかけてのどの過程でどのような電磁気現象が起こるのかが明らかになるであろう。このような観測は、観測網が必ずしも十分ではないので、今後、観測網で観測構築され、信頼できる複数の観測がなされれば、ある程度以上大きい地震が起きることにより研究が進むと考えられる。

それに加えて、世界各地で地震発生との関係が報告されているVHF電磁波の伝播異常の観測をはじめた。これも観測網を構築し、複数の経路で現象を観測することが重要であると考え、北海道内を中心に観測網を構築しつつある。陸上のFM放送局の電波であっても、大きい地震では、多分、後方散乱による伝播異常が捕らえられるので、十勝,根室沖や北海道東方沖のような海底でおこる大きな地震も観測できる可能性もある。観測網を充実することにより前兆現象の観測をより確実なものとしたい.

 

(4−6)当初目標に対する到達度と今後の展望:

本課題は、次の十勝・根室沖の巨大地震の予測精度の向上のために、過去の地殻変動観測事例を確認するために、この地域において総合的な地殻活動観測体制を構築することを目標にして研究を開始した。しかし、結果として、当初計画したボアホール歪計や充実したGPS観測網、電磁気観測網等の総合的な地殻活動観測体制が構築される前に、平成15年に十勝沖地震が起こってしまった。その意味では、研究目標に到達したとは言いがたい。今後、近い将来発生する可能性の高い根室沖地震に備えて、総合観測体制の充実をはかる必要がある。

電磁気観測は、理化学研究所・地震国際フロンティア研究との共同研究の下で、根室、厚岸、浦幌に観測点を設置して、ULF帯の地磁気、地電位変動観測に関しては、ある程度の観測網の充実をはかることができた。それにより十勝沖地震の際には、えりも等で前兆かもしれない変動が観測され、また、発生地域に近い浦幌、浦河・上杵臼、厚岸等でもデータが取れたので、今後データを解析することにより、地震発生と電磁気変動との関係について知見が得られる可能性がある。また、世界的にも多くの事例が報告されている地震発生地域と電波伝播異常との関係を検証するために、北海道という限られた地域内ではあるが、他の場所よりも密な観測網を構築してきた。単にひとつの観測地点での変化では検証が難しいので、複数の観測点で観測できる観測網を構築する必要があり、その方向で、今後も観測網の充実を図る予定である。電磁パルスの観測もえりも地域において、産業技術総合研究所との共同研究として、続けられているが、これも可能であれば、観測点を増やして、データの信頼性の向上や現象発生場所の特定できるようにしたいと考えている。

 

(4−7)共同研究の有無:

 理化学研究所、信州大学、産業技術総合研究所

 

(5)この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト

(5−1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):

Mogi, T., M. Takada, M. Kasahara, T. Yamaguchi and T. Nagao (2001) Electromagnetic Monitoring on Seismic zone in Eastern Hokkaido, Japan. IAGA-IASPEI joint scientific assembly, Aug. 2001.

Hashimoto, H., Y. Enomoto, A. Tsutsumi and M. Kasahara (2002) Anomalous gep-electric signals associated with recent seismic activitites in Tsukuba and volcanic activity at Mt. Usu in Hokkaido. In M. Hayakawa ed. Electromagnetics: Lithosphere-Atomosphere-Ionosphere coupling., P.77-80.

Mogi, T and M. Takada(2002) Geomagnetid transfer function changes associated with a large earthquake in eastern Hokkaido, Japan., International Workshop on Magnetic, Electric and Electromagnetic Method in Seismology and Volcanology, Sep.2002,Moscow

森谷武男,茂木透,山科匡史,大塚健,笠原稔(2002)北海道におけるVHF帯電波伝搬異常観測網の構築,地球惑星科学関連学会2002年合同大会,E059-P006

森谷武男,茂木透,笠原稔(2002)北海道におけるVHF帯電波伝搬異常観測網の構築(2),地震学会2002年度秋季大会,P176

 

(6)この計画の実施担当連絡者

氏名:笠原 稔

電話:011-706-3591FAX011-746-7404 e-mail: mkasa@eos.hokudai.ac.jp