(1)課題番号:0322

(2)実施機関名:北海道大学大学院理学研究科附属地震火山研究観測センター

(3)課題名:日本海東縁における大地震発生域での海底地殻構造と地震活動

(4)本課題の5カ年計画の概要とその成果:

(4−1)「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」以下建議の項目:

  1.地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進

(1)   定常的な広域地殻活動

ウ.プレート内部の不均質構造の解明

(4−2)関連する「建議」の項目:1.(1)ア・イ・ウ,(2)ア・エ

 

(4−3)5カ年計画全体の目標:

 平成12年度、13年度では,1993年北海道南西沖地震(M7.8)直後に実施された海底地震観測による余震の地震カタログを用いて、トモグラフィック・インバージョン法を用いて当震源域での3次元P波速度構造を求め、余震分布との対比を行う。

 

(4−4)5カ年計画の実施状況の概要と主要な成果

1993年北海道南西沖地震の直後に実施された海底地震計による余震観測(日野・他、1994)で得られたP波到着時刻を用いて震源域内での1次元および2次元速度構造トモグラフィーを計算した。初期モデルとして、日野・他(1994)、Nishzawa et al. (1999)らの日本海東縁で求めた1次元P速度構造を参考にした。解析の対象領域は、北緯41.6度〜43.4度、東経138.75度〜139.75度の海域であり、その中で起きた余震のうち、比較的震源精度がよく求まった1031個の地震を選んだ。用いたデータはのべ23地点のOBSで記録されたそれらの地震のP波到着時刻である。手法はZhao et al.(1992)による速度構造インバージョン法であり、チェッカー・ボードによる解の再現性を検討しながら最終的なP波速度構造を求めた。また得られた速度構造による震源再計算の結果を検討した。なおS波データについては到着時刻の判定が難しく、今回の解析には用いなかった。またほぼ海底地震観測網内に起きた余震の観測データのみを用いて解析を行った。波線の水平成分が大きくなる陸上の定常観測点のカタログ・データは併用しなかった。

上記のP波速度構造トモグラフィーの解析からは,長い南北方向のみならず短かな東西方向にも速度変化に富み,当海域での複雑な地殻構造が示唆された。最終的なトモグラフィー構造から計算された余震の震央分布は、海底地形との対応が明瞭である(図−1)。また2〜3のクラスターを形成しながら10km〜15kmの深さに余震が集中していた。それ以深の地震は殆ど起きていなかった。これらの余震分布とP波速度分布とを対比してみると、地震のクラスターが見られた領域は地震波速度の遅い低速度域に対応していた(図―2、図―3)。今回はS波のデータが利用できないためにポアッソン比と地震活動との対比とその検討までには至らなかった。したがって当初の目標は一応到達したといえるが、余震分布のクラスターが低速度領域とその周辺で出現した物性的背景についてはまだ明らかになっていない。

 

(4−5)5ヵ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:

 1993年北海道南西沖地震の震源域でのP波速度構造トモグラフィーが得られ、その余震分布と速度構造との関係を対比することができた。地震のクラスターと低速度領域との明瞭な対応が認められ、地震の発生に速度構造が強く関与していることが示唆された。したがってこの地震の発生を考えるには地下構造の情報がきわめて重要な位置にあるといえる。

 

(4−6)当初目標に対する到達度と今後の展望:

海底地震計による1993年北海道南西沖地震の余震観測で得られたP波到着時刻を用いたトモグラフィック・インバージョン法によってその震源域でのP波速度構造が得られ、速度構造と余震活動との対応関係を明示できたことで一応の目標に到達した。しかしこの低速度領域がどのような物質の状態であったかのかを議論するにはS波など他のデータとのさらなる比較・検討が不可欠である。近年日本海東縁の歪集中帯に続発している大地震の地震発生ポテンシャルを考えるには、このような海域での海底地震計とエアーガンを用いた稠密地下構造探査が不可欠であり、今後ともこの種の調査を実施していきたい。

 

(4−7)共同研究の有無:

 東北大学・東京大学地震研究所・千葉大学・海洋科学技術センター・防災科学技術センター

 

(5)この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト

(5—1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):

高波鐵夫・村井芳夫・塩原肇・小平秀一・島村英紀・日野亮太・金沢敏彦・末広潔・篠原雅尚・佐藤利典・根岸弘明、1993年北海道南西沖地震の震源域でのP波速度トモグラフィー、2000年度日本地震学会 秋季大会 講演予稿集、A29,2000.

高波鐵夫・村井芳夫・渡辺智毅・塩原肇・小平秀一・島村英紀・日野亮太・金沢敏彦・末広潔・篠原雅尚・佐藤利典・根岸弘明、1993年北海道南西沖地震の震源域でのP波速度トモグラフィー(2)、2002年地球惑星科学関連学会合同大会、S-086,2002

Takanami,T., Murai,Y., Shiobara,H., Kodaira,S., Shimamura,H., Hino,R., Kanazawa,T., Suyehiro,K., Shinohara,M., Sato,T., Negishi,H., Tomography of P wave velocity structure in the aftershock area of the 1993 Off Northwest Hokkaido earthquake (M7.8), ]]VGeneral Assembly of the International Union of Geodesy and Geophysics (IUGG2003), SS03/08A/D-114,2003.

 

(5−2)平成15年度に公表された論文・報告:

Takanami,T., Murai,Y., Shiobara,H., Kodaira,S., Shimamura,H., Hino,R., Kanazawa,T., Suyehiro,K., Shinohara,M., Sato,T., Negishi,H., Tomography of P wave velocity structure in the aftershock area of the 1993 Off Northwest Hokkaido earthquake (M7.8), ]]VGeneral Assembly of the International Union of Geodesy and Geophysics (IUGG2003), SS03/08A/D-114,2003.

 

(6)この課題の実施担当連絡者:

氏名: 高波鐵夫  電話:011-706-4492,  FAX: 011-746-7404

e-mail: ttaka@eos.hokudai.ac.jp

 

 

「図の説明」

図―1:1993年北海道南西沖地震の余震のトモグラフィック・インバージョン法によって求められた速度構造による震源再計算の結果.地震直後の1993721日から816日までの約1ヶ月間の観測期間中に発生した余震の震央分布.

 図―2:余震のうち震源決定精度の高い地震1031個の地震を選び出し、述べ23地点の海底地震計に記録された6510個のP-到着時刻データにトモグラフィック・インバージョン法を適用した.ほぼ震源域の中央に当たる東経135.25度の子午線に沿った垂直断面でのP波速度分布.黒丸はその子午線から+/-0.5度以内に再決定された余震の震源位置.南と北の2ヶ所にある低速度域には多くの余震が偏在している.

図―3:深さ10kmでのP波速度構造.黒丸は深さ515km以内に再決定された余震の震央.図−2の断面図と同じく南と北の2ヶ所にある低速度域には多くの余震が偏在している.