(1)課題番号: 0209
(2)実施機関名:京都大学防災研究所
(3) 課題名:南アフリカ金鉱山における地震予知の半制御実験
(4) (4-1)
1.(3) 直前過程における地殻活動
(4-2)
1-(2)-ウ
(4-3) 5ヵ年計画全体の目標:
南アフリカの金鉱山において,M2−3クラスの地震を,地震計・歪計等のアレイからなる観測網で至近距離において記録し,その震源核形成過程を明らかにする.
(4-4)5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:
南アフリカ金鉱山の地下約2600m、東西南北約200m×200mの領域に設置した9つの3成分加速度計と4つの3成分歪計(石井式)から成る観測網からのデータの解析により,以下の成果が得られた.震源距離約100mでM2の地震が発生し、地震前2週間に数十個の前震が記録された。震源域において発生をはさんで約4ヶ月間に観測された約300個の地震を用いて、b値がM2の地震後大きくなり,応力降下量やエネルギーインデックスは、M2の地震後小さくなったことを見いだした.これらは、震源域におけるせん断応力の減少を示していると考えられる.さらに前震活動の解析から,M2の地震発生前に前震の発生数が加速度的に増加し,M2の地震の発生直前の数日の間に、エネルギーインデックスが低下したことが示唆された(図1).これらの観測結果は、M2の地震の発生直前に、震源域において、既に応力緩和が始まっていた可能性を示している。M2の震源は、一番近い歪計からでも約100m(断層サイズの4倍)と「遠く」、歪は15分間隔12bitサンプリングでしか記録されていなかったため、地震波形データの解析から推定された、地震の直前の変化は検出できなかった。
M3級の地震が発生する可能性の高い断層が存在するBambanani鉱山の地下約2.4kmにおけるフィールドで、25Hz 24bitサンプリングによる歪計1点による試験的な観測を開始した。2002年2月に発生したM3については,データ通信のトラブルにより地震直前および地震時は欠測であったが,震源距離約100mのM2.5(暫定)にともなう歪変化が捉えられた(図2).地震時の10-4 の程度の歪ステップや余効変動など,M2を越える地震について,前後の歪変化が初めて完全に捉えられたが,地震発生直前には他の地震による変動が重なっており,コサイスミックなステップと同一のセンスを持つ顕著な異常変化は今のところ見いだされていない.
平成14年度から,新たにMponeng鉱山, Tau Tona鉱山で地震計・歪計・変位計のアレイからなる観測網の展開を始め,M3クラスの発生を待ちかまえているところである.
(4-5)5ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:
M2の前震活動についての解析結果は、M2の地震の発生直前に、震源域において既に応力緩和が始まっていた可能性を示している.震源核形成過程を地震活動から捉えた可能性があり重要である。しかしながら,歪計によって異常な変化を捉えることはできなかったため,これは状況証拠による推定に過ぎない.また,エネルギーインデックスの推定にも問題が残っている.25Hz 24bitサンプリングの試験観測によりM2.5の前後の歪変化が捉えられたことにより,今後の本観測結果が大いに期待される.
(4-6)当初目標に対する到達度と今後の展望:
M2−3クラスの地震の震源核形成過程を明らかにするという目標について,地震計ではそれを捉えた可能性があるが,歪計では顕著な変動を捉えることができなかった.そのため,地震データから推定された異常変化が震源核形成過程のためであるかどうかは結論づけられなかった.今後は,至近距離,多点における精度良い観測により,歪計等によってM3クラスの地震の震源核形成過程を捉えたい.
(4-7) 共同研究の有無:
南アフリカ金鉱山における半制御地震発生実験国際共同グループ(国内外の約50名から成る)による共同研究.
南アフリカ共和国,Mponeng鉱山, Tau Tona鉱山,Bambanani鉱山で観測を実施.
(5) (5-1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):
Ogasawara, H., S.
Sato, S. Nishii, H. Ishii, Y. Iio, S. Nakao, M. Ando, N. Nagai, T. Ohkura, A.
Cichowicz, H. Kawakata, K. Kusunose, T. Satoh, A. Cho, N. Sumitomo, R. W. E.
Green, M. O. Kataka, Semi-controlled seismogenic experiments in South African
deep gold mines, In Rockbursts and Seismicity in Mines - RaSim5 (G. van Aswegen
et al. eds). South African
Ogasawara, H., S.
Sato, S. Nishii, H. Kawakata, Temporal variation of seismic parameters
associated with an Mw〜2event monitored at a 100〜200m distance, Seismogenic Process
Monitoring, 173-184, Balkema, Rotterdam , 2002.
Ogasawara, H., Review
of semi-controlled earthquake-generation experiments in South African deep gold
mines (1992-2001), Seismogenic Process Monitoring, 120-150, Balkema,
Ogasawara, H., T.
Miwa, Microearthquake scaling
relationship using near-source, redundant, wide-dynamic-range accelerograms in
a South African deep gold mine, Seismogenic Process Monitoring,151-164,
Balkema, Rotterdam , 2002.
Nagai, N., M. Ando, H.
Ogasawara, T. Ohkura, Y. Iio, A. Cho & The
research group for Semi-controlled earthquake-generation experiments in South
African deep gold mines, Location and temporal variations of shear wave
splitting in a South African gold mine, Seismogenic Process Monitoring,
185-198, Balkema, Rotterdam , 2002.
Satoh, T., Near source
observation of small initial phase generated by earthquakes in a deep gold mine
in South Africa, Seismogenic Process Monitoring, 165-171, Balkema, Rotterdam ,
2002.
(5-2)平成15年度に公表された論文・報告:
Ogasawara,
H., Y. Iio, The Research Group FOR SEESADGM, semi-controlled earthquake-generation
experiments in South African deep gold mines , (2002
- 2006), IUGG2003, 1730
SS02/02P/A03-014, 2003.
Ogasawara,
H., Y. Iio, M. Nakatani, J. Takeuchi, N. Shimoda, H. Ishii, T. Yamauchi, T.
Satoh, H. Kawakata, A. Kato, A. K. Ward, S. K. Murphy, R. McGill, A. Mendecki,
G. van. Aswegen, R. Seesag, An attempt to directly monitor stress buildup and
triggered earthquakes within one fault distance in South African deep gold
mines, AGU fall meeting, S41C-0102, 2003.
Yamada,
T., J. Mori, H. Ogasawara, Y. Iio, H. Kawakata, S. Ide, R. Seesag,
Determination of Fault Planes and Rupture Velocities of Small Earthquakes in a
South African Gold Mine : Constraints on Radiation Efficiency, AGU fall
meeting, S42C-0177, 2003.
(6) この課題の実施担当連絡者:
氏名:飯尾能久
電話:0774-38-4200 FAX :0774-38-4190 e-mail: iio@rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp
図1 震源距離約100m,M2の地震前のエネルギーインデックスと応力降下量の時間変化.(a) エネルギーインデックスと地震モーメントの関係.△印がM2の直前の地震.(b) エネルギーインデックスの時間変化.移動平均に用いる地震数を変えている.(c) エネルギーインデックスと応力降下量の時間変化.
図2 Bambanani鉱山で石井式歪計により観測された,震源距離約100mのM2.5(暫定)にともなう歪変化,上側の四角の領域が下側に拡大されている.