(1) 課題番号:0909(京大0213からの継続)
(2) 実施機関名:名古屋大学大学院環境学研究科
(3) 課題名:海底地殻変動測定器の開発とそれを用いた観測
(4) 本課題の5ヵ年計画の概要とその中での平成14年度までの成果
(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:
3. 地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発 (2)
観測技術
(4-2) 関連する「建議」の項目: 1-(2)-イ,1-(2)-ウ,3-(2)-ウ
(4-3) 5ヵ年計画全体の目標:
日本列島は四方を海に囲まれており,海溝型巨大地震など重要な地学現象を担うプレート境界のほとんどは海域に位置している.地殻変動データは地震予知に欠かすことのできないものであるが,海底における地殻変動観測は現在実用的な測定手段が確立されていない.そこで,陸上のGPS観測網で得られている変位ベクトルデータ自然延長した形で,海溝陸側斜面や海溝周辺海域の海底の変位データを得ることを目指して,海底に設置した基準点と海上の船の間を精密音響測距し,GPSで精密に決定した船上装置の位置とリンクするというシステムの開発を開始した.5カ年の間に,実用化のための実証段階として数ヵ月程度のやや長期の観測を実施し,実用システムとしての問題点の洗いだし,長期観測耐えるためのハードウェアの改良を加え,実際に長期にわたる繰り返し観測を行なう.
(4-4) 5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:
1)海底局位置決定誤差の低減
研究開始当初の2000年6月に潮岬東方沖で実験を行なった際には,海底局位置決定誤差が20 cmであったが,その後,機器(音響測距方法)の改善により,2001年末までに誤差は5〜6
cmに低減した.
2)くり返し測定実験・海底局網の構築
上で述べた誤差は1回の実験におけるランダム誤差であって,くり返し観測時の系統誤差は別に見積もる必要がある.そこで,2002年8月〜10月にかけて同一海底局のくり返し測定実験を行なった.期間中に5回の測定に成功し,海底局の安定性は検証できた.その後,駿河湾内とその南方海域における海底局網の構築に着手した.2004年末までに3ヶ所に5年間継続観測可能な海底局を設置し,くり返し測定を開始した(図909-1).
3)GPS測位精度実験
長基線でのキネマティックGPS測位の精度を評価するために,移動局からの距離が異なる複数の基準局を設置して,移動体の測位精度実験を行なった.その結果,基線長が長くなるにつれて測位の系統誤差が2次関数的に増加することが明らかになった.特に,50kmを越えるような基線長は設定するべきではないことが判明した.
4)海中音速構造の時空間変化の実測
海中音速構造の時空間変化を実測するために,2隻の船を用いてCTD同時測定の実験を行なった.2マイル離れた地点での空間変化は最大7 m/sで,これは20-80 cmの海底局位置決定誤差を生み出す.また,昼夜での時間変化は最大8 m/sで,100-150 cmの誤差が生じることが分かった.
(4-5) 5ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:
日本列島周辺には太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈み込み,海溝沿いに巨大地震(たとえば,南海地震や東南海地震)が発生する.それらの巨大地震の予知には,プレート間の固着状態とその時空間変化を知ることがひとつのカギになる.近年,国土地理院によって日本列島上のGPS連続観測網(GEONET)が整備されたが,日本列島周辺のプレート境界はそのほとんどが海底下に存在するため,プレート間の固着状態を高分解能でモニターするためには,陸上の観測点だけでは不充分であり,海底での地殻変動観測が不可欠である.駿河湾内で海底局網の構築ができたことは,海域での固着状態の監視への道を開く第一歩である.
(4-6) 当初目標に対する到達度と今後の展望:
5カ年の間に,1)やや長期の観測を実施し,2)実用システムとしての問題点の洗いだし,3)長期観測耐えるためのハードウェアの改良を加え,4)実際に長期にわたる繰り返し観測を行なうことを目標に掲げたが,1)〜3)までは実現できた.4)についても着手はしたが,繰り返す観測時の系統誤差評価など,課題は残されているので,今後,残された課題を解決したい.
16年度以降は,既に設置した長期測定用の海底局を年4回程度測定する「実測」と,そのデータを活かした「精度向上」の両方を行うことによって,プレート間カップリングのモニタリングに供することができる海底地殻変動データが得られるようになるであろう.
(4-7) 共同研究の有無:
・東海大学 地震予知研究センターとの共同研究
船舶「北斗」を使用して設置・観測,平成14年〜15年度,6名
・静岡県水産試験場との共同研究
船舶「駿河丸」を使用して設置・観測,平成14年〜15年度,15名
・国土地理院との共同研究
GEONET観測点の臨時1秒サンプリング収録
・三重県科学技術振興センター
船舶「あさま」を使用して観測,平成15年度,1名
・京大防災研・京大院理・神戸大理・高知大理
基線長別キネマティックGPS精度評価実験,平成13年度,24名
(5) この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト
(5-1) 過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):
田所敬一ほか,音響測距−GPSリンクによる海底地殻変動観測システムの開発,地学雑誌,110,355-361,2001.
佐野 修ほか:新らたな観測・実験技術の開発,月刊地球,25,773-782,2003.
(5-2) 平成15年度に公表された論文・報告:
Tadokoro, K. et al., Observation of Sea-floor Deformation in Tokai-Nankai
Region, Japan, AGU Fall Meeting, San Francisco, California, 2003.
Sugimoto, S., et al., Repeated Observation of Sea-floor Crustal
Deformation at Suruga and Nankai Trough in 2002 and 2003, AGU Fall Meeting, San
Francisco, California, 2003.
安藤雅孝ほか,高精度海底地殻変動測定システムの開発:1cmの精度を目指して,地球惑星科学合同大会,千葉,2003年5月.
杉本慎吾ほか,海底地殻変動観測システムの誤差評価:複数GPS陸上基準局による船位測定の精度評価,地球惑星科学合同大会,千葉,2003年5月.
田所敬一ほか,駿河湾および熊野灘における海底地殻変動くり返し観測:海底局網の構築と高度化へ向けて,日本地震学会,京都,2003年10月.
矢田和幸ほか,海水音速構造の不均質性と海底位置決定精度について,日本地震学会,京都,2003年10月.
奥田 隆ほか,海水音速構造測定における機器間の差異について,日本地震学会,京都,2003年10月.
高谷和典ほか,キネマティックGPS解析ソフトの精度評価:海底地殻変動観測に向けて,日本地震学会,京都,2003年10月.
(6) この課題の実施担当連絡者:
氏名: 安藤雅孝
電話: 052−789−5390
FAX: 052−789−3047
E-mail: ando@seis.nagoya-u.ac.jp
図909-1:
駿河湾内の3カ所に設置した5年間継続観測可能な海底局と今後の設置予定点