(1) 課題番号: 0501.3
(2) 実施機関名: 東北大学大学院理学研究科
(3) 課題名: 高速サンプリングGPS観測によるカップリングのゆらぎの検出
(4) 本課題の5ヶ年計画の概要とその成果:
(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:
1.地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進
(2) 地震発生に至る準備・直前過程における地殻活動
(4-2) 関連する「建議」の項目: 1.(1) ア・イ
(4-3) 5ヶ年計画全体の目標:
広帯域地震観測では,数十分以上の時定数をもつイベントの検知は困難であることから,超長周期地震計としての高速サンプリングGPS観測が有望であるとの考えに基づき本研究課題がスタートした.平成15年度には,14年度までに完成する予定のデータ収録・解析システムにより得られるデータを広帯域地震計と比較し,「GPS変位計」としての性能評価を行う.高速サンプリングGPS観測データや通常のGPS観測データを用いてプレート間カップリングの時空間変化の検出を行う.
(4-4)5ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:
平成12年度には,高速サンプリングGPS観測システムがほぼ完成し,宮城県仙台市,岩手県三陸町・遠野市・玉山村・滝沢村,秋田県秋田市・本荘市の計7観測点において高速サンプリング観測を開始した.平成13年度は得られたデータの一部をキネマティック法で解析を行い,300kmを超える基線でも水平成分ではRMS10mm程度の精度が得られることがわかった.
GEONETおよび東北大学のGPS連続観測網によって得られた水平・上下変動速度データ(期間は1997年〜2001年)を用いてバックスリップインバージョンを行った.その結果,仮定するモデル断層を深さ200km程度まで広げた場合でも安定したバックスリップ分布が得られた(図1).宮城県沖や青森県東方沖において,強い固着を示唆する大きなバックスリップレートが推定された他,それらの地域のバックスリップは深さとともに減衰しながら深さ約100km程度の範囲でバックスリップがあることが推定された.このことは,1978年宮城県沖地震(M7.4)
後に深さ約100km程度の範囲のプレート境界で余効すべりがあったことが推定されている(Ueda et al., 2001)ことと調和的である.
さらにGPSによって推定された観測点座標の時系列を調べた結果,1999年ごろから変位速度に変化がみられたため,1997年-1998年と1999年-2001年の二つの期間に分けて同様のインバージョンを行った結果,1994年の三陸はるか沖地震(Mj7.6)後に弱まっていた固着が回復してきていることを示唆するものであると考えられる(図2).
(4-5)5ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:
バックスリップインバージョンの結果,プレート間のカップリングが強い場所は,十勝沖から青森県東方沖に至る領域と宮城県沖から福島県沖に至る領域と推定され,最大バックスリップ量はそれぞれ8cm/yr,10cm/yrであった.1989年,1992年,1994年の三陸沖の地震を除く,主な大地震のアスペリティは,バックスリップの大きな領域に対応しており,解析期間内において,これらのアスペリティは固着していると考えられる.本研究により将来の大地震の震源域が固着領域としてマッピングされ,しかもその固着状況の時間変化まで捉えられたことは,大地震発生の長期予測の高度化に寄与するものである.
また,深さ約100km程度まで続くバックスリップ域の存在が示唆された.このような深部プレート境界におけるすべり欠損は,非地震性すべりによって解消されると考えられるが,実際に1978年宮城県沖地震(Mj7.4)や1994年三陸はるか沖地震(Mj7.6)の後には顕著な余効すべりが観測されている.このような領域の存在は,現状のプレート境界のモデルにおいて十分組み込まれておらず,今後,このような研究をモデル化にフィードバックすることにより,プレート境界の地震発生モデルの構築のみならず,内陸における応力・歪蓄積過程の解明に大きく寄与できると期待される.
(4-6)当初目標に対する到達度と今後の展望:
本研究計画により,2,3年程度のGPS観測から得られる変位速度データからプレート間カップリングの時間的変化が議論できることが明らかになった.今後GPS解析の高度化によりさらに短期間の観測(例えば1年あるいはそれ以下)でも十分な精度で同様の議論ができるようになる可能性がある.今後は,そのようなGPSデータ解析の高精度化やインバージョン手法の高度化をさらにすすめる必要がある.これにより,震源域の強度回復の状況や深部のエピソディックな準静的すべりの時空間分布が詳細に調べられれば,プレート境界のモデル化に寄与できると期待される.
(4-7) 共同研究の有無: なし.
(5) この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト
(5-1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):
Nishimura, S. Miura,
K. Tachibana, K. Hashimoto, T. Sato, S. Hori, E. Murakami, T. Kono, K. Nida, K.
Mishina, T. Hirasawa and S. Miyazaki, Distribution of seismic coupling on the
subducting plate boundary in northeastern Japan inferred from GPS observation,
Tectonophys, 323, 217-238, 2000.
諏訪謡子,3次元変位速度場から推定した東北日本のプレート間カップリングの時空間変化,東北大学修士論文,pp. 82,2002.
(5-2)平成15年度に公表された論文・報告:
諏訪謡子・三浦 哲・長谷川 昭・佐藤俊也・立花憲司,東北日本沈み込み帯におけるプレート境界の固着状況,地震2,56(4),印刷中,2004.
Miura, S., Y. Suwa,
A. Hasegawa, and T. Nishimura, The 2003 M8.0 Tokachi-Oki earthquake - How much
has the great event paid back slip debts? Geophys. Res. Lett., in press, 2004.
(6) この課題の実施担当連絡者:
氏名:三浦 哲; 電話:022-225-1950; FAX:022-264-3292
E-mail:
miura@aob.geophys.tohoku.ac.jp
図の説明:
図1.GPSによる水平・上下変位速度データから推定された東北日本弧下のバックスリップ分布.期間は1997年から2001年まで.コンター間隔は2cm/yr.
図2.バックスリップ分布の時間変化.(a) 前半(1997 年1 月〜1998 年12 月),(b) 後半(1999 年1 月〜2001 年12 月)の結果を示す.コンター間隔は2cm/yr.