(1) 課題番号: 0503

(2) 実施機関名: 東北大学大学院理学研究科

(3) 課題名: GPS−音響結合式測地測量のための試験観測

(4) 本課題の5ヶ年計画の概要とその成果:

(4-1) 「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(以下、建議)の項目:

  3.地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発

   (2) 観測技術

(4-2) 関連する「建議」の項目: 3.(2)

(4-3) 5ヶ年計画全体の目標:

非地震性すべりの時空間パターンを理解するためには,海底における測地観測を実現し海陸にまたがる観測網を構築しなくてはならない.地震観測などの結果は、三陸沖では巨視的なカップリングは比較的小さいと考えられているのに対して,最近の陸上GPSのデータを解析した結果によると,特に宮城県沖などでは100%近いカップリングを示し,相矛盾する結果となっている。このような問題を解決するためには海域での測地観測が最も有効であり、実用レベルの観測装置も完成しつつある。三陸沖における実海域試験観測を可能な限り推進し、ハードと解析ソフトを充実させていき、最終的には実用的な観測精度(数cm/年の相対変位速度の検出)を実現することが本研究の目標である.

(4-45ヶ年計画の実施状況の概要と主要な成果:

平成13年度に地震予知研究の「現場」である三陸沖日本海溝の海側と陸側において、海底精密測位システムの海底局である精密測距装置を設置し、予備的ではあるが、初めて実海域試験を行い、海底精密測位に必要な3つの要素技術が実用的段階にあることを確認できた(成果(1)-(3))。12年度にはハワイ島沖で行われたスクリップス海洋研究所の海底測地観測航海に参加し、成果(4)を得た。14年度には海中無人探査機を用いた海底観察により、成果(5)を確認した。

主要な成果

(1) 船のそばに浮かべたブイを用いたGPS・音響観測システムの開発

船のプロペラやエンジンによる音響ノイズは重要な問題の一つであり、それをさけるために、1個の音響トランスジューサと3台のGPSアンテナおよび動揺観測装置を搭載した2m四方のブイを用いた観測を行った。大きすぎて投入揚収作業は難しいという問題はあるが、GPSと音響の計測には問題がないことを確認した.

(2) 大水深における高分解能の音響測距の確認

海溝海側の水深5500m海域にスクリップス海洋研と共同開発した精密測距装置3台を設置し、15kmまでの距離において1cmをきる高い分解能で音響測距ができることを確認した。このことは、日本周辺の沈み込み帯では、どんな場所でも精密海底測位観測が可能であるということを示している。

(3) 長基線におけるセンチメートルオーダーのキネマティックGPS測位の確認

まず陸上で仙台−東京間の測位実験を行い、約2cmの測位精度を確認した。さらに海溝海側の観測点で、350km離れた仙台と270km離れた三陸のGPS観測点を陸上基準局としてブイのGPSアンテナの測位を行い、緯度・経度についてはその差が23cmであることを確認した。

(4) 海洋の変動に伴って海中音速場が時空間変化する影響の補正

一般に沈み込み帯は、大洋の端に位置しており、表層の海流と、潮汐に伴って大陸斜面に沿って起こる底層流の影響を受けやすい。そこで平成12年度にハワイ島南東沖で行われたスクリップス海洋研究所の海底測地研究航海に参加し、日本海溝海側に設置した測距装置1台の動作確認とともに、海洋変動が海底測位に与える影響を評価する実験を行った。その結果、海中音速場の日変化の影響は、音響測距には振幅約70cmにも達するが、海底に3台の測距装置を設置して、その中心位置の測位を行うと、その影響は数cmに抑えられることを確認した。

(5) 海溝海側の厚い堆積層の上に設置した海底局がほとんど沈まず、姿勢及び位置が非常に安定していることが確認された。 

(4-55ヶ年で得られた成果の地震予知研究における位置づけ:

1.GPS−音響結合方式海底精密測位のための要素技術の開発し、実海域試験による性能評価により、各要素技術が、実用的な観測に必要な性能をほぼ満たしていることを確認し、大地震の発生現場である海底において、海底地殻変動観測が実現可能であることを示した。

2.図1に示すように、平成15年度までに三陸沖の4つの観測点にそれぞれ3台の海底局を設置し、その位置決めを行った。観測点は、日本海溝の海側に1点、陸側には3点あり、それぞれ予想される水平変動量は異なっており、海底で観測される地殻変動と、プレート運動モデルやバックスリップモデルとの比較、相似地震から推定されるプレート境界の滑り量との比較が将来可能になる。 

(4-6)当初目標に対する到達度と今後の展望:

三陸沖における実海域試験観測を可能な限り推進し、ハードと解析ソフトを充実させていき、最終的には実用的な観測精度(数cm/年の相対変位速度の検出)を実現することが本研究の目標であった。この5年間で、三陸沖の4点にそれぞれ3台の海底局を設置し、その位置決めを行うとともに、観測に必要なハードとソフトを整備し、各要素技術が実用的な性能をもっているという評価も終えているので、初期の目標は十分に達成したと言える。しかし、最後の2年間で合計4つの航海が台風の影響をまともに受けて計画変更になったため、本格的な海底精密測位観測の実施はできず、最終的な目標である実用的な観測精度の実現は16年度以降の課題となった。

(4-7) 共同研究の有無: なし

(5) この研究によって得られた成果を公表した文献のリスト

(5-1)過去5年間に発表された主要論文(5編程度以内):

Fujimoto, H., M. Mochizuki, K. Mitsuzawa, T. Tamaki, and T. Sato, Ocean bottom pressure variations in the southeastern Pacific following the 1997-98 El Niño event, Geophys. Res. Lett., 30 (9), 1456, doi:10.1029/2002GL016677, 2003.

Osada, Y., H. Fujimoto, S. Miura, A. Sweeney, T. Kanazawa, et al., Estimation and correction for the effect of sound velocity variation on GPS/Acoustic seafloor positioning: An experiment off Hawaii Island, Earth, Planet. Space, 55, e17-e20, 2003.

藤本博巳・友田好文、重力からみる地球、東京大学出版会、172, 2000.

(5-2)平成15年度に公表された論文・報告:

Fujimoto, H., Seafloor geodesy and an ocean bottom cable system, Scientific Submarine Cable 2003 Workshop (SSC’03), 25-27 June 2003, Tokyo, IEEE Catalogue Number 03EX660, 251-254, 2003.

佐野修・藤本博巳・山岡耕春・金沢敏彦・山内常生・田所敬一、新たな観測・実験技術の開発、月刊地球、292, 773-782, 2003.

藤本博巳・三浦哲・金沢敏彦・長田幸仁、GPS・音響を用いた海底地殻変動観測、京都大学防災研究所研究集会報告、14K-07, 155-159, 2003.

(6) この課題の実施担当連絡者:

氏名:藤本博巳; 電話:022-217-6779 FAX022-264-3292

E-mailfujimoto@aob.geophys.tohoku.ac.jp

 

 

図の説明:

図1.陸上GPS観測から推定された沈み込みプレート境界のバックスリップの分布(諏訪、2003)とGPS音響結合海底精密測位観測点(星印)の配置