「観測・実験技術開発」計画推進部会 平成16年度研究計画
1.はじめに
観測・実験技術開発部会は,観測・実験のための新たな技術の開発・高度化研究を実施する.その目的は言うまでもなく観測のための新たな手段をえることにあり,到達目標は実用化である.研究開発は研究対象あるいは研究手段の観点から4つの細目に分類されている.それらは
(1) 海底諸観測技術開発と高度化,
(2) ボアホールによる地下深部計測技術開発と高度化,
(3) 地下構造と状態変化をモニターするための技術開発と高度化,
(4) 宇宙技術の利用と高度化,
である.各機関から提案された研究課題は,(1) 海底諸観測技術開発と高度化は,課題番号0118(東京大学地震研究所),0313(東北大学理学研究科),0906(名古屋大学環境学研究科)であり,(2)ボアホールによる深部計測技術開発と高度化は,課題番号0119(東京大学地震研究所),0907(名古屋大学環境学研究科),(3)地下構造と状態変化をモニターするための技術開発と高度化については,課題番号0120(東京大学地震研究所),0908(名古屋大学環境学研究科)および0705(東京大学理学部)であり,(4)宇宙技術の利用と高度化は,0121(東京大学地震研究所)および0212(京都大学防災研究所)である.
2.平成15年度までの関連する研究成果.
(1) 海底諸観測技術開発と高度化
これまで長期型海底地震計,GPS-音響測位システム,海底圧力計などを開発し成果をあげてきた.超深海底設置技術に関しては6000m以上の深海底に地震計などを設置することができた.海底ボアホール利用は陸上のボアホールで開発研究を実施してきており,レーザー干渉計と光ファイバーを組み合わせた半導体フリーのセンサーを開発し孔内試験を実施した.海底地殻変動観測,特にGPS-音響測位システムについては,条件のよい時には,キネマティックGPS測位は数cmの再現性,海底測位は10cmの精度がえられた.海上測位で350km,水中測位で15kmの距離においてデータ解析に耐えうる精度の測定が実現できたことは,日本海溝の外側を含め,必要とするほとんどすべての海域における測定が可能であることを示している.また,2000年三宅島の火山活動の際に設置した海底圧力計により,火山活動に伴う約6cmの海底沈降検出に成功した.
さまざまな基線長でキネマティックGPS測位の精度評価実験を行ない,基線長が長くなるにつれて系統誤差が非線形に増加するという結果がえられた.海中音速構造の年・季節・日変化を知るために,駿河湾内および御前崎南方沖においてCTDプロファイラ測定を行ない,短期的および長期的な変動が明らかとなった.駿河湾北部の水深約1000 mの海底に長期観測テスト用の海底局を設置し2カ月半にわたってくり返し測定に成功した.これによって,長期くり返し観測の目処が立った.
(2) ボアホールによる地下深部計測技術開発と高度化
光干渉計測による傾斜計に関し,レーザー干渉計と光ファイバーを組み合わせた半導体フリーのセンサーを開発し,陸上孔内試験を実施した.海域孔内設置ひずみ計に関しても,防災科学技術研究所と共同で三成分孔内ひずみ計を開発した.地震計に関しては,変位センサーとして干渉計測を用いた実験機が開発され高精度化が可能なことが示された.深部ボアホールを利用した地殻応力測定に関しては,これまで国際的に広く実施されてきた水圧破砕法に関する原理的な問題まで提起されている状況を鑑み,問題の原因が加圧水で直接ボアホールを載荷することにあるという観点から,水を使わない乾式破砕法による絶対地殻応力測定法による応力プローブのプロトタイプを作成し,数値計算,室内試験および現位置比較試験により,花崗岩程度の硬岩でも深さ1500m以上でも適用可能なことが確かめられた.
ワイヤレス多成分インテリジェント型歪計を開発し,中部地域を中心に応力解放法による初期応力測定法を実施した.えられた主応力方向は,国土地理院による測地測量の結果から推定される広域の主ひずみ方向と良い相関を示した.また,同じボーリング孔,異なる深度で繰り返し応力測定ができることを実証した.ボアホール型地殻歪連続観測では,観測装置内部でA/D変換しデジタルデータを1本の同軸ケーブルで伝送し,その同軸ケーブルで電源の供給が出来るシステムを開発した.この結果,観測装置に付属するケーブルの軽量化が可能となり,岐阜県瑞浪市の東濃地震科学研究所の屏風山観測点では,地下1000mにボアホール計器を設置することに成功した.
(3) 地下構造と状態変化をモニターするための技術開発と高度化
地殻を伝わる弾性波の伝播特性の時間変動を高い安定性の元に高分解能で測定するためのアクロス震源装置による実証実験を行った.アクロス震源装置を正確に長期間連続で運転するための技術のうち最も重要なものにFM変調(周波数スイープ)を正確な時計(GPS)と同期するための震源制御技術がある.そこで必要なパルス信号発生装置を開発し,送信と受信側を直接の通信なしに同期させることが可能となった.2000年1月から野島断層への注水実験にあわせて連続運転を開始し,15ヶ月継続運転することができた.近傍に設置された深さ800mと1700mのボアホール地震計によって捉えられた信号は衛星テレメータを経由して名古屋大学で記録され,衛星テレメータシステムが有用であることがあわせて示された.淡路島の15ヶ月連続運転の記録から100マイクロ秒を上回る分解能でP波およびS波の伝播速度を連続モニターすることができた.また,震源装置近傍の地盤の時間変動の除去が重要であることが示された.さらにまた,有感地震による地震波速度変動を検出した.この変動はS波の変化が特に大きいこと,また,S波の速度変化に異方性があり,速度変化が大きい方向が断層に直交することが明らかとなった.東濃の震源装置を用いて地震波伝播特性の時間変動を検出するため,瑞浪の地殻変動観測豪に15点の地震計によるアレイを設置し,地震計アレイに関連した技術開発を行った.現在のところ気圧に相関した変化が検出されている.
地表近傍の震源設置は環境変動の影響や表面波発生によるエネルギーロスが大きいため,地下深部に設置することが望ましい.そこで正弦波アクロス震源による実証試験機を地下600mの坑道に設置し実証試験を実施するとともに,震源装置がつくる波動場の理論計算手法を開発した.偏心モータ以外の発振源による精密に制御された震源については,パルス透過法であるが,圧電素子をもちいた発振系により,ppmオーダーの有意な速度変化がえられた.ゆっくりと変化する微小速度変化から10hPa/月程度の微小な応力変化がモニター可能であることが示された.
地震の準備過程における地殻流体の役割を明らかにするために,マントルから地殻に及ぶ流体挙動をもとらえる観測技術開発が提案されている.流体の観測手段として,マントルに起源を持つヘリウム-3)フラックスの連続測定を想定し,このための装置の開発・設計を行い,実験室で連続測定できる装置を作成した.
(4) 宇宙技術の利用と高度化
京都大学防災研究所白浜海象観測所を中心とする地域において,キネマティックGPS連続観測を行い,最適な衛星捕捉高度マスク等を検討した.また,ドラム型記録計を改良した可動式のアンテナ台を作成し,京都大学宇治構内を中心とする地域において擬似的地殻変動の観測実験を開始した.平成15年9月26日に発生した十勝沖地震前後のGEONETデータをEpoch by epoch方式により解析し,最大余震による変動等を検出した.
SARの解析技術は大学でも浸透かつ進展しており,面的な地殻変動検出の手法の向上がはかられた.例えば,M5.9鬼首地震にともなう地殻変動の解析は,地震研究所によりなされている.宇宙技術の利用の一貫として衛星テレメータシステムがあるが,リアルタイム地震波データを収集配信する全国規模の衛星テレメータシステムを開発し,運用してきた.
3.今後,5年間の到達目標および平成16年度研究計画.
(1) 海底諸観測技術開発と高度化
これまで開発された長期地震観測,海底圧力観測,海底傾斜観測,GPS/音響測位を一段と高精度化するとともに,観測項目を複合化することによって地震・地殻変動の同時観測を可能にする.また,これまで高度な測定系が設置されたことがない水深10000mまでの超深海底での地震観測を高度化することにより,海溝軸近傍の地震活動の詳細を観測する.さらにまた光干渉型ボアホールセンサーによる地殻変動観測装置の開発実用化をめざす.
日本海溝周辺海域においてプレート境界におけるすべり・固着状況の解明に役立つと期待されている海底地殻変動観測に関しては,海底の水平変動を検出するため水中音響測距ならびに長基線GPSキネマティックス解析の技術革新をすすめ,海溝陸側で2 cm程度,海側で3 cm程度の繰り返し観測の再現性を達成することを具体的な技術開発の目標とする.一方,相対的な上下変動については,海底における長期圧力変動観測の技術革新をはかり,1 cm程度の検出分解能を達成することを目標とする.さらに海底における傾斜変動の観測に関する試験観測を行い,問題点であった長期安定性に関する現状技術の評価とその対策方法を明らかにする.
駿河湾内に既設の3カ所を含む計4カ所からなる海底局網,および海底局網の南海トラフ沿いへの拡張の第一歩として,御前崎沖の2カ所に海底局を設置する.各点には3台ずつの海底局を設置し,それぞれの海底局について年間3回程度のくり返し観測を3〜5年間継続する.現状のシステムでは海底局の位置決定精度(ランダム誤差)は5〜6 cmである.本研究課題では,ランダム誤差1 cm程度に挑戦する.また,これまで長期くり返し観測を行なった際の系統誤差評価に関する研究も実施する.
平成16年度実施計画としては,GPS-音響測位システムの繰り返し観測精度の向上と,連続観測への技術検討,海底設置型の傾斜・圧力観測の高度化に関する研究を実施する.海底ボアホールを利用した光干渉計技術の導入を目標とした歪・傾斜観測技術の高度化に関する研究を実施する.地殻変動観測機器や地震計等の超深海底設置に関する研究を実施する.さらにまた,地震や圧力観測など多項目センサーを搭載する総合観測機器の開発研究を実施する.
海底精密測位観測の精度向上における主要な課題は,海洋の音速構造の時空間的変化の影響をいかにして低減させるか,という点にある.そこで海中音速場の変動の影響を除去する手法に関する開発研究を実施する.また,精度向上のために海底圧力計,傾斜計測装置の試験観測を行う.具体的手法としては,GPS測位と音響測距の観測を行いながら,船の舷側で定期的にXBTやXCTDを用いた海洋物理観測を行い,さらに新規導入の倒立音響測深機(IES)による音速場の連続観測も行い,後処理により音速構造変動の影響を除去する解析を行う.3台の海底局を用いた海底測位測により音速構造の水平成層構造からのずれが推定できるので,IESによりモニターされる音速場の時間変化の情報と合わせて解析を行うことにより高度化が可能である.また,ブイの動揺観測に用いていた従来の光学的ジャイロは観測作業の点で問題が多いので,4つのアンテナを用いたGPSジャイロの利用も検討している.
現在まで使用してきた海底圧力計は,水深換算で1ヶ月に1 cm程度のドリフトがあり,これを低減することが圧力観測による海底上下変動検知実現に向けた技術的課題となっている.また1年程度観測すると,腐食等によりセンサーに異常をきたす事例もあったので,その原因の究明と対策も必要である.海底圧力計のセンサーに用いる周波数標準の精度を向上させることにより,計測の精度と長期安定性の向上を目指す.堆積層に傾斜観測用のプラットフォームを突き刺す方式および傾斜センサーを露岩に設置する方式で海底における傾斜観測を計画している.
駿河湾内の1カ所に海底局を設置し,駿河湾内の海底局網を完成させる(既設3カ所も含む).駿河湾内でのくり返し観測を開始し,キネマティックGPS,海中音速構造の推定,音響測距などシステム全体の問題点の洗い出しを行う.さらに,繰り返し観測時の精度(系統誤差)評価を行う.
(2) ボアホールによる地下深部計測技術開発と高度化
高深度ボアホールにおける高温環境下でも使用可能な光干渉計測技術をベースとした新たな地震・地殻変動センサーの開発を進め,地下深部計測技術の高度化をはかる.既存ボアホール観測装置のセンサーの多くは磁気嵐等の影響を受ける磁気センサーが主体である.そこで磁気嵐等の影響を受けないセンサー等によるボアホール観測装置の高度化に関する研究を実施する.水圧破砕法の不確実性の原因となっている水を使わない乾式破砕法による絶対地殻応力測定法の高度化および修正水圧破砕法の高度化に関する研究を実施する.技術的観点からの目標は2000mまでを対象に高い信頼性で計測可能な測定法の確立である.当面の目標を2000mまでとした根拠は加圧配管系の設計耐圧の制約のみであり,配管系の変更によりさらに深い領域まで適用可能となるが,3000m以深ではボアホール壁面の破壊確率が高まるので,壁面破壊に対する検討が十分行われなければならない.
ボアホール型地殻歪連続観測と間欠応力測定法の開発おける目標は,FRPロッドを用いた充電式のボアホール型歪計,および小口径のインテリジェント型歪計の開発である.充電式のボアホール型歪計が実現すれば,同じボーリング孔において孔底で歪の連続観測を行いつつ,ボーリング孔の上方で間隙水圧を測定したり,地下水温を測定する等,他の項目の観測を実施することが可能となり,ボーリング孔の有効活用が可能となる.これまで開発した応力解放法プローブはオーバーコアリング径と比較して口径が大きすぎるとの指摘がなされた.本課題では,小口径のインテリジェント型歪計を開発し,指摘された問題点の解決を目指す.
平成16年度においては,光ファイバーリンク地震計開発・高度化研究,高温環境下で動作可能なセンサー等の開発に必要な実験環境整備,乾式破砕法の信頼性評価研究を実施する.深度1500mまで確実に計測可能なプローブの作成には別途予算が必要であるが,認められない場合でも既存のプロトタイプにより原理的な評価研究を実施する.また,修正水圧破砕法を含めた,水圧破砕法の問題点に関する議論の決着をはかる.
インテリジェント型歪計関連では,小口径のインテリジェント型歪計を開発し,センシング部の調整や,記録部の性能,観測に欠かせないスケジューラーの特性チェックを行う.同時に,名古屋大学や共同研究を行っている機関でボーリング孔掘削する機会があれば,開発したインテリジェント型歪計による応力測定の実施を試みる.また,充電式のボアホール型歪計には,まだ使用されたことがないFRPロッドの特性や強度等の基礎データ収集を行うと共に,充電方法の技術的な面での検討を行う.
(3) 地下構造と状態変化をモニターするための技術開発と高度化
プレート境界面での固着の度合いにより地震波の反射強度が異なる可能性があることが観測や実験により示唆されている.そこで,アクロス震源装置と地震計アレイを用いたプレートからの地震波の反射係数の時間変動検出法の実証を重要な到達目標の一つとする.具体的には,固着の時間変化によって反射強度が変化する可能性が高い東海地震の震源域に震源装置を設置し,その検出を試みる.設置候補地は2001年東海中部地殻構造探査実験の発破点が置かれた静岡県西部である.理由は,構造探査等によりプレート境界面からの反射波であると思われる非常に強い反射波が検出されていること,また,この地域は2000年からスロースリップが発生している地域であり,固着が変化しやすい場所と考えられるからである.次世代アクロス送信技術として,数Hz帯の送信を目指した装置の改良,あるいはリニアモーション型の装置の開発を視野に入れた研究を開始する.
地表付近は長期間の連続振動による地盤の経時変動の影響が問題となる.そこで,次世代アクロス送信技術として,パルス透過法で用いられてきた圧電素子や連続正弦波で用いられてきた偏心モータに限定することなく,ボアホールや地下空間等,深部に震源装置を設置するための技術開発もまた,重要な到達目標の一つであり,深部設置技術開発および評価法の高度化を目標とする.パルス式精密制御震源に関しては,長期間で認められる僅かな量の信頼性評価試験を実施する.連続正弦波を用いる場合,地震計の位相特性が重要となる.そこで高感度で平坦な位相特性をもつ地震計の開発も必要である.
マントルヘリウムの観測は,直接,地震予知に結びつくか否か不明であるが,地球深部の状態とその変化に関する基礎的情報がえられる可能性をもっている.
平成16年度実施計画は,アクロス震源装置と地震計アレイを用いたプレートからの地震波の反射係数の時間変動検出法の実証実験を行うための要素課題,すなわちアクロス震源によるプレートからの反射波の検出の基礎資料をえるために,東濃のアクロス震源装置の信号がプレートで反射したと推定される強い波群が検出されている愛知県東部および静岡県西部のHi-net観測点を補完するとともに,反射波を効率よく同定することが可能な測線を設けて観測点を展開し,アクロス震源によるプレートからの反射波が検出できることを確認する.さらに設置候補地調査および設置環境整備(基礎工事など)を実施する.設置候補地は愛知県東部または静岡県西部である.
深部の地震波伝播の時間変化を高精度で検出するためには、震源関数を正確に知るだけでなく,その時間変動も知る必要がある.そこで震源だけでなく震源周辺の岩盤も含めて送信装置と考え震源関数を推定する手法を高度化する.さらにまた,瑞浪の地殻変動観測豪に地震計アレイを設置し,深部からの反射波の検出精度の向上を目指した研究を行 っており,この研究を継続するとともに,併設されている歪計・伸縮計・傾斜計・地下水位計などの記録との比較観測を行い,比較的浅部に原因があると推定している地震波伝播特性の変化の原因を具体的に特定するとともに,深部の変動に対するバイアスを除去するための研究を実施する.
正弦波アクロスの高度化のために必要な高感度かつ位相が平坦な地震計の開発に着手するとともに,深部ボアホールにも設置可能な偏心モータに代わりうる振動素子の開発研究に着手する.山梨県東部の地下空間実験サイトに設置された震源装置は運転中も発生力を変化させることができる.この震源を用いて,周波数変調を用いた運転を行い,周波数帯域幅を持った信号を効率よく発生させる.周波数系列の信号から直達PおよびSの走時を正確に決定する方法を開発する.従来逆フーリエ、存否イベント解析などが用いられているが,それらの手法の得失を検討するとともに,走時決定のためのより適切なモデルの研究を行う.
パルス式精密制御震源に関しては,岩手県の地下空間で,圧電素子系のP波およびS波発振子の多点展開により,長期間で認められる僅かな量の信頼性評価試験を実施する.また,IPGPと共同で,フランスアルプスの地下観測壕に高精度弾性波システムを導入し,IPGPが計測している既存の測定量と比較することにより,変化をもたらす物理モデルの特定に関する研究を実施する.
地球上でマントルヘリウムが出ている場所として火山地帯,構造線沿いや活断層等が想定される.そこで日本列島の中でそのような場所を探して基礎的なデータをとる.
(4) 宇宙技術の利用と高度化
陸域における地殻変動を高精度・高分解能で決定するため,干渉SAR解析において,波長1〜100km 程度の水蒸気遅延ノイズを除去する手法の確立をはかる.今年次計画期内に日本のSAR衛星ALOSが打上がる予定である.L-bandのALOSでは山間部でのコヒーレンスも高まることから,都市部に限らず領域を拡大することが可能となろう.当面は,コヒーレンスが高く,解析が山間部よりは容易な都市部での手法の確立を目指す.次世代衛星テレメータシステムの開発を進めて,地球局の消費電力の低減と周波数帯域の効率的な利用法の確立など,テレメータ方式による機動的観測を高度化するとともに,地震波形データの流通強化をはかる.機動的観測の強化についてはVSATシステムの試験導入を行い,データ流通についてはDVB規格準拠の衛星データ配信実験を行う.
キネマティックGPSに関しては,1日より短い時定数を持つ変動を面的に高密度に観測する手法を開発することを目標とする.特に,気象補正など観測手法および解析手法の高度化を計る.
平成16年度計画においては,数値気象モデルやGPS気象学の手法でえられる遅延データや,衛星観測による高密度水蒸気データなどに基づいて,干渉SARにおける水蒸気遅延ノイズの簡便な補正手法を開発の開発に着手する.これらの補正手法を我が国の陸域でのSARデータに適用し,手法の有効性を系統的に検証する.低消費電力かつ周波数帯域利用効率の高いVSAT化地震テレメータシステム開発に着手する.世界標準基準に準拠し,低価格の受信装置で利用可能な衛星データ配信システム開発に着手する.
キネマティックGPSの高度化研究においては,京都大学宇治キャンパスで可動式アンテナ台をもちいてゆっくりした擬似的地殻変動を生成し,これを高サンプリングGPSにより検出する実験観測を行う.測位精度の距離依存性を見るために,基線長の異なる測線を複数設けるとともに,季節による気象の影響の検出およびその除去手法の検討のため,3ヶ月ごとに数日間の実験観測を実施する.
4.おわりに
観測・実験技術開発部会の目的は,観測・実験のための新たな技術の開発および高度化であり,究極の目標は実用化である.到達目標として,可能な限り,具体的数値目標を定めるようつとめた.チャレンジングな目標もあるが,ここで提案された観測・実験技術の実用化により,地震予知研究が大きく進展すると考えている.