「地震発生の素過程」計画推進部会 平成16年度研究実施計画
平成16年7月20日
(1)研究目的:
(ア) 摩擦・破壊現象の物理・化学的素過程
第2次新地震予知研究計画の重要な問題のひとつはアスペリティの実体を解明することである.断層面の固着の強さは,そこでの摩擦・破壊特性を反映していると考えられるので,摩擦・破壊構成則が形状,物質,温度,圧力,地殻内流体などによりどのように決まるか明らかにするため,前計画から引き続き実験的研究を進める.室内実験で得られた結果を実際の地震に適用するためには,摩擦・破壊現象の時空間的スケーリングを明らかにすることが不可欠である.地震の最終的な大きさは,幾つかの独立したアスペリティがどのように連動するかという問題に帰着されるという考えも出されており,連動性の解明のため,複数のアスペリティ間の相互作用,および非地震性すべり領域とアスペリティ間の相互作用に関する実験的研究を進める.また,弾性波照射による断層面の状態変化の検出手法の開発を進める.
破壊核と地殻内流体との相互作用は地震発生予測にとって重要であり,これまでの研究により地殻内流体の移動が電磁気観測によって捉えられる可能性が示された.本計画では,地殻内流体移動を含む地震直前の地殻活動に伴う電磁気シグナルの発生および伝播メカニズムを定量的に明らかにすることを目指す.また,地下水に見られる地震直前の化学種濃度変化を実験的に検証するために,岩石の変形・破壊に伴う微小なクラック生成によるガス放出の機構を実験的に明らかにする.
(イ) 地殻・上部マントルの物質・物性と破壊・摩擦構成則パラメータ
数値シミュレーションで説得力のある結果を提出するためには,確かな根拠に基づいて破壊・摩擦構成則のパラメータの分布を与える必要がある.構成則パラメータの温度・圧力依存性が明らかになってきたのは前地震予知研究計画での大きな成果であるが,物質の違いなど未解明の要因が残っており,震源域のパラメータの値を推定できる段階には至っていない.最近,種々の構造探査により,Vp, Vs,比抵抗,Qなどが同一断面上にマッピングされるようになってきた.第2次新地震予知研究計画中には,更に高い精度で求められることが期待される.それら観測可能なVp,Vs,比抵抗,Qなどから,どのような物質がどのような状態にあり,どのような破壊・摩擦特性をもっているのか推定できるようになることを目指した,実験的・理論的研究を推進する.そのためには,室内実験によりVp,Vs,比抵抗などと,破壊・摩擦特性を様々な条件下で同時測定する(技術的に困難な場合は同一の物質を用いて同一の条件で,複数のパラメータを測定する)ことが必要である.間隙の形状や連結性に依存する物性パラメータは,温度・圧力を与えても一意に定まるとは限らないので,信頼のおける結果を得るには同時測定が有効である.また,Vp,Vs,比抵抗,Qなどは地殻中の水の状態に強く依存するため,間隙水の実態に関する研究,浸透率構造に関する研究なども併せて推し進める.
プレート境界に蛇紋岩が存在する状況証拠が得られてきており,また,最近の実験的研究により,カンラン岩がわずかに蛇紋岩化するだけで強度が大きく低下すること,蛇紋岩の種類や岩石内部の水の状態によって摩擦特性が大きく異なること,などがわかってきた.したがって,まず主な3種類の蛇紋岩について,高温高圧下で様々な間隙水の条件下で物性パラメータを調べることが重要である.このような研究を通じ,プレート境界で棲み分けていると予想されるアスペリティや非地震性すべり領域の実体についての理解が深まるだろう.また,すべりモードの遷移が、部分的塑性流動や板状鉱物の存在によって起こっているのなら,そのような条件で発達しやすいマイロナイト的な組織の各種物性への影響を知る必要がある.
大地震の前駆的現象の発現様式は断層面上の摩擦特性分布や断層近傍の応力不均一に強く依存すると考えられるが,実際の地殻活動データに基づいてこれらの分布を推定するにはまだまだ知識が不足しているので,フィールドデータから断層面の性質・状況を推定するための基礎的な知見をうるために,室内実験を行う.さらに,フィールドデータと室内実験を総合して摩擦構成則の改良をはかる.
さらに,素過程の解明には実験・理論研究に加えて,フィールド研究を組み入れることも重要である.フィールド調査の利点は,隆起・削剥を経て現在地表に露出する,震源域物質の変形にじかに触れることができる点である.これまでに多くの断層帯(あるいは付加帯)について,変形の機構,変形時の歪,応力状態などに関する重要な情報が抽 出されている.室内実験と天然の変形を比較・検討し実際の震源域における素過程を明らかにしていく.
(2) 研究実施計画
(ア) 摩擦・破壊現象の物理・化学的素過程
(a)変形・破壊構成則の環境要因依存性の解明
摩擦・破壊構成則の特性に関して,断層帯を構成する物質による違い,断層帯の形状,地殻内流体,及び歪み速度が摩擦・破壊構成則に及ぼす影響を調べ,地震発生域における構成則の全貌を解明する.今年度は実験装置を改造し,速度ステップ実験ができるようにすることを目指す.
(b)摩擦・破壊現象の時空間的スケーリングの解明
破壊時の強度低下に要する変形量(臨界滑り距離)がゼロでない有限の値を持つことは,準静的な破壊準備過程の存在の根拠である.そのような過程の規模は,臨界滑り距離の値で支配され,自然地震の破壊がどのような値を持つかは地震予知のために何をどの程度観測すべきかにとって重要である.しかし,実験でも,自然地震でも臨界滑り距離の研究は現象論的記述にとどまっており,両者の間をつなぐメカニズムは明らかでない.まず,実験室でみられる臨界滑り距離がどのような具体的物理メカニズムから生起しているのか,すなわち滑り弱化のプロセスの物理的理解のために滑り弱化時の摩擦ノイズや超音波の透過特性を用いて探る.年度は、大変位の可能な2軸滑り試験機で滑り実験中の超音波測定ができるようなシステムを構築する。
また、実験室と自然地震の中間的なスケールを持つ鉱山地震での摩擦物理を解明するために、もっとも基本的な量である摩擦強度を観測する。これは、地震の摩擦滑りによる発熱量を測定することで行い、今年度は、断層ごく近傍に高精度温度センサーを多数埋設して地震前からの連続データを取得する。
時間的スケ—リングに関しては、(a)で実施する構成則の歪み速度依存性や強度回復過程に関する成果にも基づき,熱活性化過程モデルを構築する.
(c)複数のアスペリティ間,非地震性すべり領域とアスペリティ間の相互作用の解明
既往大地震の破壊過程の研究により,アスペリティは場所に固有であること,アスペリティと非地震性すべり領域とが棲み分けているらしいことがわかってきた.本計画では室内実験と数値実験によりアスペリティ間の相互作用,連動性,アスペリティと非地震性すべり領域との相互作用,余効すべりなどについて明らかにする.
(d)弾性波照射による断層面の状態変化の検出手法開発
これまでの研究によって,地震に先立って震源核が形成され,非常にゆっくりとした準静的なすべりが進行することが明らかとなっている.これを,断層を透過する波動によって能動的に検出する目的を持って,室内実験において,この可能性をさぐり,微視的なメカニズムを明らかにする.とくにガウジを挟んだ断層において,断層内物質の変形過程を明らかにする.今年度は,水を含んだ粒径の異なるさまざまな種類のガウジを対象にして,P波,S波およびguided wavesについての実験を行う.
(e)室内実験と数値実験による地殻変動に伴う電磁気現象の素過程の解明
地殻活動に伴う電磁気現象を担うソースとして最も妥当と考えられピエゾ磁気,界面動電現象に着目して,応力や間隙水の流動に対応していかなる電磁気ソースが現れるかの関係を実験的に明らかにする.間隙水を含む岩石に対して,応力の変化に対応する間隙水の挙動が必ずしも明らかとはなっていないのでそのモデリング手法の開発を行う.また,電磁気ソースからの電磁場の地殻内の伝播を数値的に評価する手法の開発を目指す.
(f) 岩石破壊に伴う発光現象の素過程解明
大地震の前後に空が明るく光るなど、地震に伴う発光現象の観察例の報告は多い.これらは岩石破壊に伴う電磁気的現象の一端であると考えられているが,発光自体の実験的検証は十分になされているとはいえない.本計画では岩石破壊の光学的撮像と、電磁気的計測、鉱物学的分析を併用し、破壊時発光における電磁気的な過程について検討を進めている.これまでに可視領域での撮像による発光の時空間分布の推定を行っているが、今年度は,これに加えて紫外線域における撮像を行い、広い波長帯で発光の詳細を明らかにすることをめざす.
(g) 岩石破壊に伴うクラック発生とガス放出の解明
破壊に伴うガス放出の実験はこれまでも行なわれているが、定性的な域を出ず、岩石破壊のどの段階でどの様なガスがどのくらい出るといった具体性に欠けていた.初年度は,制御された加圧装置を用いて亀裂の成長を可視化する装置の作成する.
(イ) 地殻・上部マントルの物質・物性と破壊・摩擦構成則パラメータ
高温高圧下で流体相を含む岩石のVp, Vs, 電気伝導度を測定しそれらの物性と破壊特性との関係を調べる研究(a-c),高温高圧下における岩石ー水相互作用の研究(超臨界水の作用,熱水に誘起される破壊などを含む)(d-g),摩擦溶融に関する研究(h)を推進する.また,震源域物質に関するフィールド研究やフィールドで得られた知見と室内実験とを結びつける研究(i, j),微小地震データから断層の力学特性を推定することを目指したAEに関する研究(k, l)も併せて進めていく.
(a) 蛇紋岩のデータベースの構築
沈み込み帯プレート境界に存在する蛇紋岩は,体積的には非常にマイナーであるが,地震発生やプレート間カップリング,水の循環において大きな役割を果たしていると予想されている.とくに,大地震の発生する固着域の下方に存在することから,非地震時のスロースリップや余効すべりとの関連が注目されている.地震発生における蛇紋岩の役割を理解するためには,地球物理学的観測から蛇紋岩のマッピングを行って,その組成,温度,変形状態を求め,実験室データと合わせてレオロジカルな性質を推定していく必要がある.本研究では,このマッピングを行うための蛇紋岩のデータベースを構築する.すなわち,(1)鉱物組成,変形状態,圧力,温度をパラメータとして超音波測定を行い,Vp,VsおよびQを求める.また,速度や減衰の異方性と変形組織との関係を明らかにする.(2)鉱物組成,変形状態,温度をパラメータとして電気インピーダンス測定を行い,電気伝導度を求める.また,超音波物性の地震学的データへの適用性は不明なので,(3)実際の地震の周波数領域(とくに0.1-10Hz)での弾性・非弾性測定法を開発し,地震波帯域での物性測定を行う.今年度は,(1),(2)を重点的に実施する.(3)については装置開発を進める.
(b) 観測可能な弾性波速度,比抵抗などと構成則パラメータとの関係
これまで,室内実験により間隙水存在下における高温高圧での破壊構成則を明らかにしてきた.現在Vp, Vs,比抵抗を測定できるように装置を改造中である.次期計画では,室内実験によりVp,Vs,比抵抗などと,破壊・摩擦特性を様々な条件下で同時測定する(技術的に困難な場合は同一の物質を用いて同一の条件で,複数のパラメータを測定する)し,観測可能なVp, Vs, 比抵抗などから構成則パラメータの値を推定できるようになることを目指す.間隙の形状や連結性に依存する物性パラメータは,温度・圧力を与えても一意に定まるとは限らないので,信頼のおける結果を得るには同時測定が有効である.今年度は複数パラメータが測定できるように装置を改造する.
(c) 高温高圧下における岩石-水系の弾性波速度および減衰係数
ピストンシリンダー型超高圧発生装置を用い,花崗岩-水系,ハンレイ岩-水系,及び様々な含水量の蛇紋岩などについて,Vp, Vs, 減衰係数の測定を行い,流体の分布形態および上部地殻から上部マントルまでの流体量を評価する.震源分布,地震活動,地殻活動等とここで推定した流体分布との対応関係を検討し,沈み込み帯における流体の発生と挙動を定量的に議論し,流体の挙動と地震発生の相互関係を明らかにする.今年度は地殻構成岩石について測定を試みる.
(d) 地震発生場における流動・破壊・摩擦過程と水の相互作用
地震発生領域における「水」の存在については, 低周波地震や電磁気学的観測事実からさまざまに推測されているが,その実体についての物質科学的な理解は遅れている.そこで高温高圧変形実験に基づき、以下の2つの観点から研究を推進する:
(I) 下部地殻における地殻変形と岩石-水の有効物性 (地震発生場の形成過程)
(II) 破壊・摩擦挙動に対する水の影響 (地震発生過程)
ここではスラブの脱水反応でもたらされた流体が結晶粒間を通って下部地殻を移動し, 地震発生帯に貯留されるまでのミクロな物理過程 (I) および、スラブ内部や地殻内部における脆性-延性転移におよぼす水の物理化学的影響 (II) を対象とする。
本年度は、固体圧式高温高圧変形試験機における差応力および封圧の精度を向上させるため、制御計測系の改修と試料アセンブリの改良を行なう。
(e)
地殻流体の状態方程式
地震を含む地殻変形に及ぼす水-岩石相互作用の重要性は、近年とくに注目されている。この問題を解くための最重要な基礎情報は地殻流体(H2O+NaCl+CO2+・・・)の状態方程式だが、地震にとって重要な350℃から450℃の領域はほとんど空白のままである。平成16年度は、既に試作した実験装置(ガス圧式変形試験機に付属して用いる)に改良を加えつつ、H2O+NaCl+CO2+・・・系の状態方程式を明らかにする。
(f) 高温高圧下における岩石-水破壊反応過程
300 ℃, 50 MPa までの破壊反応容器を用い,花崗岩-水系,ハンレイ岩-水系,及び様々な含水量の蛇紋岩などについて,破壊時に励起される化学反応過程およびそのエネルギー収支を見積もる.地震発生領域に豊富な流体が存在する場合,破壊に伴って生成された新たな表面のエネルギーによって化学反応に必要な活性化エネルギーが供給されるため,地震直後において非平衡化学反応 (フリーラジカル反応)が発現する.これらの反応によって生成された,通常低い強度を示す物質 (アモルファスを含む) が次の地震発生の鍵を握っている可能性が高く,また地震のエネルギー収支を見積もる場合にも反応によるエネルギー収支を考慮に入れる必要があり,無視できない重要な震源素過程である.(i) と同一の研究室が担当しており,予算が限られていることから,今年度は,温度 50 ℃,常圧の実験のみ行う.
(g) 熱水誘起破壊現象の解明
熱水と岩石との相互作用の結果,通常では考えられない低い温度・圧力環境で岩石の劇的な破壊が生じる.たとえば300℃で1MPa程度の環境で水と共存する石英は破壊(き裂が生じる)する.しかしより高圧環境では逆に破壊現象を観察できない.400℃では10MPaで破壊するが,20MPaでは破壊しない.一方全くのドライな環境では,石英はa-b転移点まで破壊しない.つまり熱水が誘起する破壊現象HDF(Hydrothermally Derived Fracturing)は,一般的な力学的強度から規定される破壊プロセスではなくて,一種の応力腐食割れ的な破壊現象である.言い換えれば蒸気相および蒸気的振る舞いをする流体との相互作用で岩石・鉱物が割れていると考えられる.地震発生帯で,流体のボイリング現象などが生じたら,蒸気及び蒸気的振る舞いをする流体が生じ,HDFが起こる可能性がある.熱水に誘起されるこのHDF破壊現象を実験的に詳細に検討し,石英および花崗岩のHDFが生じる条件やメカニズムを明らかにする.さらに,HDFが天然で生じるか検証を進める.天然では明らかにductile環境の温度・圧力でありながら,brittleな破壊をしている例がある.これらは流体が関与するHDFの可能性が指摘できる.HDFの天然での可能性を主としてフィールド地質学的手法から検証・解明する.
また,地殻中の流体は,溶解物などを考慮すると超臨界状態にある可能性が指摘されており,そのような条件での流体と破壊の相互作用を明らかにする.このような,今まであまり注目されてこなかった破壊のメカニズムを明らかにすることにより,地震発生の素過程に関する新たな知見を得ることを目指す.
(h) 摩擦溶融がすべり過程に及ぼす影響
実験的な摩擦溶融の初期にすべりが抑制・停止する現象が明らかになりつつある。自然の地震断層にシュードタキライトが伴われることが少なくないことを考慮すると、このことは重要である。これまで、0.5μsの時間分解能ですべり速度、すべり面に沿う電極電位、試料内の電流の変化による誘導電位などを計測し、溶融時刻、摩擦起電力、電流ベクトル、溶融層の電気抵抗などの計測に成功している。平成16年度は、ガス圧式に改良した三軸変形試験機と5MHz・8Chに増強した計測システムを用い、数種の主要岩石種について、摩擦溶融のすべり挙動に及ぼす影響とその物理を明らかにする。
(i) 組織形成過程の直視観察と動的物理過程のリンク
現在地表に露出する断層帯で,注意深く震源域の構造を保存しているものを選んで調査を行った場合,断層帯の組織とその幾何学的形態およびその分布が得られる.これらのデータから物理過程を逆解きして行く場合,物理過程と同時に組織形成過程を直視する必要がある.現在,500℃, 5 MPa までの温度圧力範囲を制御でき顕微鏡下に設置可能な,顕微三軸試験機を開発している.耐熱ガラス,または蛍石 window をとおして,X線および赤外線を透過させる機能を備えつつあり,組織形成過程を in-situ で観察可能な仕様を目指して製作が進んでいる.この装置によって得られる結果から,野外と実験室は比較的スムースに連携をとれるようになると考えられ,素過程を考察する上で重要な役割を持つだろう.今年度は,日高変成帯における震源域の断層形態の調査を行う.
(j) 断層物質の摩擦特性・透水特性
断層物質について,高速熱水摩擦試験機やガス圧式高温高圧変形・透水試験機を使った摩擦実験や,変形・透水実験を行なうことで,高速,高温,高圧下,あるいは熱水条件下における断層の摩擦特性,透水性などの性質を明らかにすることを目的とした研究を行なう.その際,変形組織観察などの断層調査を同時に行なって,実験で形成された変形組織と天然の組織を比較することで,例えば天然の断層で観察される変形組織に力学的意味付けを与える.
根尾谷断層,柳ヶ瀬断層などを対象とした研究によって,断層帯の浸透率構造はその内部構造を反映して多様であることを明らかにしてきた.現在,天然の断層について実験で得た浸透率の値を用いて,断層運動時の摩擦発熱による間隙圧上昇と断層強度低下のプロセスを解析することを試みている.摩擦実験では,回転式高速摩擦試験機を用いた実験によって,大地震時に断層が高速で大きく変位する際の断層内プロセス(摩擦溶融など)と,断層の力学的性質の全体像を明らかにしてきた.得られた結果のうち特に重要なのは,高速域では断層の変位そのものが断層の性質を大きく変えてしまうという点である.
(k) AEを利用した破壊核成長過程の推定
破壊核では大地震発生前に降伏を開始するため,破壊核を同定し,破壊核成長にともなう降伏域(応力低下域)を推定することを目指す.破壊核の性状を明らかにするためには,破壊核から発信される信号を解析することが必要であり,本研究では,破壊核で発生するAEに着目する.AE波形をその活動度などとともに解析検討し,破壊核成長過程の推定を試みる.従来AE波形は,検出するセンサーが非常に狭帯域であるという問題からほとんど解析に用いられることはなかった.まず,この問題を解決するために,今年度は,検出に用いるセンサーである圧電素子の感度較正をおこなう.
(l) 地殻活動データに基づく断層の力学的特性・状態の推定
プレート境界を含めた断層面間には破砕物や堆積物などの介在物や間隙水などの流体が存在していると考えられる.これまでの実験では,装置の制約により,連続したすべりによって大変位を実現することができなかったため,これらの影響は考慮されていない.実験結果に基づいて地殻活動を解釈することを目標とする本研究においては,実験で観察されたAE活動のすべり量・すべり速度依存性やそれらと摩擦特性の関係がどこまでの普遍性を有するのかを検証することは極めて重要である.今後,断層面間にガウジなどの介在物が存在する場合など,多様な条件下で実験を行うための準備として,今年度は,既存の一軸圧縮試験機に小型の低速ねじりせん断機構を追加し,連続したすべりによって150mm程度の大変位を実現できるよう試験機の改良をおこなう.