地震予知研究の現状と展望

 

1. はじめに

地震予知のための新たな5カ年計画の前半で,大学において得られた主な成果を以下に紹介する.これまでに,プレート境界における非地震性すべりの時空間変化の解明に関して,大きな進展があった.強震・微小地震・地殻変動連続観測・GPSなど,色々な観測項目により得られた質の高いデータを用いて,注意深い解析により推定された非地震性すべりの時空間変化のパターンが,それぞれの解析結果の間で基本的には整合性があることが分かった.その結果から,三陸沖における大地震発生の基本的なプロセスを理解することができた.これについては,重要な成果に絞って詳しく解説し,残された問題点と今後の展望を議論する.

一方,内陸地震に関しては,その発生過程の解明や発生予測ための基礎となる成果が数多く得られた.こちらに関しても,色々な手法を同一のフィールドに適用することにより,これまで以上に理解が進みつつある.内陸地震については,重要と考えられる成果を相互に関係づけながら解説した.

 

2.         プレート境界における非地震性すべりの時空間変化

2.1.  プレート境界におけるカップリングの推定

2.1.1.              アスペリティーマッピング ーアスペリティー破壊の再現性―

近年,大地震のすべり量は,断層面上で一様ではなく,大きなところや小さなところがある不均質な分布を示すことが明らかになってきた.地震時にすべり量の大きなところは,地震前に断層面の固着が強いところであると推定されており,アスペリティーと呼ばれている(Lay et al., 1982).アスペリティーの定量的な定義としては,例えば,最大すべり量の半分以上のすべりが発生した部分とするというものがある(永井・他, 2001)

三陸沖に発生した大地震に関して,不均質なすべり量分布のパターンには基本的に再現性があること,つまり,同じアスペリティーが繰り返し破壊している可能性が高いことがわかってきた.気象庁の1倍強震記録およびWWSSNの遠地記録を活用することにより, 1994年三陸はるか沖地震のアスペリティーは,1968年十勝沖地震のアスペリティーの一つが破壊したものであることが示された(図1) (永井・他, 2001)

1994年三陸はるか沖地震について推定されたアスペリティーの位置は,Tanioka et al. (1996)Nakayama and Takeo(1997)と調和的である.1968年十勝沖地震についてのすべり量分布については様々な研究結果がある (たとえば Kikuchi and Fukao1985Mori and Shimazaki, 1985Satake, 1989) が,それぞれ分布が微妙に異なっている.これは,当時の観測データ量の少なさに起因するものであると考えられる.永井らの結果は,1968年と1994年の地震の両方を同じ手法で解析したものであり,少なくとも両者のすべり量分布の相対的位置関係については,今のところ最も信用できる結果であると考えられる.一方,1994年の分布については,上述のとおり他の研究とそれほど違いがない.したがって,永井らの結果は絶対位置についてもかなり信頼できると考えられる.

この結論は余震分布によっても裏付けられている.近年,大地震のすべり量が大きなところでは,余震は少ない傾向があることがわかってきた.余震分布が,本震のすべり量分布を反映しているということであり,余震分布から本震に関する情報を得ることができると考えられる.1994年三陸はるか沖地震の余震は,1968年十勝沖地震の余震分布の一部分に重なって発生しており(永井・他, 2001),2つの地震の本震のすべり量分布が似ていることを強く示唆している.

三陸沖では,さらに古い地震の波形記録を活用することにより,同じ地域で再来する地震について,特定の領域においてすべり量が毎回大きい (アスペリティーの位置に再現性がある) ことが明らかになりつつある(図2)(山中・菊地,2001)

これにより,我々は地震の破壊域をこれまでと異なった視点から解釈できるようになった.従来は図3に示されるように余震域から大地震の破壊域を推定していたが,これに基づいて推定された三陸沖の破壊域は,相互に重なっており,複雑な様相を呈している.1968年十勝沖地震の破壊域に着目してみると,図4に模式的に示されているように,従来の見方では,1968,1989,1994年の3つの地震の破壊域が複雑に重なっていた.しかし,アスペリティーのみに着目する新しい捉え方によると,1968年十勝沖地震の震源域は3つのアスペリティーからなり,1968年十勝沖地震では3つのアスペリティーが全て破壊したが,1989,1994年の地震では,それぞれ1つのアスペリティーが破壊したに過ぎないと推定されている(山中・菊地, 2001)

このことは,大地震は,地震を一つの単位として見るのではなく,それをさらに分解してアスペリティーを単位として見ることが,より本質的であることを示している.ただし,永井・他 (2000)によるアスペリティーの定義からも分かるように,アスペリティーだけが地震時にすべるのではなく,アスペリティーの周辺部分も地震時にすべっていることに注意すべきである.

有限サイズの永続的なアスペリティーというものが存在し,大地震はこのアスペリティーによって規定されるということを,これらの結果は実際のデータから検証したことになる.これはまた,特徴的なサイズが存在しないことを前提とする単純なSOCモデルではプレート境界における大地震の発生を説明できないことを意味しており,大地震の発生位置・規模・時期に予測可能性が存在することを強く示唆している.したがって,今回の結果は地震予知研究の展望を切り開く上で画期的であったと言えよう.

 

2.1.2.  超スロー地震の検知

それでは,三陸沖の地震発生域について,アスペリティー以外の領域はどのようなすべりを起こしているのだろうか? 

近年,地殻変動連続観測やGPSデータの注意深い解析により,三陸沖において,1989年と1992年に起こったMw7クラスの地震に続いて,時定数が1日から10日程度のゆっくりしたすべりが発生したことが推定されている(Kawasaki et al., 2001).ゆっくりしたイベントのMwを計算すると7.5程度となり,地震波から求められたものよりずっと大きい.これらは通常の地震に引き続いて発生すること,また通常のスロー地震よりも遙かに長い時定数を持つことから,Kawasaki et al. (2001)は,スロー地震やサイレント地震と区別するために超スロー地震と読んでいる.

1994年三陸はるか沖地震の後にも,ゆっくりしたすべりが検知されており,その地震モーメントは本震に匹敵する(Heki et al.,1997;Nishimura et al., 2000).よって,Kawasaki et al. (2001)の分類によると,1994年三陸はるか沖地震も超スロー地震ということになる.1989年と1992年の超スロー地震は,1994年三陸はるか沖地震の震源域の南側,海溝よりで発生したと推定されている(Kawasaki et al., 2001)

超スロー地震については,以前はその存在すら知られていなかったが,プレート境界における非地震性すべりの時空間変化を明らかにする上において,その寄与を考慮に入れる必要がある.

 

2.1.3. GPSによる非地震性すべりの推定

 三陸沖のプレート境界においては,アスペリティーでもないし,超スロー地震の発生も知られていない領域が存在する.この領域は,どのようなカップリングの状態にあるのだろうか? また,アスペリティーや超スロー地震の領域とその周辺におけるカップリングの時空間変化はどうなっているのだろうか?

プレート境界におけるカップリング状態の推定は,これまで主に,陸上のGPSデータを用いて行われてきた(例えば,鷺谷, 1998).国土地理院によるGPSデータ(GEONET, Sagiya et al, 2000)等から,日本海東縁の衝突および過去に発生した大地震の余効変動の効果などを補正して,図5に示されているように,199641日から1999331日までの三陸沖におけるバックスリップ分布が推定されている(西村, 2000).西村( 2000)の得た結論を以下に要約する.

(1)    1994年三陸はるか沖地震の震源域では,1996年以降カップリングが急速に強まり,1999年には完全に固着している状態となった.

(2)    1994年三陸はるか沖地震の深部延長,深さ50-80kmにおいて,フォワードスリップ(プレートの相対運動速度を超えるslip rateを示すもの)が,少なくとも本震発生の1.25年後から現在まで続いている.

(3)    宮城県沖から内陸にかけて,大きなバックスリップ域の深部に,深さ80km程度まで小さなバックスリップが推定された.

(4)    1952年十勝沖地震の震源域では,大変大きなバックスリップが推定されている.一方,その深部延長では,1994年三陸はるか沖地震の深部延長と同様なすべりが推定されている.

得られた結果の信頼性については後ほど議論するとして,西村(2000)に従ってこれらの結果の重要な点を述べる.第1は,プレート境界の断層の強度回復過程を明らかにした点である.第2は,深部延長でのアフタースリップを捉えた点である.もし,深部延長が,前回の大地震の後,プレートの相対運動速度ですべり続けていたならば,アフタースリップを起こすだけの歪はそこには蓄積されていないはずである.深部延長でアフタースリップが起こったということは,そこでも,地震サイクルのいずれかの時点で断層がある程度カップリングしたということを示している.つまり,深部延長における非地震性すべりのslip rateは,地震サイクルにおいて時間変化するわけであり,いずれかの時点で,プレートの相対運動速度を下回ることが期待される.slip rateの時間変化のパターンによっては,地震の長期的な発生予測に大変役に立つ可能性がある.例えば,アフタースリップが次第に収まり,地震サイクルの後半になって初めてプレートの相対運動速度を下回るというパターンがあるのならば,下部延長のカップリングが強くなってくると,大地震の発生が近づいてきたと判断できることになる.ただし,この場合,下部延長のカップリングが強くなるので,下部延長のすべりによるアスペリティへの応力蓄積速度は減少する.

一方,1994年三陸はるか沖地震前の半年くらいの間,震源域に近い青森県階上の水平変位速度が小さいことが報告されている(西村, 2000).これは,地震発生前に,震源域で非地震性すべりが始まった,あるいは,深部延長で非地震性すべりが加速した可能性を示唆している.前の段落で述べたように下部延長において地震サイクルの後半になってカップリングが強くなるとすれば,大地震前に再び反転して,非地震性すべりが始まるわけである.このような特徴的なパターンがあるかどうかを明らかにすることは,地震予測において大変重要である.

 

2.1.4. 相似地震による非地震性すべりの推定

陸のGPSデータによるプレート境界のバックスリップ分布の推定は,観測網から離れた領域の推定を行うことや内陸の内部変形の影響を受けることなどから,その結果の信頼性については検討する必要がある.米国のサンアンドレアス断層において,相似地震を用いてプレート間の非地震性すべりの時空間変化を検出する手法が開発されている(Nedeau and Johnston, 1998)が,三陸沖における相似地震の研究により,三陸沖においても同手法が有効に適用できることが明らかになり,GPS とは独立にプレート間カップリングの時空間変化が解明できる道筋ができた(五十嵐・他,2000).さらに,場所によっては GPS よりも高分解能で時空間変化を検出できる可能性がでてきた.図5に,相似地震の震央分布とそれから推定されたslip rateを示す(五十嵐・他,2000)

相似地震は,非地震性すべり領域に囲まれた非常に小さなアスペリティーの繰り返し破壊によって発生していると考えられる.周囲の領域は非地震性すべりを起こしているのに対して,非常に小さなアスペリティーは,地震時以外は完全にカップリングしていると仮定する.この場合,非常に小さなアスペリティーには,周囲の領域における非地震性すべりによって応力が蓄積される.周囲の領域における非地震性のすべり量とアスペリティーの破壊との関係は,アスペリティーのサイズおよびアスペリティーの強度によって決まる.サイズの大きなアスペリティでは,それを破壊するために必要とされる非地震性すべりの量も大きくなる.アスペリティーの強度は,個々の相似地震のすべり量を決めることが難しいので,経験的に決めざるを得ない.

米国のサンアンドレアス断層においては,非地震性のslip rateを測地的な情報から推定し,相似地震の発生間隔を slip rate にかけ算して,そのアスペリティーの支えられる限界の非地震性すべり量を求めている(Nedeau and Johnston, 1998).多くの相似地震に対してこの関係を調べることにより,地震モーメントとアスペリティーの支えられる限界の非地震性すべり量との統計的な関係式が得られる.この限界非地震性すべり量と地震時のすべり量が等しいと仮定すると,この関係式を用いて個々の相似地震の地震モーメントから地震時のすべり量が得られる.これにより,測地的な情報がない場合でも,この関係式から計算された相似地震のすべり量を発生間隔で割り算することにより,そのアスペリティー周辺における非地震性のslip rateが逆に求まるというわけである.したがって,その統計的な関係が実際に成り立つかどうかについて注意することが必要である.

相似地震をモニターすることにより非地震性すべりの平均速度が求められる.相似地震はGPSによりプレート境界のカップリングが弱いと推定されているところで発生しており,カップリングの強い領域の周囲では非地震性すべりが発生していることが推定された(五十嵐・他,2000).ただし,1989年と1992年の超スロー地震の震源域においても,多数の相似地震が起こっている.さらに,相似地震解析から,三陸はるか沖地震前に,その震源域の深部延長において,非地震性すべりがプレート間相対速度より大きかった可能性が示唆されている(五十嵐・他,2000).これは,GPSデータによる推定と整合的であり,今後の重要な課題である.これらについては,後ほど詳しく検討する.

 

2.1.5        釜石沖における中規模地震の予測

 三陸沖において見つかった相似地震の中で最大のものが,岩手県の釜石沖のクラスターである.波形・発震機構解ともほぼ同じM4.8±0.1の地震が,平均間隔5.35年(標準偏差は0.53年)で発生している(五十嵐・他,1999).このような固有地震的な活動は,安定すべり域に囲まれた小さなアスペリティーの繰り返しすべりによると考えられる.1995311日の最後の地震発生から計算して,次の地震は200111月末までに99%の確率で発生し,その大きさはM4.8±0.1であると予測していたが,20011113日に予測通りM4.7(気象庁暫定マグニチュード)の地震が発生した(図6).これは,時期・場所・規模の3要素すべてに関して,予測が成功した例として高く評価できる.

 この例は,条件が整えば,地震はある程度の規則性を持って発生することを示している.今後は,どのような条件が必要とされるかについて調べることが重要であろう.

 

2.2.                   カップリングの推定手法における課題

2.1.で述べたように三陸沖においては,アスペリティーマッピング(山中・菊地,2001),超スロー地震の検知(Kawasaki et al., 2001)GPSデータの解析(西村, 2000),相似地震による非地震性すべりの推定(五十嵐・他,2000)等により,プレート境界におけるカップリングの実体と非地震性すべりの時空間変化が明らかにされつつある.これまで三陸沖におけるサイスミックカップリングは,全体として20-30%であると考えられてきた(例えば,Ruff and Kanamori, 1980).上記の研究は,超スロー地震を含めると地域によってはその値は50%を越え100%となるところもあること(Kawasaki et al., 2001),固着の強い領域(アスペリティ)には明瞭な地域性があること(山中・菊地,2001)など,これまでは漠然としか捉えられていなかったプレートの相対運動と地震発生過程の実体を明らかにし,地震の発生予測に道を開いたといえる.

本節では,2.1.で述べたカップリングの推定手法に関して今後解決すべき問題点について述べる.

 

2.2.1.  非地震性のslip rateの推定における課題

2.2.1.1.  内陸の内部変形の影響

陸のGPSデータからプレート境界のバックスリップ分布を推定することには,精度と分解能に限界がある.図5に示されているように,1952年の十勝沖地震の震源域においては,最大20cmというバックスリップが推定されているし,その深部では逆にフォワードスリップが推定されている(西村, 2000).この強いカップリング域の深部のフォワードスリップが真実であるならば,前述のとおり大地震の発生予測において大変重要である.

しかしながら,十勝沖で得られた上記の最大20cm/yというバックスリップの推定値はプレートの相対速度に比べて大きすぎるので,結果の妥当性について検討する必要がある.日高地方においては,内陸のプレートが非弾性的に内部変形している可能性があり(佐藤・他, 2001),バックスリップ分布の推定においては,これらの影響も考慮すべきであろう.西村(2000) の結果では,日本海東縁部で年間5cm程度の衝突が推定されているが,この値もプレート間相対運動速度よりかなり大きい.したがって東北地方においても北海道と同様に内陸のプレートの非弾性的な内部変形が生じている可能性がある.

残念ながら,内陸のプレートの歪速度について,その内部変形と沈み込むプレートによる寄与を区別することは難しい.長期間にわたる大局的なパターンを押さえるためには,海底地殻変動観測が必要である.カップリングの下端付近のバックスリップ量の推定のためには,上下変動データを解析に用いることが有効であろう.また,相似地震の解析は,全く独立なデータを提供できるため,大変有効であると考えられる.

 

2.2.1.2. 相似地震に関するスケーリング則

三陸沖における相似地震による非地震性すべりの推定においては,サンアンドレアス断層において得られた相似地震の発生間隔とプレートのslip rateのスケーリング則(Nedeau and Johnston, 1998)が用いられている(五十嵐・他,2000).サンアンドレアス断層においては,相似地震の発生する深さは数kmから15km程度の範囲にあるのに対して,三陸沖では,海溝近くの浅い地震から,深さ50kmを越える地震も対象としている.このような広い深さ範囲の地震についても同一のスケーリング則が成り立つかどうかについての検討が必要である.

 

2.2.2. 推定された結果の整合性

GPSにより推定されたカップリングの大きな領域(西村,2000)は,基本的には山中・菊地(2001)によるアスペリティーの分布と調和的である.つまり,1968年十勝沖地震および1978年宮城県沖地震のアスペリティーとその周辺において,カップリングが大きく求められている.ただし,1994年三陸はるか沖地震でコサイスミックに破壊しなかった,1968年十勝沖地震の最大のアスペリティーAは,カップリング域と非地震性すべり域の境界付近に位置している.

GPSによると,1978年宮城県沖地震の震源域の南でも,カップリングが大きいことが推定されており(西村, 2000),山中・菊地(2001)は,1936年の宮城県沖地震がこの領域で発生したと推定している.これは,1936年の地震が1978年宮城県沖地震と同じ場所で発生したという長期評価の結果(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2000)とは食い違うが,GPSにより推定されている広いカップリング領域とは調和的である.ちなみに,山中・菊地(2001)は,1937年のM7.1の地震が1978年宮城県沖地震と同じ場所で発生したと推定している.古い地震については地震波形データの質・量とも十分でないが,アスペリティーおよびカップリングの推定結果から見れば,次の宮城県沖地震は両方の領域を破壊する可能性もあり,今後の重要な検討課題である.この問題は,アスペリティーの連動性とも関係している.

1989年と1992年の超スロー地震のアスペリティーがマッピングされている,北緯39-40度,東経143-144度の領域では,GPSにより推定されたバックスリップは小さく(西村, 2000),相似地震が多数発生している(五十嵐・他,2000).この領域では,ここ数十年間のサイスミックカップリングは小さいと考えられており(Kawasaki et al., 2001),少なくとも,1968年十勝沖地震および1978年宮城県沖地震の震源域に比べて,カップリングは弱いものと推定される.しかし,この領域は陸から遠く,バックスリップの推定が難しいところである.

この領域は海溝近くとしては例外的に微小地震活動も相似地震活動も活発で,かつ M6以上の地震も発生していることから,カップリングが非常に弱くてプレートの相対運動と同じ速度で非地震性すべりを起こしている部分とは異なると考えられる.そもそも,相似地震は,非地震性すべり領域に囲まれた非常に小さなアスペリティーの繰り返し破壊によって発生しているわけであるから,相似地震が多数発生することは,その領域が若干なりともカップリングしているということを示している.つまり,相似地震は,カップリングが非常に強い領域では発生しないが,プレートの相対運動と同じ速度で非地震性すべりを起こしている,つまり完全にずるずるすべっている領域でも発生しないと考えられ,その意味でも,大きなアスペリティーの周囲で発生していることは肯けるものである.相似地震の小さなアスペリティーが多数存在する領域で超スロー地震がどのように発生するかは大変興味深い問題である.

 

2.3.                   プレート境界における非地震性すべりの時空間変化と大地震の発生予測

2.3.1. アスペリティーの連動性

以上述べてきたように,三陸沖においては,地震時に大きなすべりを起こすアスペリティーの場所はあらかじめ決まっている.プレート内で発生した1933年三陸沖地震や,海溝軸近くで発生した巨大津波地震と考えられている1896年明治三陸沖地震(Tanioka and Satake, 1996)を除けば,Mw7.5を越えるような大地震のアスペリティーは,1968年十勝沖地震および1978年宮城県沖地震の震源域に限られる.また,これらのアスペリティーは,現在,GPSから推定されるバックスリップの大きな領域にほぼ一致している.このことから,アスペリティー周辺における非地震性すべりにより,アスペリティーに応力集中が発生し,ついにはその破壊に至るという,大地震発生のシナリオが想定できることになる.三陸沖ではこのシナリオにより大地震の発生予測が可能になると期待されるが,アスペリティーの連動性などいくつかの問題がある.

アスペリティーの連動性とは,地震の最終的な大きさがどうやって決定されるかという問題と言っても良い.図4で示されたように1968年十勝沖地震で破壊したアスペリティーのうち,三陸はるか沖で破壊したのはアスペリティーBだけである.

この問題は,アスペリティーの強度やその周辺の非地震性すべりの時空間分布を観測データから推定し,アスペリティーの相互作用に関する実験的な研究(Yoshida & Kato, 2001)や断層の相互作用のシミュレーションを行うことにより,解明されると期待される.

 1968年十勝沖地震前のカップリングの状態は不明であるが,上記のデータから推測すると以下のような可能性が考えられる.1994年三陸はるか沖地震の前に,アスペリティーC1989年の地震で破壊したと考えられる(山中・菊地, 2001).さらに, 1992年の超スロー地震も隣接領域で発生している. 2つの地震によりアスペリティーBには応力集中が発生したのに対して,遠くにあるアスペリティーAは,応力集中が小さかった可能性が考えられる.

この場合,1994年三陸はるか沖地震の発生後は,アスペリティーAには応力集中が生じている可能性がある.一方,GPSによる推定からは(西村, 2000)1994年三陸はるか沖地震の余効変動により,アスペリティーAも準静的にすべった可能性も考えられる.この2つの可能性は,大地震の発生予測にとって正反対のものであるため,様々なデータにより検証を行うことが重要である.

1978年宮城県沖地震の震源域周辺のアスペリティーに関して,もし1978年の時点で,現在と同様のカップリング状態にあったならば,その時どうして南側のアスペリティーと連動しなかったのかという問題がある.相似地震の解析により,1978年宮城県沖地震前の非地震性すべりを推定することがこの問題を解くために有効な方法であるが,当時の微小地震観測網のデータを用いてその解析を行うことは難しいと考えられる.現在は,高ダイナミックレンジの質の高いデータが得られており,今後の進展に期待したい.

 

2.3.2.          深部延長のすべりの加速

地震の発生予測においては,大地震発生前に非地震性すべりが時間変化するかどうかが一つの重要なポイントである.三陸はるか沖地震前に,その震源域の深部延長において,非地震性すべりがプレート間相対速度より大きかった可能性がGPSデータから示されているが,相似地震解析からも同様の可能性が示唆されており(五十嵐・他,2000),これが時間とともに加速したのか否か,また他の地震についても同様の現象が見られるか否かの検証が,今後の重要な課題である.これまで日本列島周辺のプレート境界では,1944年東南海地震の発生前に,震源域の深部延長で,定常的なslip rateよりずっと大きな非地震性すべりが発生したことが推定されている(Linde and Sacks, 1997; Sagiya, 1998)

この問題に関連する重要な観測結果が房総半島周辺で得られている.大地震の震源域の深部延長,カップリング領域と深部の定常的な非地震性すべりの領域の中間の遷移領域と推定されるところで,サイレント地震が見つかった(広瀬・他, 2000).広瀬・他 (2000)は,防災科学技術研究所の関東・東海地域の地殻変動連続観測網のデータを注意深く解析することにより,関東地震の断層面の下部延長と考えられる領域で,時定数約1日,Mw5.9相当のサイレント地震が起こったことを明らかにした.また,太平洋プレートの上面にも銚子沖サイレント地震(Mw5.5相当)が見いだされている(中川・他, 2000).これらは,さらに加速して地震発生域の大地震につながる可能性があるものなのか,最初からサイレント地震として終わるはずのものだったのかという問題は大変重要である.

 

2.3.3.  破壊の開始点の問題

次に破壊の開始点の問題を考える.これまで,アスペリティー周辺における非地震性すべりにより,アスペリティーに応力集中が発生し,ついにはその破壊に至るという,大地震発生のシナリオを想定していた.ところで,三陸沖に発生する大地震の震源(破壊開始点)は,アスペリティ−から離れたところにある (山中・菊地, 2001)1968年十勝沖地震と1994年三陸はるか沖地震の破壊開始点は,特にアスペリティーから離れた,海溝よりに決められている.そこは,余震が多数発生しているし,相似地震も起こっているため,カップリングは小さく,非地震性すべりも発生する場所であると推定される.このことは,上記の単純なシナリオだけでは説明が難しい.

1968年十勝沖地震と1994年三陸はるか沖地震の震源がアスペリティ−からかなり離れたところにあることは,2通りの説明が可能である.震源での破壊の開始とアスペリティーの破壊とはいつも連動するという考えと,たまたま連動したという考えである.たまたま連動したという考えに従うと,震源では,1994年以前にも何回も破壊は始まっていたが,アスペリティーへの応力蓄積が十分でないから,すべて途中で止まってしまって大地震にならなかったということになる.

1994年三陸はるか沖地震の初期破壊過程は約26秒間続いたが,その間の地震波の振幅は大変小さなものであったことが知られている(Sato et al., 1996).平松・古本(1999)によると,初期破壊の地震モーメントは主破壊の5%程度であり,その部分の波形は周期20秒程度の長周期成分を含んでいることが特徴である.たまたま連動したという考えに従う場合は,1994年以前にも何回も,このような長周期成分を含む地震が発生していることになる.過去の地震データを注意深く調べることにより,その検証は可能であると考えられる.しかし,1968年十勝沖地震と1994年三陸はるか沖地震の破壊開始点付近,特にその間の領域では,定常的な微小地震活動がそもそも大変低いことが報告されており(例えば,地震予知連絡会地域部会報告, 1994),その可能性は低いと思われる.

したがって,1994年三陸はるか沖地震については,震源付近で一旦破壊が始まると,それはアスペリティーを壊す大きなものになる可能性がある.このことは,アスペリティーに加わる応力が臨界値に近くなることと,非地震性すべりが発生していたと考えられる破壊開始点付近でも破壊が始まる条件が整うことに,何らかの因果関係があることを示唆している.例えば,アスペリティーに加わる応力が増加するにつれて,破壊開始点を含むアスペリティー周辺の非地震性すべりが抑制され,破壊開始点でも応力が蓄積されることがあるかも知れない.もしそうであれば,非地震性すべりを起こしている領域において,大地震発生に近づくにつれ,非地震性すべりの時間変化が起こる可能性がある.

1968年十勝沖地震と1994年三陸はるか沖地震の破壊開始点は,近い場所に決まっており,破壊の開始についても再現性があると推定されることは,この問題の解決のために重要である.非地震性すべりにより,アスペリティーに応力集中が発生し,ついにはその破壊に至るというシナリオとともに,破壊開始点付近の非地震性すべりの時間変化や応力集中が発生する過程を解明することが重要な検討課題である.

破壊開始点付近で地震前に生起する現象は,震源核形成過程と呼ばれ,近年,その実験的・理論的な研究が飛躍的に進んだものである(例えば,Ohnaka, 2000).さらに,非地震性すべりによる応力の蓄積から震源核形成を経て地震すべりとその停止までの一連の過程がシミュレーションによって再現されており(Hashimoto and Matsu’ura, 2000),これらの知見と観測データと結びつけることにより,大地震の発生予測を行うことが可能になると期待される.

 

2.4.                   カップリングを決める要因の解明 ―アスペリティーの実体―

これまで,プレート境界における非地震性すべりの時空間変化の解明のための,現象論的なアプローチについて述べてきた.十分なデータに基づき非地震性すべりの時空間変化の推定が可能となれば,これまで発生した大地震時の応力降下量の空間分布を断層の強度分布の指標と見なして,kinematicなモデルにより,大地震の長期的な発生予測が可能となると考えられる.しかし,上記で述べたように,各手法にはそれぞれ解決すべき課題があり,非地震性すべりの時空間変化の推定においては,現時点では不確定な部分が存在する.この部分を違った側面からの情報で補い,より確からしい非地震性すべりの時空間変化を推定することが重要である.例えば,カップリングの下限の深さは温度構造によって決まると仮定し(Hyndman et al. 1995),設定した深さ以浅のカップリングのみを考慮するという方法も行われている(Mazzotti et al., 2000).つまり,カップリングの強さを決める要因を解明し,その先験的な情報を加味して,非地震性すべりの時空間変化を推定することが重要であると考えられる.また,このことは,ダイナミックなシミュレーションを行う場合にも,必要不可欠な情報であると考えられる.

 

2.4.1. プレート境界の構造

プレート境界の構造探査により,カップリングの強さを決める要因を解明しようという研究が行われている.海底地震観測により,浅発大地震が発生しない伊豆小笠原海溝において,プレート境界付近でマントル物質が蛇紋岩化していることが推定された(上村・他,2000)

三陸沖では,東経143-144度北緯38-40度の領域で構造探査が行われた.その結果,北緯39度より南では反射波の強度が強いのに対して,北では小さいことが推定されている(藤江・他, 2000).東北大学による微小地震分布によると,東経143-144度の間では,北緯39-40度では微小地震活動が活発であるのに対して,その南では活動は低い(地震予知連絡会地域部会報告, 1994).藤江・他(2000)は,推定された反射強度の違いはカップリングが北緯39度より南では弱いためであり,地震活動の違いはそれを反映していると考えた.

カップリングがより弱いと推定される領域で地震活動が低いことは,アスペリティーとその周辺の相似地震の場合とは,地震活動との対応関係が,一見逆相関となっている.これは,カップリングが非常に強いか,あるいは逆に非常に弱い領域では微小地震は発生せず,その中間的な領域で微小地震活動が活発であると考えれば説明できる.以下に述べるように,上記の領域は,カップリングがやや弱い領域と非常に弱い領域にまたがっているので,より弱い領域側で地震活動が低くなっていると考えられる.

2.2.2で議論したように,アスペリティーマッピングや相似地震の分布から,東経143-144度北緯39-40度の領域は,弱くカップリングしていると考えられる.一方,その南側には今のところ大地震のアスペリティはマッピングされておらず,微小地震の活動も低調である.したがって,この南側の領域は,カップリングがさらに弱い場所である可能性が高い.反射波からの推定はこのことと調和的であり,さらに解析を進めることが重要であろう.藤江・他(2000)は,強い反射強度は,海洋プレート上面に,P波速度が3-4km/s,厚さ数百m程度の薄くて遅い層が存在するためであり,遅いP波速度は水の影響であると考えた.

反射法地震探査によるプレート境界の構造解明は,南海トラフでも行われ,沈み込むフィリッピン海プレートの境界が顕著な反射面として捉えられている(Kodaira et al., 2001; 蔵下・他,2001)Kodaira et al.( 2001)は,測線の通っている部分が,1946年南海道地震による地震時のすべり量の小さいところ(例えば,Yabuki and Matsu’ura, 1992)にあたっていることから,沈み込むプレートからの水の関与によりカップリングが小さくなった可能性を指摘している.しかしながら,GPSデータからは,南海トラフのカップリングは100%であると推定されており(例えば,Mazzotti et al, 2000)GPSデータの解釈や南海道地震による地震時のすべり量の分解能の問題を含めて,今後検討すべき課題である.

このように,プレート境界のカップリングの強さと境界付近における物質,境界層に含まれる水との関係が注目を集めている.これらの要因は,非地震性すべりの時空間変化を明らかにする上で大変重要であり,さらに精細な調査研究が必要であると考えられる.

地震活動とカップリングとの関係を議論する上において,微小地震がどこで発生しているかは重要な問題である.五十嵐・他(2000)は,波形の相似性によりにより,プレート境界で起こっている地震を抽出した.日野・他(2000)は,海底地震観測・地震探査のデータ解析により,S波構造を含めたプレート境界域の地震学的構造と微小地震の震源分布を比較した.その結果,プレート境界からの強い反射は,海洋性地殻第2層内部の大きなVp/Vsによること,微小地震はプレート境界から海洋性地殻第2層の厚さに相当する拡がりを持っていることを示した.プレート境界の実体に迫る重要な研究であり,さらに解析を進めることにより,カップリングの解明が進むものと期待される.

 

2.4.2.          アスペリティーの空間スケール

2.1.で述べた強震記録から推定されたアスペリティーは,数十kmの空間的なスケールを持つものだった.一方,陸上のGPSから推定された固着域は,さらに大きなスケールを持っている.GPSによる推定結果の空間分解能の問題のため,アスペリティーを含む広い領域でカップリングが強いのか,あるいは,アスペリティーの部分だけがカップリングが強いのかについては,現在のところはっきりはしていない.

相似地震についても,2.1.3.において「非常に小さなアスペリティー」の破壊であると述べたように,アスペリティーの破壊であると考えられている.相似地震を構成するような非常に小さなアスペリティーから,強震記録から推定されたアスペリティー,さらに大きなスケールを持つGPSから推定された固着域と,アスペリティーに関係して,様々な空間スケールが存在する.これらの大きさとその性質についてのスケーリング則を解明することは,相似地震によるslip rateの推定のみならず,カップリングの実体の解明のために重要である.

 

3.               内陸地震

3.1. 内陸地震のすべり分布の不均質性

大地震のすべり量が断層面上で不均質であることは,ほとんどの内陸地震についてもあてはまると考えられる.プレート境界地震からのアナロジーによれば,内陸地震についてもアスペリティーが存在し,非地震性すべりによるアスペリティーへの応力集中が,基本的な地震の発生過程であると考えられる.

鳥取県西部地震前に,その断層面上において,1989, 1990, 1997年にM5.1-5.4の地震6個を含む群発的な地震活動が発生していた(澁谷・他, 2001)1989年と1990年の群発活動は異なった場所で発生したが,1997年の活動は1989年と1990年を合わせた領域で発生した.さらに,その領域は,2000年鳥取県西部地震のすべり量分布の小さなところに対応していることが明らかになった(7)(澁谷・他, 2001;関口・他, 2001).地震活動が発生していた領域で非地震性すべりが起こっていたかどうかについては,現在のところまだ不明であるが,同じ場所で活動が繰り返したことは,三陸沖で見つかった相似地震のアナロジーから言えば,非地震性すべりを反映している可能性が考えられる.ちなみに,東北地方でここ数年に発生したM5前後の地震群については,主たる破壊域は互いに重なっていないことが明らかになっている(Okada et al., 2000).鳥取県西部地震に先行した群発地震は,同じ場所で活動が繰り返さない「通常の」群発地震と違っていた可能性がある.先行した群発地震によるすべり域を精度良く決めること,および,推定されたすべり域と本震の破壊過程との関係を調べることが重要であろう.

それでは,他の内陸大地震はどうなっているだろうか? 兵庫県南部地震のすべり量分布も不均質であることは良く知られているが(例えば,Ide & Takeo, 1996;Yoshida et al., 1997),少なくともここ数十年間において,断層面上で観測にかかるような群発地震活動は発生していない.1916M6.1の地震は明石海峡付近が震央であると考えられているが,現時点ではそれ以上のことはよく分かっていない.アスペリティマッピング(山中・菊地,2001)によって明快に示されたように,過去の地震活動履歴は,地震の発生過程や長期予測にとって大変重要なデータである.1916M6.1の地震については観測記録が存在するので,有効な情報を引き出せる可能性はある.

1964年男鹿半島沖地震が,1983年日本海中部地震とほとんど同じ震央を持つことは知られていたが,震源の再決定を行うことにより,男鹿半島沖地震の震源は日本海中部地震と10km程度しか離れていないこと,男鹿半島沖地震の断層面は日本海中部地震の断層面に含まれること,男鹿半島沖地震の断層面上では日本海中部地震のすべり量は小さく,余震も少なかったことなどが明らかになった(海野・他,2001).この例では,鳥取県西部地震と同様に,本震時に断層面上のすべり量が小さかったところは,その地震の前の比較的近い過去において別の地震ですべったところに相当している.日本海中部地震に関しては,三陸沖のプレート境界地震と同じく,大地震の前にその断層の一部分ですべりが発生していたわけである.鳥取県西部地震と違って,同じ場所で繰り返し発生する地震活動は見られなかったので,非地震性すべりが発生したかどうかは不明であるが,1964年男鹿半島沖地震の震源域における2つの地震によるすべり量の和が,1983年日本海中部地震の平均的なすべり量に比べてかなり小さいことから,1964年以降に,男鹿半島沖地震の震源域において,非地震性すべりが発生した可能性が考えられる.これらのデータは,沈み込むプレート境界以外で発生する地震についても,三陸沖のプレート境界地震と同様に,非地震性すべりの時空間変化が地震発生に深く関係している可能性を示唆している.

内陸地震の発生間隔は非常に長く,非地震性すべりが発生しているとしても,プレート境界のように数十年ではなく,数百年かあるいはそれ以上の時間スケールで応力集中を起こすものであるかも知れない.その場合,非地震性すべりを,数年の時間スケールでGPSや地殻変動連続観測で捉えることは困難であると考えられる.しかし,固着している部分と非地震性すべりが発生している部分があるという不均質性は,色々な観測項目で検知できる可能性がある.例えば三陸沖では,非地震性すべりと,プレート境界の反射強度・速度構造や相似地震・震源分布との関係等が調べられている.観測条件が良いと考えられる内陸においては,より精度の高い観測で非地震性すべりを示唆する現象が捉えられる可能性がある.九州,別府島原地溝帯において,これまでほとんど検知されたことのなかった高角の反射面が検出された(松本・他,2001).これは,地殻内の不均質構造としての高角の弱面の存在を明らかにしたことに加えて,鉛直に近い断層の反射特性を明らかにできる可能性を示したことで重要である.

 

3.2. 内陸地震のローディングプロセス

鳥取県西部地震前の群発地震の解析により,内陸地震についても,地震時のすべり量が不均質であることが非地震性すべりと関連している可能性が示唆された.しかしこれは,震源断層上のすべり量分布に関するものであり,断層の端にあたる下側や横側の状況については分かっていない.これは,内陸地震の発生場と発生過程について,まだ,基本的な枠組みが解明されていないためである.例えば,断層の下側や横側の延長部にもすべり面が存在して,非地震性すべりを起こす可能性があるのか,あるいは,下部地殻は全体が流動しているのかといった問題を明らかにしなければならない.

そのためには,内陸地震に関する精度の良いデータを収集することが基本となるが,内陸地震は発生間隔が長いため,地震発生前後のデータを得ることは容易でない.そのため,これまで発生した内陸地震の発生過程を調べることが重要となる.また,内陸地震の発生場について,断層の深部構造を明らかにするとともに,断層とその周辺の媒質の物性(例えば粘性や塑性など)や状態(例えば応力や間隙水圧,温度など)を知ることが重要である.

 

3.2.1. 内陸地震の断層の深部構造とすべり

上記の問題に答える上で基本となる,地殻構造や断層の深部構造に関する質の高いデータが近年蓄積されてきた.本計画による集中観測および前回の5カ年計画(「第7次地震予知計画」)で得られたデータの解析等により,内陸地震発生に関係する日本列島の基本的な地殻構造が明らかにされつつある.図8に,北緯39-40度付近の日本海溝・東北日本弧・日本海東縁部の地殻上部マントル構造断面を示す(Iwasaki et al., 2001)L1-L6が陸の部分である.P波速度6.4kmより大きい層が下部地殻に相当すると考えられるが,下部地殻は,日本海の下において薄くなっているのに対して,島弧の下ではほぼ一定の厚さとなっている(Iwasaki et al., 2001).また,反射法により千屋断層や川舟断層の深部構造のmappingが行われ,千屋断層は,地震発生層の下限付近で緩傾斜のデタッチメントになることが推定されている(Sato et al, 2000)

川舟断層の南への延長部において,1970年秋田県南東部地震が発生している.水準測量データの注意深い解析により,地震前および地震後に,その断層の下部延長のデタッチメントにおいて,ゆっくりしたすべりが発生したことが推定されており(小松原・粟田,2001),深部構造との関係が注目される.これらのデータを組み合わせたシミュレーション研究等が今後重要であろう.

日本海東縁部を含めて内陸で発生した大地震の中で,1982年浦河沖地震 (多田, 1987)および1983年日本海中部地震については,同様に断層の下部延長において,ゆっくりしたすべりが発生したことが推定されている (多田, 1984;Linde et al, 1987;Shuto et al., 1995).特に,1983年日本海中部地震については,その断層の深部延長で,地震前に非地震性すべりが発生したことが複数の観測項目によって推定されており注目すべきである.これらの結果をコンパイルすることにより,日本海中部地震の発生前に,深部延長の非地震性すべりのslip rateが加速した可能性も示唆されている(飯尾・小林, 2001)

 

3.2.2. 内陸地震の発生場の構造

8に示した東北地方の断面とほぼ同じ領域において,自然地震を用いたトモグラフィーにより,3次元速度構造が推定されている(Nakajima et al., 2001).図9に,東北地方岩手・秋田・宮城県境付近における地震波速度構造,S波の反射面,低周波地震,微小地震と火山の位置関係を示す.北緯39.5-41度,東経140-141.5度の範囲における,南北測線に沿った断面が示されている.火山の直下の下部地殻および上部マントルにマグマが存在することが推定されている.断層深部,主に地震発生域より深い領域において,多数のS波の反射面や散乱体,低周波地震が見つかり,これらは,温度構造と調和的な深さ分布を示していることが明らかになった.図8に示された東西の構造断面は,図9において下部地殻の速度が周囲に比べて速い部分を通るものである.図8の断面に沿った,広帯域MT法による比抵抗構造(Ogawa et al, 2001)とトモグラフィーによるVp/Vsの構造(Nakajima et al., 2001)を図10,11に示す.上部地殻においては,反射法から推定された断層(Sato et al, 2001)の下側に低比抵抗の領域が推定されている.下部地殻においては,川舟断層の下あたりに低比抵抗の領域が拡がっている(Ogawa et al, 2001).その低比抵抗の領域はVp/Vsが小さな部分に対応しているように見える.色々な手法により得られたこれらの知見は,内陸地震の発生場である地殻の物性を明らかにする上で大変重要であると考えられる.

断層直下の下部地殻の低比抵抗帯が,西南日本においても電磁気学的な構造探査により見つかりつつある.中国地方の日本海沿岸に沿って地震が帯状に分布しているが,その直下の地殻および上部マントルに低比抵抗帯が見つかった(塩崎・他,2000).鳥取県西部地震の断層周辺においても,調査が行われており,予備的な解析によると,断層の直下に低比抵抗帯が認められている(塩崎・他,2001).中国地方の下部地殻は大局的には高比抵抗で特徴づけられるので(塩崎・他,2000),日本海沿岸に沿う低比抵抗帯は地域的なコントラストが大きく,非常に顕著なものであり,内陸地震のローディングプロセスを解明する上で大変重要であると考えられる.

これらの広帯域MT法による比抵抗構造によると,断層直下の地震発生域よりも深部では低比抵抗,浅部では高比抵抗である傾向が見られる.これらの意味するところは,今のところ良くわかっていないが,断層直下の下部地殻における水の存在の可能性が示唆される(飯尾・他, 2000).地震波速度構造や反射面など地震学的に推定された構造との関係,低周波地震など地震活動との関係,および断層とその周辺の変形特性との関係を調べることが,比抵抗構造の実体の解明に重要であると考えられる.

 

3.3. 内陸の歪場

内陸地震については,その発生過程の基本的な枠組みやローディングプロセスに加えて,地震発生場の地域的な特徴が解明されていないことも,その発生予測において大きな問題である.沈み込み帯の場合,プレート境界断層面の位置は震源分布・発震機構解・構造探査等からおさえられているが,内陸では,日本列島の各地域が,アムールプレート(Heki et al, 1999),オホーツクプレート(Wei and Seno, 1998),北米プレート等,どのプレートに属するのか,それらの境界の位置はどこなのかといった問題がまだ十分には解明されていない.

この問題を明らかにするためには,内陸の変形様式を把握することが第一に必要である.国土地理院のGPS観測網GEONETにより,日本列島の変形の時空間変化がモニターされており,新潟から神戸にかけての歪集中帯の存在が明らかになってきた(多田・他, 1999; Sagiya et al, 2000).歪集中帯をプレート境界と仮定する,detachment model(平原・他,1998), collision model(例えばShimazaki and Zhao, 2000; Miyazaki and Heki, 2001), バックスリップ model(中川・川崎,1999)や,陸側プレートの内部変形と見なすモデル(飯尾・他, 2001)等,色々なモデルにより,GPSの変位速度場が説明されているが,統一的なモデルはまだ得られていない.

一方,日高における集中観測により,これまで想定されていた日本列島周辺のプレートの相互作用の枠組みを再検討する必要があることが示されつつある.反射法による構造探査結果の地質学的な解釈により,最大年間4mm程度の短縮量が日高地方の西側の衝突帯でまかなわれている可能性が指摘された(Ito, 2001).これは,これまで想定されている日本海東縁のプレート相対速度に比べて無視できない量であり,短縮が,日本海東縁だけでなく,幅広い変形集中帯に及んでいる可能性を示唆している.この変形集中帯で生起している過程を解明することが,内陸地震の発生場の解明にとって重要であると考えられる.そして,2章で述べたように,内陸の歪場の解明は,プレート境界における相互作用の解明にも深く関わっている.

 

3.4.  内陸地震の断層の強度とその時間変化

地震発生は,断層に加わる応力と断層の強度の大小関係によって決まる.これまでは,地震発生の基本的な枠組みとして非地震性すべりに焦点を当てて,それによりアスペリティーに加わる応力について述べてきた.つまり,アスペリティーの強度は一定と仮定して話を進めてきたわけである.しかし,応力が一定でも,強度が時間とともに低下すれば,地震は発生しやすくなる.したがって,断層の強度についても,調査を行うべきである.

しかしながら,断層の強度を知ることは難しい.地震が起こらないとわからない量であるとともに,断層深部の応力値を推定することが難しいためである.特に沈み込むプレート境界においては困難であり,内陸における観測研究に期待されるところが大きい.

兵庫県南部地震の断層近傍における応力測定結果から,断層の強度モデルが提出されている(Yamamoto et al. 2001).野島断層周辺で得られた多数の地殻応力測定データによって,断層から約100m以内では,せん断応力が小さくなっており(図12),かつ少なくとも数百m以内では最大主圧縮軸が断層のほぼ直交していることが明らかになった.山本・他(2000) は,この観測事実を説明するために,断層は全体的には降伏して強度が小さく,例外的に強度の大きい部分 (アスペリティー) がところどころに分布している,というモデルを提出している.このモデルによれば,せん断応力はアスペリティーのみによって支えられているので,降伏した断層面近くで測定された応力は小さな値をとることになる.

このモデルは,深いボアホールを用いた精力的な調査結果をまとめて得られたものである.しかしながら,深いと言っても地表から2kmであり,地震発生域の深部でも成り立つかどうかが問題であるが,地震波速度構造データにより深部の強度を推定する試みが始められている(山本・他, 2001).色々な観測データでモデルを検証するとともに,他の地震についてもモデルの適用を試みるべきである.

兵庫県南部地震については,野島断層において,断層の強度回復過程の調査が行われている.最深1800mのボアホールを活用した注水実験等により,その深度までの断層破砕帯とその周辺の挙動が色々な手法を用いて調べられている(島崎, 2001;西上, 2001).この実験では,注水孔から水平距離300m以内で,歪・傾斜・地下水・地震波速度・比抵抗・自然電位の連続観測を行うことにより,注水孔から地震発生域(深さ2-4km)までの断層破砕帯に沿った領域の透水性が低下したことが示唆され,強度の回復過程が進行しつつあることが推定されている.

野島断層においては,さらに深部についても,強度回復過程が推定されている.S波のスプッリティングの解析により,地震直後は断層の走向方向に卓越していたクラックが時間とともに速やかに閉じて,東西方向が卓越するようになったことが推定されている(田所・安藤,1999).また,微小地震のP軸の向きの時間変化を調べることにより,野島断層の極近傍においては,兵庫県南部地震発生後約3年で,断層に直交する向きから,広域的な向きである東西方向へ変化したことが推定された(Yamada et al., 2001).これらの解析においてはデータ量が十分ではなく注意深い検証が必要であると考えられるが,三陸はるか沖のカップリングの回復と同程度の時間スケールを持っていることからも(西村,2000),注目すべき結果であると考えられる.

このように,野島断層においては,色々な手法により断層の強度とその時間変化が調べられたが,ここで,お互いの結果の矛盾点を指摘しておく.山本・他 (2001)が用いた応力測定データにおいては,岩石コアが記憶している応力 (つまり地震前のものと考えられる応力) と地震後に測定された応力は,いずれも水平面内最大圧縮力軸が断層に直交しており,地震前後の応力には顕著な差は認められていない.つまり,地震によって解放される応力は地殻応力のごく一部であり,それほど時間変化は大きくないと考えられている.一方,田所・安藤 (1999) Yamada et al. (2001)は,地震直後は断層に直交していた水平面内最大圧縮力応力が,東西方向,つまり断層と斜行するようになったと考えている.これについては,現在の応力場を再測定することにより検証が可能である.地震前の応力場についても,メカニズム解の解析等により推定することが極めて重要である.

断層の強度回復過程等を明らかにするため,鳥取県西部地震の余効変動のGPS観測が行われた(橋本・他, 2001; 中尾・他, 2001).地震後数ヶ月間のデータによると,地震時の変動に調和的な変位が観測されており,地震後も断層が完全に固着せずにすべっていることが推定されている(橋本・他, 2001; 中尾・他, 2001).三陸はるか沖のカップリングの回復との比較において,今後の変化が興味深いところである.また,断層帯のトラップ波(例えば,桑原・他,2001)や余震のメカニズム解・S波のスプリッティングなどの時間変化との関係も重要である.

上記のように,断層の強度に関して,様々な深度,時空間スケールの観測結果が得られているが,これらを総合して,断層の強度とその時間変化に関するモデルを構築することが重要である.その際,室内実験によって得られたアスペリティーに関係した構成則(Ohnaka, 2000)や強度回復を含んだ数値シミュレーション結果(Aochi & Matsu’ura, 2001)の成果を取り入れることが重要だろう.

  東北地方太平洋沖と野島断層で認められたアスペリティーが,地震の発生過程において,同様の役割を持つかどうかは今後の問題である.地殻応力から推定されたアスペリティーの空間スケールは,その間隔から百mのオーダーと考えられるのに対して,東北地方太平洋沖で強震データから推定されたものは数十kmである.

  内陸地震のアスペリティーの実体について,東北地方太平洋沖で行われているような反射波による探査結果は得られていないが,鳥取県西部地域においては,それを目指した大規模な観測も行われており,今後の進展が期待される.

 

3.5.       内陸地震と地殻流体

3.2.において,東北地方内陸部において,断層深部,主に地震発生域より深い下部地殻内に,多数のS波の反射面や散乱体,低周波地震が見つかったこと,断層直下の下部地殻に低比抵抗帯が存在することを述べた.反射面や低比抵抗帯,低周波地震の発生には,地殻流体が関係していると推定され,地震発生と地殻流体の関係の重要性がますますクローズアップされてきた.

1998年岩手県北部の地震の前後で,地震波の散乱体や低周波地震の震源分布の時間変化が捉えられた(Nishimura et al., 2000; Nakamura et al., 2001;Mastumoto et al., 2001;小菅・他,2000など).鳥取県西部地震の断層の直下モホ面近傍において,低周波地震が発生していることが明らかにされた(大見・小原,2001).これらは,内陸地震発生に地殻流体の時間変化が関係している可能性を示唆している.鳥取県西部地震の断層の直下において,MT法により捉えられつつある低比抵抗帯(塩崎・他,2001)との関係が注目される.

地震動による変化であると考えられているが,野島断層でのアクロスの連続観測により,鳥取県西部地震に伴う水の移動を示唆する現象が観測された.特にS波では1ミリ秒におよぶ変動が見られ,これは主に水に満たされたクラック密度が増加した影響と考えられる(生田・山岡, 2001)

地殻流体の時間変化については,伊豆半島東部の群発地震の活動終了後に,重力の時間変化が捉えられた(13)(世田・他, 1999, Yoshida et al., 1999).これは,上記に述べたように,地震学的な手法によって示唆された地殻流体の移動が,より直接的な手法で捉えられたわけであり,重要な結果であると考えられる.

2000年度三宅島火山噴火においても傾斜ステップに伴って(Ukawa et al., 2000),NMT連続観測や広帯域地震観測により水の移動が捉えられた(上嶋・他, 2001, 笹井・他, 2001).また,三宅島・神津島においては,ハイブリッド重力観測により,マグマの移動が捉えられた(大久保・他, 2001)

このように,これまでその実体が良くわかっていなかった地殻流体について,色々な地殻活動との関係が明らかになってきた.さらに調査研究を進めることにより,地震の発生過程およびその発生場との関係が明らかになると期待される.

 

4.       まとめと展望

地震予知のための新たな5カ年計画の前半で,大学において得られた主な成果を紹介した.おわりにあたってその要約を行い,残された課題とそれに関連した今後の展望について述べる.本節では,大学において5カ年計画の前半で得られた成果に留まらず,広く色々な成果を概観することによりまとめを行った.

三陸沖において,アスペリティーマッピング,超スロー地震,陸上GPSデータの解析,相似地震の解析等により,プレート境界におけるカップリングの時空間変化の推定が行われた.色々な手法による推定結果は基本的には調和的であり,長期的な予測という視点においては,三陸沖における大地震発生に関して確からしいシナリオが描かれた. M7.5クラスの大地震を起こす可能性のあるアスペリティーは,1968年の十勝沖地震と1978年の宮城県沖地震の震源域に存在するものであることが分かった.すべり量の大きな領域が同定されたことは,大地震の長期予測だけでなく,強震動予測にとっても大変重要な成果であると考えられる.一方,日向灘においては,2つのM6.7の地震について,アスペリティーのサイズは小さく,地震後にアスペリティー周辺で大規模な非地震性すべりが発生したことが推定されている(Yagi et al., 2001).三陸沖で行われているような各種の解析により,大地震発生についてのシナリオを描くことが可能であろう.

三陸沖においては,大地震の起こる場所と数十年の期間における大地震の発生予測について,確からしい推定を行うことができた.予測の時間精度を上げていくことがこれからの課題である.このためには,複数のアスペリティーの連動の問題を解明することが第一に重要である.複数のアスペリティーが連動する地震については,単一のアスペリティーの地震のような比較的単純な規則性は期待できないからである.1968年の十勝沖地震は,複数のアスペリティーが連動した地震であることが分かっているが,1994年の三陸はるか沖地震との違いがなぜ生じたかについては,まだ良くわかっていない.両方の地震ですべったアスペリティにおいて,すべり量が異なっていることも十分には説明されていない.3つあると推定されているアスペリティーの強度と,その周辺の地震および非地震性すべりの時空間変化を明らかにすることが重要である.

アスペリティーの強度は,波形データから推定された地震時の応力降下量から推測することが基本となる.信頼できる結果が得られるまでには,さらにデータを蓄積せざるを得ないかもしれない.周辺の非地震性すべりの時空間変化に関しては,陸上のGPSには,内陸の内部変形の問題がつきまとうため,これ以上の精度や分解能の向上は短期間には難しいかも知れない.海底地殻変動観測により,長期間の変動が明らかになると期待される.地震前など比較的短期間の変動,および空間分解能を上げるためには,相似地震の解析が大変有効であろう.スケーリング則を確立しすべり量を精度よく押さえることが望まれる.三陸沖では,微小地震が多数発生している.プレート境界の相似地震だけでなく,それ以外の地震も,非地震性すべりの時空間変化やそれによる応力場を反映している可能性があるため,解析を進めるべきである. 

三陸沖では,大地震の発生間隔が短いので,大地震の波形データに基づいて強度を推定することは数十年で可能であると期待される.しかし,発生間隔がより長い南海トラフ沿いなどでは長い時間がかかる.幸いにして,東南海地震や南海道地震のアスペリティーはサイズが大きいことが推定されており(菊地,2001),当時の記録から応力降下量を推定することにより,強度を把握することは可能であると考えられる.東海地震については,過去の大地震の観測記録はないので,上記に述べたように,地震活動などにより強度の推定を行わざるを得ない.Mastumura (1997) Mastumura and Kato (1999)により,微小地震分布とメカニズム解の解析から,カップリング領域の推定が行われている.しかし,得られた結果は,GPSによるバックスリップの分布(Sagiya, 1999)と必ずしも調和的でなく,東海地方とその周辺におけるGPSによる変位速度場の解釈も含めて,今後の検討が必要である.

東海地方においては,水準測量による掛川に対する御前崎の沈下速度が鈍っていること (例えば, Igarashi, 2000) や,地震活動が静穏化したこと(松村, 2000)などの解析結果が報告されている.色々なデータを統一的に説明できる東海地震のシナリオを構築して,数値シミュレーションにより,発生予測を行うことが大変重要である.その他の地域では,十勝沖から根室沖にかけて現在カップリングが大きく,また1952年十勝沖地震から50年近く経過しており,次の大地震がそう遠くないという指摘もある.歴史地震や津波堆積物の解析等により,活動履歴を明らかにするとともに,南海トラフ沿いと同様に,非地震性すべりの時空間変化を把握するための観測やシミュレーションをさらに進める必要があると考えられる.

各種探査により,プレート境界面およびその周辺の特性の時空間変化を調べることも極めて重要である.1968年の十勝沖地震あるいは1978年の宮城県沖地震の震源域のアスペリティーと周辺の非地震性すべりの領域の違いを明らかにすることが重要である.プレート境界面は,深いところにあるので,内陸で行われている自然地震の波形を用いた地震波反射面の解析等も試みるべきであろう.伊豆-ボニン弧において浅い大地震が発生しない理由として,蛇紋岩の存在が指摘されたが,1924年関東地震の断層面の下部延長付近のマントルウエッジでも蛇紋岩の存在を示唆する地震波速度構造が得られている(Kamiya and Kobayashi, 2000).日本海溝沿いおよびフィリッピン海プレートの沈み込み帯において,場所によるカップリングの違いが何に起因するか明らかにするし,沈み込むプレート境界において生起している地殻活動をコントロールする主なプロセスを明らかにすることは,大地震の発生予測にとって重要である.水,断層岩,熱,断層面の形状など色々な可能性が考えられるが,観測データの解析に加えて,地震波速度構造を解釈するための実験や地質的な調査,それらを総合した理論的な研究や数値シミュレーションなど色々な手法を総合することが重要である.

予測の時間精度を上げる上で期待されるのは,カップリング領域の深部の非地震性すべりの時空間変化である.大地震前にこの部分ですべり速度が変化した可能性を示す観測結果は,内陸の大地震を含めると少なからぬ数となる.一方,カップリング領域の深部ですべりが生じても大地震発生に直接結びつかない例もいくつか報告されている(広瀬・他, 2000,中川・他, 2000).これまでの観測データを注意深く検証するとともに,このような非地震性すべりが加速するメカニズムを解明し,大地震発生との関係を明らかにしていくことがこれからの課題である.

破壊開始点付近の非地震性すべりの時空間変化を解明することも重要である.1994年の三陸はるか沖地震の初期破壊過程だけで終わったような地震がこれまで起こったかどうかは,何が地震の大きさを決めているかを解明するためにも重要である.そして,破壊開始点付近の非地震性すべりの時空間変化を解明することは,震源核形成過程に関連して,短期的な予測のためにも重要である.

内陸地震については,まだ解明されていない内陸大地震発生のシナリオ構築へ向けて,質の高いデータを始めとして多くの基礎的な成果が得られた.しかしながら,得られた結果については,お互いに矛盾するものや対立するものもあり,現時点ではまだ統一的な解釈を得るには至っていない.

これまで得られた成果の多くは,近年内陸で発生した大地震の調査で得られたものであり,これらの地震の震源域とその周辺が今後も重要なフィールドであると考えられる.後述するように,内陸においては,集中観測等により非常に精度の高いデータを得ることができる.海外に発生した大地震についても事情は同じであり,トルコや台湾で貴重な知見が得られつつある.

内陸の歪集中帯(新潟-神戸歪集中帯)は,日本列島内陸における大地震の長期的な発生予測にとって大変重要であると考えられる.この発見は,GEONETによる数々の成果の中でも特筆すべきものであろう.歪集中帯については,色々なモデルが提唱されているが,まだ結論を得るには至っていない.GEONETの変位速度のデータは,どのモデルによってもよく説明されているので,他のデータからモデルの検証を行うことが必要である.

さらに,この歪集中帯の南北への延長部の位置と変形様式の解明が必要である.これがプレート境界であるならば,他の既知のプレートの境界まで延びているはずである.一方,プレート境界のバックスリップの推定においては,内陸は均質半無限の弾性体で近似されることが多いが,この歪集中帯の延長部の位置と変形様式を解明することによって,内陸起源の変形を特定することが可能となり,プレート境界のバックスリップの推定の高精度化にも役立つと考えられる.

内陸大地震の発生予測において最も重要な視点は,歪集中帯において,応力が蓄積されているかどうかである.測地測量や GPSによって観測された歪速度は,活断層や大地震による推定より1オーダー近く大きいことが知られている (橋本,1990).この問題は,プレート境界から遠く離れた中部地方の北部にも当てはまるので,測地測量・GPS によって推定された内陸の歪速度が,インターサイスミックな期間における沈み込むプレート境界におけるバックスリップの影響を反映しているとは考えにくい.中部地方の北部では,アムールプレートと日本列島内陸のプレートの間の相対運動によって,この歪速度を説明することは可能であるが,その場合でも,測地測量・GPS による歪速度の推定値と活断層・大地震による推定値との差は,何らかの説明が必要である.一つの可能性としては,非地震性・非弾性変形によってこの差が作られていることが考えられる(例えば,飯尾,1996)

そのような非地震性・非弾性変形によって歪集中帯が作られているのであれば,そこでは応力は集中せずむしろその端付近に応力が集中する.応力が集中すれば地震が起きやすくなるが,大地震に至るためには,脆性・弾性変形している領域がある程度,厚く存在していることが必要であるため (薄ければ小さな地震が多数発生する) ,結果として,歪集中帯の周辺に大地震が発生しやすくなると考えられる (Hasegawa et al., 2000)

もう一つの重要な点は,下部地殻の変形様式である.3.3.で紹介された歪集中帯のモデルは,下部地殻が全体的に流動しているか,あるいは,下部地殻での変形が断層帯に集中しているかで2つに分けられる.この点は,内陸地震のローディングプロセスに直接関係する大変重要な点である.断層の深部延長は上部・下部地殻境界に延びていくのか,断層の直下の下部地殻に低比抵抗帯の実体は何かといったテーマは,直接この問題に関係するものである.焦点を絞った合目的的な調査研究が重要である.

プレート境界の非地震性すべりのslip rateの推定において,相似地震データが有効であったように,地震データは,その発生場所の特質を反映しているため,分解能が必要な議論には特に有効である.下部地殻は地表から遠いため,各種探査の分解能が低くなる.そのため,下部地殻相当の深さで発生する微小地震活動は,下部地殻の性質の解明において鍵となる可能性がある.紀伊半島においては,上部地殻とフィリッピン海プレート内の地震活動の間,中間層の地震分布があることが知られていたが(Mizoue et al., 1983),四国でも深さ23km前後に中間層の地震が認められる(例えば,木村・岡野, 1998).さらに,沈み込むフィリッピン海プレートのカップリングの下端付近の直上の陸側プレートの下部地殻相当の深さで,低周波微動の震源が多数決められている(例えば,小原,2001).これらのデータは,下部地殻の性質を明らかにするために大変重要であるし,また,沈み込むフィリッピン海プレートのカップリングや応力状態の推定にも寄与する可能性もある.

小原(2001)によって示されたように,防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)は,ボアホール地震計による質の高い波形データを提供し,これまでの観測では見つからなかった低周波地震の検知などを通して,列島スケールにおける,地震発生場と発生過程の解明に大きく貢献している.近年,大学等による1000m級のさらに深いボアホールにより,媒質の非弾性的な減衰の影響から逃れて,微小地震の応力降下量など,地震発生域の応力状態を精度よく推定できるようになった(例えば,山中・他,2001).深いボアホールのデータが,大地震の発生予測に寄与する可能性が示されたわけである.野島断層で掘削されたボアホールにおいては,温度測定でも質の高いデータが得られ,精度の良い温度構造の推定が可能となった(Kitajima et al., 2001).このように,大深度のボアホールを活用した質の高いデータは,地震の発生予測に大きく貢献するものと期待される.

新たな観測手法の開発も,上記と同様の意味において大変重要である.例えば,歪集中帯において,応力が蓄積されているかどうかを直接的に明らかにするためには,10kPa/年オーダーの応力変化を検知しなければならないのである.解析手法の開発も同様であり,得られたデータから最大限の情報を引き出すことが必要である.例えば,Furumoto et al. (2001)は,注意深い解析により伊豆大島爆破による,関東・東海地方の地震波速度変化を検出している.地震波速度変化は,応力の変化に関係している可能性があり,これから,応力が蓄積されているかどうかの情報が得られる可能性もあると考えられる.

内陸地震の発生場と発生過程の解明においては,列島スケールだけでなく,断層スケールにおける調査研究が必要不可欠である.これまで述べた,断層の深部構造や下部地殻の速度構造の調査においては,稠密な地震観測網が主力となる.それ以外についても,内陸では一般に観測条件が良いため,地震断層やアスペリティー,断層周辺の弱面等に関する新たな知見が得られる可能性がある.いくつか例を挙げる.余震は断層面上に発生しているのか面外なのかという問題は,余震はなぜ起こるかということに直接関係しているが,まだ決着はついていない.余震の発生過程の問題は,本震の破壊過程の推定においても重要であるし,プレート境界など他の地域の地震活動を解釈する上でも基本的な知見である.断層面が,平らなのか波打っているのか,ステップ的にずれている部分があるのかなども,余震が断層面上に起こっていれば解明できる可能性がある.断層の端や本震の破壊開始点付近の応力や強度分布に関する知見も得られるであろう.スプリッティングやメカニズム解の時空間変化についても,稠密な観測が必要である.さらに,断層帯のスケールのトモグラフィーやトラップ波の解析により,断層帯の内部構造についても知見も得られるであろう.これらは,現在の定常的な観測網のデータだけからは見えないものであり,集中観測の必要性を示している.

断層の強度についても,2つの異なった考えが提出されている.一つは,応力測定結果から推定されたものであり,断層は弱いというものである(山本・他, 2000).これは,サンアンドレアス断層で指摘されたように(Zoback et al., 1987),最大圧縮応力が基本的に断層面に直交することことから得られた.もうひとつは,地震直後以外は,最大圧縮応力は断層面と斜行するというものである(田所・安藤, 1999; Yamada et al., 2001).これについては,兵庫県南部地震の野島断層や2000年鳥取県西部地震における注意深い調査で結論が得られるはずである.サンアンドレアス断層では,断層が弱いことの原因として,断層帯における高い間隙水圧の効果が指摘されており(例えば,Byerlee, 1990),断層の強度の問題は,地殻流体とも関係している.

地殻流体の問題は,これまで述べた全ての課題に深く関わっている.例えば,沈み込むプレート境界におけるカップリング,下部地殻の変形,上部地殻における断層の強度などが挙げられる.地震波の反射・散乱・異方性,速度・減衰構造,比抵抗構造,温度構造,重力と地殻変動,低周波地震,He3/He4比などの調査研究をさらに進めるとともに,これらのデータから,地殻の状態を推定するために実験・理論的な研究および地質的な手法による研究が必要である(例えば,Takei, 2000,2001).

断層の強度や地殻流体の解明においても,大深度のボアホールは大変有効である.これに関しては,ボアホールは断層を貫き,断層岩をサンプリングすることが必要である.ボアホールを用いて断層を掘削しようという試みは,サンアンドレアス断層で初めて計画され(Hickman et al., 1994),野島断層ではそのアイデアが実際に実行に移された(例えば,安藤・他, 1998).大深度といっても深さ2km程度であるが,地質的・物質科学的な解析により,より深部の情報をも反映した断層の物質分布や物質収支についての情報が得られ(例えば,田中・他, 1998),かつ,断層運動の痕跡から,地震時に実際に断層帯で起こっているプロセスの推定が可能となった(例えば,大槻, 1998).断層のボーリングに加えて,かつて深部にあったが現在削剥により地表に露出している断層帯の地質的な調査を行うことは,地球物理的なデータと組み合わせ,断層や地殻流体の実際の状態を推定する上で大変有効であると考えられる.

 

文 献

 

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Figure Captions

 

図1 1994年三陸はるか沖地震と1968年十勝沖地震のすべり量分布と余震分布(永井・他, 2001)

 

図2 三陸沖のアスペリティーマッピング(山中・菊地,2001).三陸沖に発生した大地震のすべり量分布からアスペリティーの位置が推定された.


3 余震域から推定された三陸沖における大地震の破壊域(永井・他, 2001Umino et al. (1990)に加筆して作成)


4 1968年十勝沖地震の震源域のおけるアスペリティーの模式図.

 
5 三陸沖における相似地震の震央分布とそれから推定された歪速度(五十嵐・他,2000).コンターは西村(2000)によるGPSにより推定されたバックスリップ分布.

赤および青で示された領域は,相対的なプレート運動速度(8-10cm/)より,遅くすべっている(バックスリップ)および速くすべっている(フォワードスリップ)領域を示している.バックスリップが大きいほどプレート境界のカップリングが強い.

6 固有地震的活動を示す釜石沖の地震クラスター(東北大学大学院理学研究科,2002).(a) クラスターで発生した地震のM-T図.(b) モーメント積算分布.


7 鳥取県西部地震のすべり量分布(関口・他,2001)と地震前に発生していた群発地震の震源分布(澁谷・他, 2001).西から見た断面図.

8 北緯39-40度付近の日本海溝・東北日本弧・日本海東縁部の地殻上部マントル構造断面(Iwasaki et al., 2001)L1-L6が陸の部分である.

9 東北地方岩手・秋田・宮城県境付近における地震波速度構造,S波の反射面,低周波地震,微小地震と火山の位置関係(Nakajima et al., 2001).北緯39.5-41度,東経140-141.5度の範囲における,南北測線に沿った断面が示されている.太線は活断層の位置.

10 図8の断面に沿った,広帯域MT法による比抵抗構造(Ogawa et al, 2001)

11 図8の断面に沿った,トモグラフィーによるVp/Vsの構造(Nakajima et al., 2001)

12 兵庫県南部地震の断層近傍における相対剪断応力(Yamamoto et al. 2001)

13 絶対重力・相対重力測定併用(ハイブリッド)方式による伊豆半島東部における重力の時間変化.群発地震の活動終了後に顕著な重力変化が見られた(世田・他, 1999)