3.10.6 硫黄山(えびの高原)火山活動に伴う地殻変動

 霧島火山群のひとつである硫黄山では,2013年夏ごろより地震活動が活発化し,2015年2月ごろには傾斜変動が見られた.また,2015年7月および10月には火山性微動が観測された.2016年に入り地震活動は低調であるが,地表における高温域は維持されている.そこで我々は,ALOS-2衛星により観測された合成開口レーダーの干渉解析を行い,この活動にともなう地殻変動の推移を求めることを試みた.その結果,硫黄山付近では数100 m程度の狭い領域で2015年前半から2016年半ばにかけて最大60-70 mm程度隆起したことが明らかになった.求められた変動パターンは1990年代にJ-ERS衛星により観測された沈降とパターンが類似しており,これらの沈降と隆起は同じ場所での減圧および増圧により引き起こされたことが示唆される.

観測された地殻変動は球状圧力源とシルの増圧どちらでも説明することができるが,球状圧力源の増圧を仮定した場合には岩石強度を大きく越える増圧が必要であるために,観測された地殻変動を説明するためにはシルの増圧がより確からしいことがわかった.シルの増圧は地下約600 mの深さで発生していることが明らかになったが,この深さは電磁気観測によって求められた不透水層および低比抵抗領域の下限に相当する.また,観測された地殻変動をよりよく説明するためには,不透水層の上限よりも浅い地下数10 mの深さでのシルの増圧源の存在が必要である.ただ,このシルの増圧量は岩石強度を大きく越える量であることが要請され,この力源の周辺では塑性変形が起きている,もしくは弾性率が極めて低いことが予想される.より現実的な地下構造を用いての地殻変動モデリングは今後の課題である.