3.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(a)スロースリップに関わる重力・地磁気観測

沖縄県石垣島の半年に一度発生するスロースリップの発生域において,2011年秋から絶対重力計,2013年から超伝導重力計を設置し,重力観測を実施している(絶対重力観測は現在休止中).この観測の目的は,高圧流体がスロースリップの発生メカニズムにどのように関わっているか解明することである.これまでにスロースリップイベント中の重力変化を捉えることに成功し,地下水等のノイズを補正する手法の開発を進めている.流体の移動を独立した物理量の観測により裏付けるため,石垣島,西表島の2か所で地磁気連続観測も継続している.

また,長期的スロースリップが繰り返し発生している東海,豊後水道,日向灘における重力観測を年1回程度,実施している.東海では2013年より始まったスロースリップが継続しており,スロースリップ中の重力データを蓄積しつつある.

 

(b) 超伝導重力計による精密重力観測

 長野県松代および岐阜県神岡において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を行っている.2台の重力計の記録から,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のあと,年間およそ10マイクロガルという大きなレートで重力が減少を続けていることが明らかになった.これらの観測点は,地震の震源域からは400km以上離れており,GEONETによるGNSSデータから推定される上下変動は比較的小さいにもかかわらず,このように大きな重力変化が見られるのは,地震のあと継続しているアフタースリップあるいは粘弾性緩和による地下の密度変化をとらえていると考えられる.2017年現在神岡の重力計は稼働を停止し,より震源域に近い東北地方に移設するための準備を行っている.

重力観測の精度が上がるにつれ,観測点周辺の環境要因,とくに水文学的な影響が顕著に現れるようになる.松代観測点では,気象観測データを用いて降雨による影響を正確に再現する数値モデルを構築した.神岡観測点では,冬季の積雪による影響をモデリングするため,気象データから積雪荷重を推定するシミュレーションを展開したほか,積雪質量のその場測定のためにPETボトルを使った簡易式積雪重量計を開発した.

沖縄県石垣島においても,この地域の地下でおよそ半年に一度発生する長期的スロースリップに関連する信号を観測するため,超伝導重力計による精密重力観測を行っている.このような海洋島において超伝導重力計観測を行うのは世界でもほとんど例がなく,この場所に特有のさまざまな効果が観測されてきている.なかでも,地下水が大気・海洋との相互作用をとおして重力に複雑な影響を及ぼしていることがわかり,それを補正する方法の開発に力を入れている.

(c) 海洋プレートの沈み込みや巨大地震によって生じる重力変動の観測研究

小型・堅牢で信頼性の高い絶対重力計FG5 を用いて,プレートの沈み込みによって日本列島に生じる10 年スケールの中長期的重力変化の研究に取り組んできた.測定は北海道(厚岸,えりも) ,東北(女川,仙台) ,東海(御前崎,豊橋) ,四国(室戸・足摺岬),九州(宮崎) の太平洋岸の各地で年間1-2 回の頻度で繰り返されてきた.特に御前崎については,国土地理院との共同研究として1997 年以来毎年4 回程度の観測を繰り返し,十分なデータが集積した.その結果,同地域の沈降データから期待される重力変化よりもはるかに小さい変動しか生じていない,という一見奇妙な事実が明らかになった.今後,東海スロースリップの原因や深部で起こっているプロセスを解明する上で貴重なデータになる.東北地方太平洋沖地震に伴う地震時及び地震後の重力変化をとらえるため,八戸,奥州市,仙台,及び由利本荘で絶対重力観測を行うと共に,それらを基準として,周辺約50点で相対重力測定を実施している.重力の余効変動として,東北南東部では3年間で30~60マイクロガルの重力減少が見られるのに対し,東北北部(青森,岩手北部,秋田)では,重力増加が認められる.アフタースリップや,粘弾性緩和の効果が表れているものと考えられ,今後,地殻変動データと総合した解析を行う予定である.