(a) 南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験
南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサをボアホール設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行ってきた.これまでに地質断層面上にだけ非常に強く集中して,ほぼ定常的におこるM-4からM-2の活動があり,さらにその中には非常に多くのM-4程度のリピーター活動があることを報告していたが,今年度は,京都大学と共同して,14ヶ月間にわたって活動を追跡した結果, リピーター群のうち1/3程度のものにおいては,イベントの繰り返しが進むにつれて,イベントのマグニチュードが漸減していく傾向があることを見出した.リピーターをおこしているアスペリティがイベントの繰り返しによって摩耗する様子が見えたのではないかと解釈している.
また,採掘前線の10m程度前方には,採掘による応力集中を反映すると考えられるような姿勢をもつ,厚味が2-3m,さしわたし20m程度の大規模な板状の微小破壊集団がみられることを既に見出していたが,それらの微小破壊を放射波形の類似性によってグルーピングすると,1-2m程度のサイズの小集団にわかれることを見出した.一方で,同様の解析を既存断層面上で,さしわたし20m程度,厚味30cm以内に分布する面状の微小破壊集団に対して行うと,集団全体にわたって波形が類似した一つのグループとなった.前者の板状の活動は,大小の未発達な割れ目が相互作用して生じているもので,複雑に大小の断層が分布する地殻内の地震活動のアナログとなっている可能性がある.
(b) 見通し外VHF帯伝播異常と地震発生の相関
北海道大学が行っているえりも地域でのVHF帯の見通し外放送局からの伝播異常観測のデータ約9年分(2006年1月1日から2014年12月31日まで)を同大と共同して解析した.スポラディックE層の出現時期を除いた期間について, 受信強度が12分連続して閾値を超えたあとの4日間に警報を出すというルールで警報マップをつくり,日高地域に発生したM5以上の地震と比較したところ,警報期間が対象期間の17%しか占めないのに対して,24個の地震のうち29%が警報期間におこっていた.この結果は,地震と異常が関係ないとした場合に比べて2倍の情報ゲインがあり,偶然の一致である確率は5%を切っている.また,2016年4月14日夜から始まった熊本地震の直前にあたる同日未明に,島原で観測していた宮崎放送局からの信号に異常伝播が記録されていた.しかし,2015年1月1日から2016年11月30日までの記録全体に対して行った同様の解析では,異常の発生と地震の発生に統計的に有意といえるほどの相関はみつからなかった.