3.5.8 房総スロースリップイベント

房総半島沖では、群発地震活動を伴うMw 6.5-6.7のスロースリップイベント(SSE)が数年間隔で繰り返し発生してきた。これらのSSEのメカニズムの理解に向けて、GNSSデータから推定されたSSE発生時のすべりや応力の時空間発展を速度・状態依存摩擦構成則に基づいてモデル化した。今年は1996年に発生したSSEを対象とした。昨年までにGNSSデータのインバージョン解析により、SSE発生時のすべり速度とすべりの時空間変化が推定されている。まず、すべりの推定結果に基づきプレート境界面上における応力の時空間変化を計算した。次に、速度・状態依存摩擦構成則の式において、すべり速度をインバージョン解析からの推定値に固定し、摩擦パラメータ及び状態変数の初期条件を未知パラメータと仮定した。この仮定の下で摩擦構成則の式を数値的に計算し、インバージョン解析から求められた応力の時空間変化を再現できるような未知パラメータを推定した。その結果、応力の時空間変化は速度・状態依存摩擦構成則で良く説明できることが分かった。推定されたパラメータから、SSE発生域における臨界断層長(半径)は30~50km程度と見積もられる。インバージョンから推定されたSSEのすべり域の半径は臨界半径と同程度かそれよりもやや小さい。これはSSEの発生が条件付安定の摩擦特性に支配されていることを示唆する。