3.6.3 富士山

(1) 地質・岩石学的データに基づく火山発達史

2001-2003 年度の深部掘削で得られた試料の岩石学的検討を進め,先小御岳火山,小御岳火山,富士火山はそれぞれ独自の化学組成上の特徴をもち,安山岩組成の小御岳から段階的に富士の玄武岩組成の火山へと変化してきたことを明らかにした.一方,古期後半のスコリア層のメルト包有物を主体とする解析から,富士山の浅部には安山岩質の小マグマ溜りが存在(深さ約4-6㎞と推定される)し,深部の主玄武岩質マグマ溜りから上昇したマグマとこの安山岩質マグマとが混合することによって,富士山の噴出物が生じているとするモデルを提案した[図3.6.2].

さらに,新期のスコリア層の解析も進め,新期では安山岩質マグマ溜り内のマグマがやや分化し,よりSiO2に富む組成となっている可能性を指摘した.宝永の噴火で想定されているデイサイト質小マグマ溜りは,このような浅部マグマ溜り内のマグマがより分化し高いSiO2量となったものと解釈できる.また,最後の山頂噴火である湯船第二スコリアの噴出メカニズムを微斑晶の解析に基づいて行った.

(2) 富士山深部のマグマ供給系

富士山においては,過去に発生した低周波地震の震源分布や岩石学的な考察から地下15-20 km付近にマグマだまりがあると考えられていたが,地震学的に確かな証拠が存在しなかった.我々はレシーバ関数解析を行い,富士山周辺の数10 kmまでの深さの地震波速度の不連続構造を明らかにした.その結果,富士山下40-60kmの深さに南北に沈み込む顕著な速度境界面があり,富士山直下でその境界面は不連続になっていた.また,富士山下で火山性の低周波地震が発生する地下10-20kmの領域の下,およそ25kmの深さに顕著な速度境界面を発見した.さらに,レシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造を明らかにし,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性を示した[図3.6.3] .

[図3.6.2]

[図3.6.3]