
(a)四国から紀伊半島の海域から陸域にかけての,沈み込むフィリピン海プレートの海洋性モホ面の深さ分布.(b,c)レシーバー関数の海洋性モホ面(b)およびプレート境界(c)における振幅強度分布.茶色楕円は,沈み込む海山の位置,またピンクの円はスロースリップの発生領域を示す.
ネパールにおける建物の耐震性能向上に資する研究の枠組みとそのロードマップ作製を目的として,J-RAPIDの支援の下,ネパール側カウンターパートと共同研究を実施した.特に上層に枠組組積造を用い,最下層で壁が減少するいわゆるピロティ建物について,枠組組積造を考慮した耐震診断手法の提案を実施するとともに,その対策案を提案した.
鉄筋コンクリ-ト構造の建物における耐震壁部材の耐震性能評価法の精度向上を目的にして,日本とニュージーランド(以下NZ)で共同研究・ワークショップを行った.2011年NZクライストチャーチ地震,2011年東北地方太平洋沖地震,2016年熊本地震などによる被害を背景にして,既往の研究成果を2016年9月NZワークショップで報告し(日本側は9名参加),NZSEE誌に論文を投稿した.熊本地震に関して7月に地震研究所で報告会(NZ側5名参加), 9月にNZで報告会(一般公開)を開催した.2017年にも研究成果報告会を予定している.
2016年4月14日から16日にかけて九州地方を襲った熊本地震では地震動によって数多くの建物に深刻な被害が生じた.この地震では前震(14日M6.5),本震(16日M7.3)によって同じ地域で短期間に震度6強から震度7の強い地震動が2度観測された.学校建築にも多くの被害が見られたことから,日本建築学会では文部科学省から委託された調査研究を実施するために熊本地震学校建築被災度判定WG(主査:壁谷澤寿海)を設置し,学校建築・教育関連施設(約518棟)の被災度判定と被害調査を行った[図3.4.5].調査結果の詳細は日本建築学会の調査研究報告書等にまとめられている.
[図3.4.5]
巨大地震が発生した場合,早急に損傷を受けた建物の損傷度を評価し,建物の継続利用の可否を評価する必要がある.そこで本研究では,比較的安価の加速度計を設置し,建物の地震時応答を計測して,等価線形化法を用いた損傷度評価システムの開発を進めている.等価線形化法とは,建物に作用している力と変形の関係を等価一自由度に縮約してその耐震性能を評価する方法である.このシステムの有効性を実証するため,既存構造物に実際に設置して,計測を続けている.観測建物は,中層事務所ビル,学校建物,低層木造歴史建造物,低層戸建て住宅,60m級通信用鉄塔などである.東北地方太平洋沖地震の際に観測された,8階建てSRC学校建物の性能曲線を見ると,剛性低下が見受けられるが,詳細な被害調査の結果,連層耐震壁脚部に軽微なひび割れが確認された.
(1)で開発・計測しているシステムについて,建物が倒壊にいたるまで本システムが有効であることを確認するためには,実構造物の実測に平行して振動台を用いた破壊実験が必要となる.そこで,E-Defenseを用いて,18層縮小鉄骨試験体の破壊実験,6層縮小鉄筋コンクリート試験体の破壊実験,実大3層木造試験体の破壊実験,実大5層木造試験体の破壊実験と協力し,システムの設置と観測を行った.観測結果をもとにシステムを修正し,安定性の向上を施した.
海溝型巨大地震の断層運動により発生する,地震動,地殻変動,そして津波を同時に評価することを目的として,弾性体を伝わる波動場を表す運動方程式に津波の伝播の原動力となる重力項を加えた方程式系を用いた,地震―津波同時シミュレーション法を開発した.京コンピュータを用いて2011年東北地方太平洋沖地震の地震津波シミュレーションを実施し[図3.4.4],釜石沖の海底ケーブルに記録された水圧変化から,地震動(水中音波),地殻変動,津波の発生・伝播過程の詳細な解釈を行なうとともに,現在敷設が進められている海底ケーブル津波計データの将来の津波警報への活用に向けて,想定地震に対する模擬データの計算を進めた.
[図3.4.4]
本部門で行っている津波・高潮の研究は,被害津波の事例研究,津波検潮記録のデータ解析,流体力学としての津波研究,津波測定技術の改良と災害防止への応用研究の4点に分類される.2009年サモア諸島の津波,2010年チリ津波,そして2011年東北地方太平洋沖地震による津波等,このような被害を伴う津波が起きるたびに,他大学,および国外の研究機関と共同して直後の被害現地調査を行った.特に,東日本大震災の津波の調査に関して250頁にわたる報告をとりまとめ,出版した.また,津波被害の軽減に資するため,地震直後に迅速にメディアに出演し,避難を呼びかけると共に解説を行った.
長周期地震動(周期2秒程度から10秒以上)は,超高層ビルや巨大石油タンクなどの大規模な構造物の急激な増加によりその重要性を増している.被害を及ぼすような長周期地震動はプレート境界大地震から発せられるのが典型であり,これらの地震は震源近傍だけでなく,震源効果・伝播経路効果・サイト増幅効果の組み合わせにより遠方の堆積平野等にも強い長周期地震動をもたらすことを明らかにした.長周期地震動は過去の地震災害,たとえば1985 年ミチョアカン地震(Mw 8.0)から400 km離れたメキシコシティーでの災害,あるいは2003年十勝沖地震(Mw 8.3)から250 km離れた北海道苫小牧市での災害などの主な要因となっていることがわかった.
上記の震源効果・伝播経路効果・サイト増幅効果を精度良く評価する手法として数値シミュレーションを採用したが,この手法では堆積平野や伝播経路を含む三次元速度構造モデルとプレート境界地震の適切な震源モデルが決定的に重要である.そこで,モデル化の標準的な手続きを定めた上でモデル構築を行い,それらモデルを用いて想定東海地震,東南海地震,宮城県沖地震や,南海地震(昭和型)に対する長周期地震動シミュレーションを行った.その結果をハザード地図として表現するため,最大地動速度や地動継続時間,及びいろいろな周期の速度応答スペクトルの分布図を作成した.これら分布図は地震本部の地震調査委員会から「長周期地震動予測地図」試作版[図3.4.3]として公表され,構築した「全国1次地下構造モデル」暫定版も同時に公開されている.
[図3.4.3]
JST/JICAの地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)によるインドプロジェクトにおいて,インド・ヒンドスタン平野の強震動予測研究を進めている.同じくインドネシアプロジェクトでは,インドネシア・バンドン盆地における強震動予測研究を担当した.また,文部科学省の首都直下地震防災・減災特別プロジェクトにおいても首都直下地震の強震動予測研究を担当し,同じくひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトでは江戸時代後期に発生した三条地震の強震動評価を行った.
京コンピュータ等の高性能スパコンを用いた,大規模・高精度の地震波動伝播シミュレーションの実用化に向けて,運動方程式の差分法計算に基づく並列シミュレーションコードを開発し,京コンピュータの最大ノード数(82,944CPU)を用いた超並列計算において,2.0PFLOPSの高い実効性能を得た.これにより,従来の地球シミュレータを用いた地震動計算(39 TFLOPS)の約50倍の演算性能が実現し,地震動シミュレーションの分解能(格子間隔,周波数)を2.5倍高めた計算が実用化した.本シミュレーションコードを用いて,2011年東北地方太平洋沖地震の強震動の再現計算や,南海トラフ巨大地震の揺れの予測計算を開始した.
太平洋プレートで深発地震が発生すると,プレートに沿って地震波が遠地まで良く伝わることで,関東〜東北〜北海道の太平洋沿岸に沿って大きな震度が現れる現象は,「異常震域」として良く知られている.冷えた,堅いプレート(High-Q, Hivh-V)は地震波を良く伝えることに加えて,プレート内部の不均質構造により高周波数(f>1-2 Hz)地震動が強い前方散乱を繰り返し起こすことで閉じ込められる導波効果が大きい.このため,異常震域で観測される地震動は高周波数のみが含まれ,散乱による長い継続時間を持つ特徴がある.これに加えて,年代が古く冷えた太平洋プレートの深部(410-660km)では,プレートの内部に相転移の遅れにより生じたくさび型の低速度の層(MOW; Metastable Olivine Wedge)があり,これがプレートの上方に地震波を誘導して異常震域を強化する新たな働きを持つことが広帯域地震計記録の解析と地震波伝播のコンピュータシミュレーションから確認された.
2011年~2014年にかけて梁部材に対するスラブの協力幅を再検討する目的で立体架構試験体合計7体の静的加力実験を実施した.柱端・梁端にピンまたはピンローラー支承により中間階を模擬して梁軸のびを許容した試験体と加力方法が従来にない特徴であり,中間階を想定した架構復元力特性,とくに終局耐力に対するスラブ筋の効果が十分に小さい層間変形角レベルでも全幅有効となりうることを実験的に実証した.2012年には補修試験体の再度載荷実験を行い,初期剛性,降伏耐力,終局耐力および靭性の性能回復を確認した. 2015年から2016年には改良したモデルで試験体の有限要素解析を行い,層間変形角と有効幅の増大の関係が概ね精度よく評価しうることを確認し,保有水平耐力算定におけるスラブ協力幅の評価法の改定案を提案した.
鉄筋コンクリ-ト(RC)構造物の耐震補強にポリエステル製繊維シートを用いる方法は,すでに十分な実験研究によってその補強効果が検証されており,建築あるいは橋梁のRC柱を主な対象にして多くの既存構造物の耐震補強工法として実用化されている.2015年度の実験ではシートを巻き付ける際に使用する接着剤の強度を増大した場合の補強効果を検証する目的で柱の実験を行った.2016年度には耐震壁試験体4体の実験を行い,補強された柱および耐震壁の実験によるせん断耐力は,実用設計で用いられてきた接着剤の強度(剥離エネルギー)を考慮したせん断耐力式において限界剥離耐力を修正することで従来の補強効果と同様に評価しうることを検証した.
建築構造物が津波によって倒壊するときの津波荷重の評価法を水理実験および解析により検証している.東日本大震災では津波による建築物の倒壊被害がみられたことから,過去の研究にもとづいて津波避難ビルの設計荷重が提案されたが,被害事例や従来の実験では一般性に限界がある.2014年10月にはピロティ建物の1/8試験体3体の水理実験を港湾航空技術研究所で実施して,ピロティ構造に作用する津波荷重(孤立波)の評価法,地震動による損傷が倒壊限界に与える影響を実験的に検証した[図3.4.2].2016年11月には,4層1/10模型試験体4体を製作して,電力中央研究所地球工学研究所(我孫子市)の津波氾濫流水路実験装置を用いて鉄筋コンクリ-ト建物が,連続波津波および漂流物の影響によって崩壊に至る挙動を実験的に検証した[[図3]連続波津波と木造漂流物による模型試験体の倒壊].2017年度には地震研究所で同じ設計の試験体を静的載荷により崩壊させる実験を行う.
[図3.4.2]
現在,建物の崩壊形としては,全ての梁端と1階柱脚に曲げ降伏が生じる全体崩壊形が推奨されている.この崩壊形は,建物全体で地震のエネルギーを吸収するため,効率がよい.しかし,梁にはスラブがとりついており,このスラブ内の鉄筋などが梁の曲げ挙動,例えば曲げ終局モーメントに影響を与える.曲げ終局モーメントの上昇は,建物全体の強度上昇につながるため有利となるが,個材で見ると,梁のせん断破壊を誘発する危険性がある.そこで,せん断余裕度とスリットつき腰壁の有無をパラメータとしたスラブ付き梁試験体を6体製作し,部材実験を実施した.その結果,比較的早期にスラブ全幅が梁の曲げ終局モーメントに対して有効となること,スラブ圧縮側でも若干曲げ終局モーメントが上昇すること,しかし,従来の片側1mの幅でのスラブ筋を考慮した曲げ終局時せん断力に対して1.1倍のせん断余裕度を確保しておけば充分な変形性能が得られることを明らかにした.
多くの鉄筋コンクリート造建物は,腰壁や垂れ壁といった非構造壁を有している.これらの壁の多くは,建築基準法施行令の耐力壁の規定を満足しておらず,非構造壁として分類されてきた.この非構造壁は構造設計においては無視されるか,柱との取り合い部分に数cmの隙間(構造スリット)を設けて構造部材と完全に分離している.しかし,これまでに構造スリットを有するあるいは有しない腰壁・垂れ壁が梁の構造性能に与える影響は検討されてこなかった.そこで,非構造壁の有無,構造スリットの有無,および入力せん断力の大きさなどをパラメータとした部材実験を実施し,破壊性状の違いを確認し,合理的な数値モデル化の方法を提案した.