3.10.4 有珠山における噴火後の地殻変動

 有珠山は最近では1910年・1943年・1977年・2000年に噴火し,数10mをこえる地殻変動が記録された.有珠山において火山活動時の地殻変動が大きいのはマグマの粘性が高いからであるが,火山活動時に貫入したマグマの物性については必ずしもよく理解されていない.そこで,我々は1992年から2017年までの合成開口レーダーデータの干渉解析により,有珠山溶岩ドームの地殻変動の時空間変化を抽出することを試みた.その結果,1943年・1977年・2000年噴火にともなう溶岩ドームでは明瞭な沈降が観測されたが,1910年噴火に伴う溶岩ドームでは明瞭な地表変動が観測されなかった.マグマ貫入体積が小さかった2000年噴火にともなう溶岩ドームにおける沈降は短い時定数で減衰したが,貫入体積の大きかった1943年・1977年噴火にともなう溶岩ドームの沈降はほとんど減衰が見られなかった.観測された沈降の時空間変化は貫入したマグマの熱収縮によりよく説明できる.観測を最もよく説明する熱拡散係数は実験室で求められる岩石の熱拡散係数よりも約1桁大きい.これは,1) 有珠山の地下には地下水が豊富にあることから,地下水の流動が熱を効果的に拡散させている,2) マグマが固化する際の相転移により体積が減少している,のどちらかもしくは両方によるものと考えられるが,定量的な考察を行うには今後の研究が必要である.