3.11.1 陸域地震・地殻変動観測研究

(1) 陸域における地震観測

(1-1) 広域的地震観測

関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.名古屋大学から移管された長野県大鹿村の大鹿観測点は,2017年12月14日から短周期地震計のデータ送信を開始した.この観測点は,糸魚川―静岡構造線南部に位置し,中央構造線のすぐ近傍にあり,それらの構造線に関連した断層の活動と地震活動との関係を知ることで,内陸における地震発生を理解するのに必要な観測点である.

全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.

 (1-2) 臨時集中観測

日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行ってきた.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まり,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムでデータを収集している.

長野県北部では,2016年6月~7月頃に風吹岳大池付近を震源とした群発地震が発生した.この地域は,糸魚川―静岡構造線の北端に位置し,北北東―南南西の走向に活断層が連なる地域であり,地殻内の震源も同様な方向に分布していた.南隣に位置する神城断層では,2014年にM6.7の地震が発生し,そのときも,この地域では若干の地震活動が観測されていた.今回の地震活動は,とても浅いことと徐々に活動域が広がっていることから,震源地の近傍に臨時観測点を4点設置し,詳細な震源分布を得ることができた.その結果,この群発地震活動は,深さが2~5㎞に分布するが,神城断層の断層面上には位置せず,2014年の地震とは直接的な関係が無いようであった.地震活動域は,第四紀に活動があったと考えられている風吹岳周辺に集中していて,風吹岳の火山活動との関連が示唆される.その後,地震活動度が低下したため,小谷村の施設内に残してあったテレメータ観測点は,2017年5月に撤収した.

 (2) 地殻変動観測

 南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.観測は1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山,弥彦及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置された深い縦坑を用いたボアホールや横坑での観測によって実施されている.前者においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,後者においては,最近開発されたボアホール地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計から構成されている)あるいは水管傾斜計を用いて観測を継続している.得られた観測データについては,2018 年2 月に開催された地震予知連絡会において富士川,弥彦及び鋸山における観測結果を報告した.2018年2月の地震予知連に提出した鋸山観測所の記録を図3.11.1に示す.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.

 2016年4月16日に発生した熊本地震においては,「GPS大学連合」としてGNSS余効変動調査を実施している.地震研からは震源域南西延長上の3点において観測点を設置して観測を継続している.

 (3) 2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答

2011年東北地方太平洋沖地震の後,大きな余効変動が観測されており,それに伴い日本列島でも活発な地殻活動が観測されている.そのため,東北地方から関東地方にかけての地域において,地震観測をはじめとするさまざまな分野にわたる総合観測及び東北日本弧の地殻・マントル構造を明らかにするとともにレオロジーモデルの構築を行い,観測データと得られたモデルに基づくシミュレーション結果との比較を通じて,今後の内陸地震や火山噴火の発生ポテンシャルの評価を目指す総合的研究を,地震予知研究センター・地震火山噴火予知研究推進センターと共同で実施しているところである.本年度は,阿武隈山地に展開された63点の臨時稠密地震観測網の自然地震データから逆VSP(Vertical Seismic Profile)解析による地殻内のS波反射面のイメージング解析を行った(地震予知研究センターの章参照).

(4) 茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

 本センターは,地震予知研究センター・地震火山噴火予知研究推進センターと共同で,2011年の東北地方太平洋沖地震により誘発された茨城県北部・福島県南東部の地震活動とその時空間発展を明らかにするために,約60点の臨時地震観測点を展開し維持している.これらの観測点の連続波形記録の統合処理を行い,2011年7月から2017年3月までに発生した地震に対しては相対走時差データを用いて詳細な震源再決定を行った.得られた震源分布から,当該領域の変形機構の地域性が見られることがわかた.(地震予知研究センターの章参照).

(5) 紀伊半島南部におけるプレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出

 スロースリップイベントや深部低周波微動等の多様なプレート間の滑り現象を規定する地下構造異常の抽出を目的とした観測研究を,地震予知研究センター・地震火山噴火予知研究推進センターと共同で実施している. 2017年は,深部低周波微動活動が不明瞭な領域の紀伊半島中央部で稠密自然地震観測を実施した.臨時地震観測点は,和歌山県紀の川市から串本町に至る約90㎞の測線上の90カ所に設置した.また,測線下の詳細なP波速度構造や沈み込むプレート・島弧モホ面の形状を把握するために,制御震源地殻構造探査を実施した.(地震予知研究センターの章参照).

(6) スロー地震モニタリング

西南日本に発生する深部低周波微動・深部超低周波地震は,プレート境界のすべり現象であるスロー地震のうち地震波を放出する現象であり,プレート間カップリングを考える上でも重要である. 西南日本で発生するスロー地震のうち,深部超低周波地震のマッチドフィルター法による自動検出システムを構築し,2004-2017年の活動推移や長期SSEへの応答性を解明した(Baba et al. 2018).豊後水道で長期SSEが発生した時に豊後水道での深部超低周波地震活動が活性化すること,その活性化領域が2010年と2014年では異なり,長期 SSEの大きさや活動範囲を反映することなどが分かった.また,豊後水道から愛媛県西部にかけて,2014年後半以降に深部超低周波地震活動が低下しており,プレート間の固着強度が長期的に変化している可能性を示した(図3.11.2).同様の解析を紀伊・東海地方でも行ったが,超低周波地震の検出数自体が少なく,明瞭な活動度の時間変化は見られなかった.

深部低周波微動発生域では,短期的SSEを伴う微動活動の他に,遠地地震の表面波によってトリガーされる誘発微動が知られている.その詳細な活動様式を解明する目的で,マッチドフィルター法による誘発微動の検出を継続的に行なった.短期的SSEに伴う微動活動と誘発微動の振幅は,紀伊半島北東部では変わらないのに対し,四国西部では誘発微動の振幅が大きくなる傾向にあることを示した.

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明」において,愛媛県南部及び高知県西部の合計3点における広帯域地震計臨時観測を継続するため,不具合の見られる地震計の交換などを行った.また,大分県東部及び愛媛県西部に広帯域地震計観測点を新たに3箇所設置した.南海トラフ近傍で発生する浅部超低周波地震と内陸下で発生する深部超低周波地震の解析をそれぞれ行った結果,サイズの統計分布が普通の地震とは異なることが分かった.さらに,浅部と深部では超低周波地震の特徴的な大きさが異なり,内陸の深部超低周波地震の方が検出が難しく直上での観測が重要になることなどを示した.

(7) 鳥取県西部地震震源域における稠密地震観測

鳥取県西部および島根県東部地域では,京都大学・九州大学等と共同で,臨時地震観測点を展開した.この地域は,2000年鳥取県西部地震(M7.3)の震源域で,その震源域を取り囲み,約1km間隔の1000ヶ所に設置した超稠密地震観測である.地震計は上下動成分だけであるが,その約8割の地点においては,携帯電話(FOMA網)を利用してデータ伝送を行った.ただし,消費電力を抑えるため,1日に4回(6時間ごと)にまとめて伝送することにして,単一乾電池48個だけで1年間稼働させる予定である.100Hzサンプリングで,24bitの分解能でAD変換し,連続収録したデータは,現地のSDカードでも蓄積させている.設置場所は,主に道路脇や民家の軒先で,センサーは埋設するか露岩等に接着剤で固定した.

ほとんどの観測点で,順調にデータが収録されていて,それらを用いた自動処理の結果では,観測網内であればM-1程度の極微小地震まで収録できている.震源分布は,2000年鳥取県西部地震直後の余震分布と同様に,主に北北西―南南東走向に連なり,その走向に直交する分布がいくつか見られる.震源域の南部では分布の幅は狭く,震源域の北部では枝分かれして広がるといった震源分布の特徴は,地震発生から約18年経過した現在も同様に見られる.ノイズレベルが低く,S/Nが良好であるため,P波の初動がうまく検知でき,その押し引き分布から発震機構解を精度よく決めることができた.予察的な解析によると,2000年鳥取県西部地震の震源断層とは異なる走向の断層面を持った地震が見られた.さらに,この地震を発生させた応力軸の方向に対して,必ずしも整合的な地震だけが起きているわけではなく,正断層も含む様々な発震機構の地震が観測された.これらの地震活動と,地表面で見られる地質断層との比較等から,地殻内の地震断層の分布やそれを作り出す応力場の状態等を推定し,断層の発達過程の理解に資する情報を得ている.

地震計は,主に物理探査に用いられてきた固有周期4.5Hzと2.0Hzの上下動地震計であるが,遠地の大地震から伝播した周期数秒の地震波をとらえることができた(適切なフィルタを用いると).その波群には,初動P波や初動S波だけでなく,様々な後続波が含まれていた.それらの波群の到来方向は,必ずしも震源方向と一致するとは限らず,別の方向から伝播したり,平面波でなかったりしていて,この地域の地下構造の不均質に起因するものと考えている.振動継続時間も地域によって異なり,地盤の違いを知ることができる情報が取得された.

(8) 汎用的な利用が可能な稠密地震観測網の開発

地域ごとの不均質な揺れを知るために,加速度計を用いた地震観測システムの開発研究を行っている.その場所の揺れは,地盤構造や建築物等の違いによって異なり,被害に差が生じることが知られている.この差を考慮した耐震対策の優先順位や効果的な救援・復旧手段を講ずるためには,多くの地点で揺れを測って,あらかじめ揺れの特性を知っておく必要がある.そこで,小型軽量で設置が容易な安価な地震計を開発することを目的として,MEMSのデータを収録する安価な装置を開発している.

今年度は,FOMA回線を利用して,データを伝送する仕組みを開発し,地震研究所の地下室で試験観測を行った.低消費電力にしたため,単三乾電池4本で3ヶ月間稼動する.既存の地震計の波形記録との比較を行った結果,数gal以上の振動であれば,既存の地震計とほぼ同じ波形を記録することができた.しかし,まだノイズレベルは高く,特に100Hzサンプリングではノイズが大きいため,ノイズレベルの低いMEMSを探している.

(9) 地殻活動モニタリングシステム構築

 地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.