3.11.4 電磁気的観測研究

(1)八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測

八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した.これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.

気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,従来から八ヶ岳地球電磁気観測所の地磁気データを定期的に提供してきたが,2017年度のデータ提供から毎日,前日分のデータを自動で送付する仕組みの運用を開始した.

地磁気データから確定値を算出するアルゴリズムの開発のうち,基線値月値と局舎変化計室内センサー温度との相関を同定し,基線値の補間方法を開発した.

2016年度から2ヵ年にわたる局舎の営繕で,コンクリートの凍害防止や外壁の再塗装によって今後の安定した観測の継続を期した.

(2)東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測

東海地方の各観測点で以下の項目の連続観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.

(2-1)清川観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(2-2)河津観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測

(2-3)富士宮観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測

(2-4)奥山観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(2-5)俵峰観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測,電場観測

(2-6)相良観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測,電場観測

(2-7)舟ヶ久保観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測

(2-8)春野観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(2-9)小浜観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(3)その他の地殻活動域における連続観測

(3-1)デジタルコンパスデータを用いた偏角変化連続観測の試み

2014年6月に開始した,浅間山に設置された4台のボアホール型傾斜計に内蔵されたデジタルコンパスが計測する偏角データ(毎秒値,分解能0.01度)の収録を継続した.八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測から得られる偏角値を参照した,偏角差1時間平均値・1日平均値は,火山活動が活動的ではない期間,山頂付近の高温な1地点を除き,安定した値を示すことが確認できた.

(3-2)沖縄県石垣島・西表島における地磁気連続観測

2014年度に全磁力観測を,2015年度に地磁気変化3成分観測を開始した石垣島,西表島における地磁気連続観測を継続した.石垣島における3成分変化の安定した毎秒値収録が実現し,八ヶ岳地球電磁気観測所における地磁気変化と同期した,地磁気脈動的な周期2分以下の地磁気変化が検出できるようになった.

(4)関連する研究

神岡の重力波望遠鏡(KAGRA)サイトにおけるシューマン共振の観測を宇宙線研究所,東京工業大学などと共同で実施した2016年度のデータの内,磁場変動の振幅が観測坑内において坑外よりも大きかった結果の原因について,重力波観測用金属製真空ダクトに誘導される電流に起因する可能性を,空間の2次元近似による誘導電流の計算から定量的に示した.

 2011年東北地方太平洋沖地震に約2ヶ月先行して,岩手県内で地磁気日変化鉛直成分に異常が見られたとして,この異常と地震との関連を示唆した先行研究(Xu et al., 2013ほか)に対して,同一データの再解析を行った結果,この異常は地磁気日変化3成分間の結合と,グローバルな地磁気日変化の擾乱によって説明可能で,地震と関連づけられる異常ではない可能性を示した.