3.4.2 鉄筋コンクリート構造物の実験と耐震性能評価

 (1) 鉄筋コンクリ-ト造立体架構実験によるスラブ協力幅の検討

2011年~2014年にかけて梁部材に対するスラブの協力幅を再検討する目的で立体架構試験体合計7体の静的加力実験を実施した.柱端・梁端にピンまたはピンローラー支承により中間階を模擬して梁軸のびを許容した試験体と加力方法が従来にない特徴であり,中間階を想定した架構復元力特性,とくに終局耐力に対するスラブ筋の効果が十分に小さい層間変形角レベルでも全幅有効となりうることを実験的に実証した.2012年には補修試験体の再度載荷実験を行い,初期剛性,降伏耐力,終局耐力および靭性の性能回復を確認した. 2015年から2016年には改良したモデルで試験体の有限要素解析を行い,層間変形角と有効幅の増大の関係が概ね精度よく評価しうることを確認し,保有水平耐力算定におけるスラブ協力幅の評価法の改定案を提案した.

(2) シートによる耐震補強RC部材のせん断強度に対する接着剤強度の効果に関する研究

鉄筋コンクリ-ト(RC)構造物の耐震補強にポリエステル製繊維シートを用いる方法は,すでに十分な実験研究によってその補強効果が検証されており,建築あるいは橋梁のRC柱を主な対象にして多くの既存構造物の耐震補強工法として実用化されている.2015年度の実験ではシートを巻き付ける際に使用する接着剤の強度を増大した場合の補強効果を検証する目的で柱の実験を行った.2016年度には耐震壁試験体4体の実験を行い,補強された柱および耐震壁の実験によるせん断耐力は,実用設計で用いられてきた接着剤の強度(剥離エネルギー)を考慮したせん断耐力式において限界剥離耐力を修正することで従来の補強効果と同様に評価しうることを検証した.

(3) 倒壊限界と地震動被災を考慮した津波による建物の崩壊メカニズムに関する研究

建築構造物が津波によって倒壊するときの津波荷重の評価法を水理実験および解析により検証している.東日本大震災では津波による建築物の倒壊被害がみられたことから,過去の研究にもとづいて津波避難ビルの設計荷重が提案されたが,被害事例や従来の実験では一般性に限界がある.2014年10月にはピロティ建物の1/8試験体3体の水理実験を港湾航空技術研究所で実施して,ピロティ構造に作用する津波荷重(孤立波)の評価法,地震動による損傷が倒壊限界に与える影響を実験的に検証した[図3.4.2].2016年11月には,4層1/10模型試験体4体を製作して,電力中央研究所地球工学研究所(我孫子市)の津波氾濫流水路実験装置を用いて鉄筋コンクリ-ト建物が,連続波津波および漂流物の影響によって崩壊に至る挙動を実験的に検証した[[図3]連続波津波と木造漂流物による模型試験体の倒壊].2017年度には地震研究所で同じ設計の試験体を静的載荷により崩壊させる実験を行う.

[図3.4.2]

(4) 梁の曲げ挙動に対するスラブの協力幅評価法に関する部材実験

現在,建物の崩壊形としては,全ての梁端と1階柱脚に曲げ降伏が生じる全体崩壊形が推奨されている.この崩壊形は,建物全体で地震のエネルギーを吸収するため,効率がよい.しかし,梁にはスラブがとりついており,このスラブ内の鉄筋などが梁の曲げ挙動,例えば曲げ終局モーメントに影響を与える.曲げ終局モーメントの上昇は,建物全体の強度上昇につながるため有利となるが,個材で見ると,梁のせん断破壊を誘発する危険性がある.そこで,せん断余裕度とスリットつき腰壁の有無をパラメータとしたスラブ付き梁試験体を6体製作し,部材実験を実施した.その結果,比較的早期にスラブ全幅が梁の曲げ終局モーメントに対して有効となること,スラブ圧縮側でも若干曲げ終局モーメントが上昇すること,しかし,従来の片側1mの幅でのスラブ筋を考慮した曲げ終局時せん断力に対して1.1倍のせん断余裕度を確保しておけば充分な変形性能が得られることを明らかにした.

(5) 非構造壁を有する梁の構造性能評価法に関する研究

多くの鉄筋コンクリート造建物は,腰壁や垂れ壁といった非構造壁を有している.これらの壁の多くは,建築基準法施行令の耐力壁の規定を満足しておらず,非構造壁として分類されてきた.この非構造壁は構造設計においては無視されるか,柱との取り合い部分に数cmの隙間(構造スリット)を設けて構造部材と完全に分離している.しかし,これまでに構造スリットを有するあるいは有しない腰壁・垂れ壁が梁の構造性能に与える影響は検討されてこなかった.そこで,非構造壁の有無,構造スリットの有無,および入力せん断力の大きさなどをパラメータとした部材実験を実施し,破壊性状の違いを確認し,合理的な数値モデル化の方法を提案した.