3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

地球上部マントルで観測される地震波速度異方性は,弾性異方性を持つかんらん石の結晶軸選択配向(CPO)が主要な原因と考えられている.一般的に,CPOは粒子回転を生む転位クリープによって発達すると説明される。最近,我々は,これまでCPOが発達しないと考えられてきた拡散クリープ下におけるCPOの発現を実験的に示した。結晶学的低指数面に平行な粒界(低指数面粒界)において選択的にすべりが生じ,このすべりに従う方向に,剛体的に粒子が回転する新たなCPO発達モデルを提案した。この実証のため拡散クリープ下での実験試料の表面観察を行い、粒界すべりに伴う粒子スイッチンングおよび粒子回転の存在を明らかにした(Maruyama & Hiraga 2017a)。次に、マントル深度に応じた様々な安定な鉱物における低指数面粒界の発達を調べ拡散クリープ下でのCPO発達を予想したところ、全マントル内での地震波速度異方性深度域と良い一致を示した。これを元に、全マントル拡散クリープ(超塑性)説を提唱した(Maruyama & Hiraga 2017b)。この拡散クリープ下でのマントルの粘性率の推定を行っている。具体的には、粒界に偏析する元素を添加させオリビンレオロジーへの化学効果を調べること、粒成長と拡散クリープの拡散メカニズムの共通性を探り、地球内部での粒径変化と粘性率変化を同時に明らかにすることを試みている。