3.3.5 地球化学分野

「地球化学グループ」は,火山の諸現象,地球や惑星を構成する物質の進化,地球内での物質循環などを探求する研究を,微量元素,同位体などのトレーサーを用いた地球化学的手法で行っている.

海底熱水鉱床の活動の持続時間は,鉱床の規模や,そのエネルギーを利用する生物群集の進化に大きな影響を与える点で重要であるが,体系的な研究は少数である.南部マリアナトラフと沖縄トラフの熱水鉱床の硫化鉱物について, 234U-230Th年代測定と共存する重晶石のESR年代測定を集中的に行い,沖縄トラフでは二つの年代測定結果が一致しないため,その原因について考察した.沖縄トラフの試料は,UやThの濃度が3桁にもわたり大きく変動していて,UやThが開放系になっていることを示唆する結果が得られた.更に広い地域の試料が,U/Th – 1/Thのプロットでミキシングラインを形成しているように見える.混合線の一つの端成分はTh濃度が高い鉱物が候補として考えられる.沖縄トラフで,マリアナトラフには見られない,Th濃度が高い試料が存在しているのは,海洋底を厚く覆う大陸地殻起源の堆積物と熱水との相互作用により熱水がThを運んでいるためと考えられる.また230Thも移動しているため,234U-230Th年代が鉱物形成の年代を示していないと考えられる.

次に火山岩のみならず,変成岩や堆積岩の微小部分,例えば個々の斑晶鉱物やメルト包有物,さらには鉱物結晶の累帯構造の各部分に残された記録を読み解いて,マグマや源岩の化学進化を解明する研究も同グループの重要な課題である.2004年度に導入された213 nm 波長Nd:YAG レーザーアブレーション・システム (UP-213 型) と旧型ICP 四重極型質量分析計 (VG PQ3 型) を独自に改良することで,高感度・低バックグランドの分析を可能とし,国際レベルの分析精度を達成している.同分析装置を用いて 1)ジルコン・ルチル・アパタイト結晶の局所U-Pb 年代測定,2) 同一ジルコン粒子を用いたFT年代・U-Pb年代のダブル年代測定, 3) 鉱物・メルト包有物の局所微量元素分析,4) XRF 分析装置とカップリングして行う迅速性の高い主・微量元素全岩分析を精力的に行っている.現在,前述した研究テーマで,国内の研究者ら,および国外ではロシアやチリ,アルゼンチン,ブラジル,トルコ, USAの研究者らと共同研究を実施中である.

[図3.3.3]

また,火山岩や隕石中に含まれる希ガス同位体組成を調べ,それをもとに火成活動の時空分布,惑星内部からの脱ガスや大気形成過程,惑星の形成・進化史の解明を目的とした研究も行っている.希ガスは不活性なため物理的プロセスを探求するのに有用なトレーサーであり,また4He ,40Ar ,129Xe など年代測定に応用できる放射起源同位体を有する.現在は特に,小惑星や月起源隕石の希ガスデーターにもとづく惑星形成時の熱源や熱史の解明,地球型惑星の大気進化モデル構築,隕石・衛星データによる火星火山活動史の解明とクレーター年代等をもとにした年代学探査着地点検討,および将来の月惑星探査機への搭載に向けた「レーザー照射源を用いるK-Ar 年代測定システム (小型LIBS-MS システム) 」の開発などを進めている.また,はやぶさ2 探査の試料採集・分析に関する共同研究や火星衛星探査計画(MMX)および火星着陸探査技術実証WG (いずれもJAXA 他) に参加している.