3.2.3 地震,地殻変動等の最先端観測や新しい観測の試み

(a) 南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験

南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサを設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行ってきた.これまでに地質断層面上にだけ非常に強く集中して,ほぼ定常的におこるM-4からM-2の活動の存在を発見し,さらにその中には非常に多くのM-4程度のリピーター活動があることを報告していた. 昨年度,京都大学と共同して,このリピーター活動を14ヶ月間にわたって追跡した結果,リピーター群のうち1/3程度のものにおいては,イベントの繰り返しが進むにつれて,イベントのMが漸減していく傾向があることを見出した.今年度は,多重比較に対するペナルティーをとりいれた統計検定を行い,このような傾向をもつリピーター群は活動度も漸減する傾向にあること,また,逆に観測期間の途中から出現し,活動度が漸増するリピーター群も存在することを見い出した.さらに,リピーターの活動の漸減と漸増が,空間的に非常に近接(~0.5m)したリピーター群たちで同時に起きている例が多く見い出された.これは,それぞれの群でのリピーター活動の消長が,断層の巨視的なクリープ速度の増減ではなく,リピーターをおこしている断層面凹凸の噛み合いの変化によっているだろうことを示唆する.断層の物質的状態変化が観測から示唆されたのは世界で初めてである.

  また,東北大学と共同して,南アフリカの金鉱山の地下3.3kmでおきたM2地震(破壊域サイズ約100m)の破壊域をつらぬくボーリングコア(地震後に採取),及び,事前に採取してあった破壊域近傍のボーリングコアを用いて,破壊域周辺の応力分布を推定している.これまでに、ブレークアウト,ディスキング,DCDA法,及び,本震の断層の滑り方向からの拘束を全て満すような応力状態を探した結果,M2.2地震の破壊域周辺では、差応力が静岩圧より何倍も大きく,起震断層の摩擦強度が高かった(摩擦実験で得られる摩擦係数約0.7を大幅に下回るようなことはない)こと,破壊域の主要部がその中に位置する貫入はんれい岩(厚味30m)と周辺の母岩(珪岩)中では,大きく応力状態が違うことを見い出していたが,今年度は,新たにDRA法による絶対応力測定に着手し,現在までの結論と矛盾しないこと,DRAによるデータを増やすことで応力状態の推定幅がより狭められる可能性があることを見い出した.

(b) 見通し外VHF帯伝播異常と地震発生の相関

北海道大学が行っているえりも地域でのVHF帯の見通し外放送局からの伝播異常観測のデータ約9年分(2006年1月1日から2014年12月31日まで)を同大と共同して解析した.スポラディックE層の出現時期を除いた期間について, 受信強度が12分連続して閾値を超えたあとの4日間に警報を出すというルールで警報マップをつくり,日高地域に発生したM5以上の地震と比較したところ,警報期間が対象期間の17%しか占めないのに対して,24個の地震のうち29%が警報期間におこっていた.この結果は,地震と異常が関係ないとした場合に比べて2倍の情報ゲインがあり,偶然の一致である確率は5%を切っている.また,2016年4月14日夜から始まった熊本地震の直前にあたる同日未明に,島原で観測していた宮崎放送局からの信号に異常伝播が記録されていた.しかし,2015年1月1日から2016年11月30日までの記録全体に対して行った同様の解析では,異常の発生と地震の発生に統計的に有意といえるほどの相関はみつからなかった.