3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 大きな SSE を含む地震サイクルシミュレーション研究

昨年度の遷移域で大きなSSEがおこるような地震サイクルの連続体シミュレーションにより,SSE後短期間 (1ヶ月程度) に地震が起きる確率が非常に高いという結果が得られた. 今年度は,SSEから地震までの待ち時間の分布を、RSF則による遅れ破壊であると考えて,一自由度 のバネーブロックモデルによる考察で, 連続体シミュレーションで得られた待ち時間の確率分布を定量的に理解することを試みた.連続体シミュレーションの結果を参考に,通常の一定速度での載荷に加えて,地震サイクルの 1/3 程度の周期で大きな (地震の静的応力効果の 1-3 割程度) ステップ的応力増加を加えるシミュレーションを行ない,サイクル中三度目の応力ステップを与えるタイミングを様々に変えて,地震がおきるまでの待ち時間を調べたところ,SSE が大きいほど待ち時間が0近くに集中するようになる傾向はみられたが,その集中度は連続体でのサイクルシミュレーションで得られたものより格段に低いことがわかった.一方で,1自由度モデルでの結果は,連続体中での自発的震源核の加速的発展を近似し,余震の時間遅れの説明に使われている Dieterich (1992) の式とは整合しており,この違いが何処から来るのかについては答えが見い出せていない.

(1-2) 断層破壊数値計算法の理論的基礎づけ

近年,地表面や二層媒質境界面など不連続面で区切られた不均質媒質を考慮した断層破壊計算手法の定式化が提案され実装が試みられている.本年度は,2 次元動的破壊問題において媒質境界破壊の取り扱いに必要となる時刻更新スキームを提案し,計算コードを作成して検証した (Kusakabe & Kame, 2017).

(1-3) 地震即時重力変化検出の研究

「即時地震重力変化」の検出に挑戦し,観測データの解析と理論モデル構築の両方を行った.データ解析では,意に反して「既存理論モデルから予測される重力信号がデータ中に同定できない」結果となったが,それを説明する新たな観測モデル(無限媒質中では即時重力と慣性力が完全キャンセルしセンサー出力がゼロになる)を提案した.これを定量的に評価した所,非常に説得力のある結果を得た.重力観測に基づく検出の限界を明確に示し,これを受け重力歪み計による検出の方向性を示した.

(1-4) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られているが,大地震は低頻度なので,このような現象を定量的経験則として確立することは容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明することにより,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指している.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,地震活動の背後にある物理過程に関する研究をこの数年行っている.2017年度においては,潮汐など周期的応力摂動に対する地震発生率の応答に関する研究を行った.断層における破壊核形成過程の簡単なモデルを解くことで,周期的外力の位相に関する地震発生確率分布の解析的表現を得た.この結果は,摂動外力に対して地震発生率が指数関数的に増大することや,摂動外力と地震発生率変動の位相のずれなども微視的パラメタを用いて定量的に予言している.観測データとの比較検討や,より現実的な状況への一般化は今後の課題である.