3.5.1 陸域機動地震観測

 (1) 内陸地震発生域における不均質構造と応力の蓄積・集中過程の解明

(1-1) 2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震以降,本震時のすべりと余効変動により内陸地震の震源断層域の応力状態が変化し,東北地方を中心に地震活動が変化した。阿武隈山地南部では,本震の1ヶ月後の4月11日に福島県浜通りの地震(M7.0)が発生した。阿武隈山地南部で地震活動が活発化したことにより63点の臨時稠密地震観測網が展開されている。稠密地震観測網で観測された阿武隈山地南部の浅部で発生した自然地震を用いて,震源と速度構造の同時インバージョン解析により震源位置と速度構造を求めるとともに,その値を用いて逆VSP(Vertical Seismic Profile)解析による地殻内のS波反射面のイメージング解析を行った。

その結果,阿武隈山地南部においては,15~20㎞(反射面1)と30㎞程度の深さ(反射面2)において顕著な2つの反射面が検出された。この地域の地震活動は,地殻浅部(10㎞以浅)の顕著な活動域に加えて,地殻中部15~20㎞の深さにも明瞭な活動域があり,得られた反射面のうち,反射面1は深さ15~20kmの地震活動域下部に存在した。これは先行研究(例えばTong et al. ,2012)によって低速度・高ポアソン比とされる領域の上端に位置する。この領域の上端に顕著な反射面が確認できたことは,地殻内流体の存在を強く示唆するものである。また,この反射面の上部に地震活動域の存在が確認されたことから,阿武隈山地南部の地殻中部での地震活動は,地殻流体によって引き起こされた可能性が考えられる。また,反射面2は,この地域での既存のモホ面の深さ分布(例えば、Katsumata,2010)とおおよそ一致していることから,モホ面であると考えられる。

文献

臼田 優太,反射法解析を稠密アレイ自然地震記録に適用した阿武隈山地南部の地殻構造の研究,東京大学修士論文,2018年

(1-2) 茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網(約60点から構成)の維持・整備を実施するとともに,それらのデータと周辺域の定常観測点のデータとの統合処理を行った。2011年7月から2017年3月までに取得された連続波形記録に対して自動処理を施すことで,活発な地震活動を検出した。その後,地震波形の相互相関法に基づいて抽出した相対走時差データを用いて,約28万個の震源(M > ~0)を再決定した。震源域の南部では,南西傾斜と北東傾斜の断層面を示す震源の並びが複数見られ,これらは共役関係にあることが推察される。一方,中央部では南西傾斜の幅の薄い面状の震源分布となり,変形が局在化していると考えられる。さらに,北部では,南西・北東傾斜の多数の地震クラスターが広い領域にわたって分布し,体積的な変形が起きていると解釈できる。このように1つの地震活動域においてすら,領域によって変形機構に違いが見られ,地震活動の特徴を理解する上で重要な知見が得られた。

 (2) プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明

 (2-1) 紀伊半島におけるプレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出

深部低周波微動活動度が異なる地域下での沈み込むプレートやマントルウエッジの構造を高分解能で明らかにし、それらを比較することで、スロースリップイベントや深部低周波微動等の多様なプレート間の滑り現象を規定する地下構造異常を抽出する研究を進めている。2017年は、深部低周波微動活動が不明瞭な領域の紀伊半島中央部で稠密自然地震観測を実施した。臨時地震観測点は、和歌山県紀の川市から串本町に至る約90㎞の測線上の90カ所に設置した。観測は2017年6月20日から2017年12月20日まで実施し、各観測点では、長期間収録型地震観測装置と固有周波数1Hz の地震計によって上下動及び水平動の3成分観測を行った。また、測線下の詳細なP波速度構造や沈み込むプレート・島弧モホ面の形状を把握するために、制御震源地殻構造探査を実施した。測線は、和歌山県有田川町から古座川町に至る約60kmの区間に設定し、測線上の4か所で発破を行った。薬量は、すべての点で200kgである。これら発破による信号を観測するために、測線上の302ヶ所に短期間収録型地震観測装置を設置した。観測は2017年8月20日から9月6日まで実施し、各観測点では、固有周波数4.5 Hzの地震計によって上下動及び水平動の3成分観測を行った。気象庁一元化震源カタログによると、観測期間中(2017年6月20日から2017年12月20日)には、研究対象地域(33.35°-34.5°N:134.95°-136.1°E)で5,901個の地震の震源が決定されている。また、深部低周波地震の発生も報告されている。得られた連続記録から、これら地震の震源時刻と発破時刻に従って、イベント毎へのデータ編集を実施した。発破記録は良好で、初動到達後に、深部地殻内や沈み込むフィリピン海プレートからの反射波と考えられる明瞭な後続波が確認できるデータが取得できた。今後、地震波速度構造解析、反射法解析を実施し、深部低周波微動活動が不明瞭な領域の地殻構造を明らかにする予定である。