3.5.10 ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯の研究

オーストラリア・プレート上にあるニュージーランド北島の下には,東から太平洋プレートが沈み込むことによって, ヒクランギ沈み込み帯が形成されている.特にこの地域は,関東地方と類似して陸域下での浅い沈み込みが進行し,プレート境界の物理特性とその挙動を明らかにする上で格好の地域である.海底資源の調査のため,およそ10 km間隔でひかれた海溝軸に直交した測線で人工震源を用いた地震波構造調査も行われており,海域下のプレート境界の形状も詳細に把握されている.2009年以来,当センターでは,ニュージーランドGNS Science,ビクトリア大学ウェリントン校及び南カリフォルニア大学と国際共同観測研究を実施してきた. 海陸統合制御震源地震探査からは,北島下に沈み込む地殻の厚い(~12 km)ヒクランギ海台やプレートの沈み込み形状の構造が明らかになった.また,散乱波を用いた解析によって,プレート上盤側のワイララパ断層のイメージングに成功した.

 A: スロースリップ発生域周辺における,地震観測および構造調査

2014年5月から2015年6月にかけて,ヒクランギ沈み込み帯北部においておよそ2年間隔で周期的に発生するスロースリップを観測することを目的として,日・NZ・米の国際協力による大規模な海域地球物理観測を行った.本海域では,人工震源地震波構造調査によって,沈み込んだ海山や,その沈み込み前方に見られるプレート境界からの反射強度が強い場所,すなわち水の含有量が大きいと考えられる領域が確認されている.本観測では,地震研究所から海底地震計5台,海底圧力計3台,東北大学・京都大学から海底圧力計4台,海洋研究開発機構から海底電位差磁力計3台,コロンビア大学から海底地震・圧力計10台,海底圧力計5台,テキサス大学から海底圧力計5台の総計35台の海底観測機器を使用した.観測期間中の2014年9~10月には,2000年ころから整備された陸上GPS観測網によって捉えられたスロースリップとして,2番目に規模の大きなスロースリップが本海底観測網内で発生し,これによる地震活動,海底地殻変動などを観測するのに成功した.海底圧力計のデータからは,その断層すべり分布が詳細に求められた.その結果,断層すべりは沈み込んだ海山を避けるように分布していること,断層すべりの一部は海溝軸近傍まで達していることが初めて明らかとなった.さらに海底地震計の解析から,海域下において初めて微動の発生が確認された.この微動活動について詳しく調べてみると,スロースリップにおけるプレート境界面上の断層すべり運動が終了するころになって活動を開始し,その後2週間にわたって連続的に発生していることがわかった.現在も国際協力のもとで,地震活動に関する解析が進行中である.

2017年11月には,ヒクランギ沈み込み帯全域にわたる構造を調べるため,海域には海底地震計を設置し,北島全長に渡るヒクランギトラフに沿った測線,それに平行なトラフ軸海側の測線,さらにはヒクランギトラフに直交する北島北部,南部の2測線において,エアガン発震を行った.海底地震計では良好なデータが取得され,今後国際協力によってデータ解析が進められる.

B: タウポ背弧リフト帯における稠密地震観測

大陸背弧リフト形成過程の理解を深めるためには、まさに、今、リフティングが起こっている場所を調査することが非常に有効な手段である。現在リフティングが起こっているニュージーランド・北島のタウポ背弧リフト帯に位置するPlenty湾では、2017年にアメリカ・ニュージーランド・イギリス・日本が共同で実施するSHIRE(Seismogenisis at Hikurangi Integrated Research Experiment)プロジェクトによってエアガン発震が実施される。そこで、タウポ背弧リフト帯の地殻の形状、地震波速度構造、反射面分布を高分解能で得るために、ニュージーランドの GNS Science、Victoria University of Wellington、アメリカのTulane Universityと共同で、Plenty湾岸の陸域に地震観測点を約2㎞間隔で25台設置し、エアガン発震及び自然地震の観測を実施した。観測は2017年10月18日から実施し、各観測点では、固有周波数4.5 Hz の地震計によって上下動及び水平動の3成分観測を行った。収録は、Geospace社製の独立型レコーダであるGSX-3を用い、サンプリング周波数を500Hzに設定して、約40日間の連続収録をおこなった。GeoNetデータベースによると、観測期間(2017年10月18日~2017年12月6日)の間で、研究対象地域(37°-38.5°S:176°-177.5°E)で366個の地震の震源が決定されている。これら地震の震源時刻とエアガン発震時刻に従って、イベント毎へのデータ編集を実施した。エアガン発震記録からは、初動到達後に、深部地殻からの反射波と考えられるイベントが確認できる。今後、地震波速度構造解析、反射法解析を実施し、タウポ背弧リフト帯の地殻構造を明らかにする予定である。